データで考える子どもの世界

第1回 部活動の役割を考える

子どもたちに適切な活動の機会を提供するために その1

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生
2018.07.25

 

はじめに

 2018年3月、スポーツ庁は「運動部活動のあり方に関する総合的なガイドライン」を発表した。ここには、科学的な見地から運動部の活動に休養を取る必要について述べ、①週に2日以上の休養日を設ける、②長期の休養期間(オフシーズン)を設ける、③1日の活動時間は平日2時間、休日3時間程度とするという方針が盛り込まれた。確かに、過度な部活動はさまざまな点で問題がある。スポーツに関して言えば怪我のリスクを高め、成長期の心身の発達にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。運動部に限らず文化部だって、特定の活動だけを集中的に行うことは、多様な経験に触れる機会を奪う。中学生・高校生という成長期にはバランスのよい経験が必要であり、その余裕すらない部活動は見直しが必要だろう。

 この「ガイドライン」は「部活動週休2日」ばかりが注目されがちだが、それとは別に部活動について考えるべき論点が示されている。それは、部活動が果たしてきた「教育的な価値」をどう継続していくかということだ。運動部の活動は体力・技能の向上だけでなく、人間関係づくりや自己肯定感、責任感、連帯感といった社会で活躍するために必要な力、すなわち「社会情動的スキル」の向上に大きな役割を果たしてきた。その一方で、少子化による生徒の減少、教員の勤務時間削減の必要など、いままで活動を支えていた基盤が弱まっている。このような状況下にあって、子どもたち一人ひとりにあった活動の機会をどう保障していけばよいか。時間の多寡は重要だが、それだけに論点を帰着させるのではなく、部活動の成果と課題の双方をバランスよく見て、今後のあり方を考える必要がある。

 そこで、4回にわたって部活動に関するデータを紹介し、部活動を考えるうえで押さえるべき視点を提示していきたい。まずは、「部活動の実態」である。日本の子どもたちは、どれくらい部活動に参加し、どれくらいの頻度で活動しているのだろうか。また、そのことを、子どもたち自身はどう感じているのだろうか。まずは、事実関係から明らかにしていこう。


 

その1 部活動の実態

■部活動の加入率

 今の子どもたちは、どれくらいの割合で部活動に参加しているのだろうか。はじめに、部活動の加入率を見てみよう。

 図表1は、ベネッセ教育総合研究所が東京大学社会科学研究所と共同で実施している「子どもの生活と学びに関する実態調査」の結果をもとに、「部活動の加入率」を示したものである。ここからは、中学生の8割、高校生の7割が部活動に参加していることがわかる。ただし、調査は7~9月にかけて実施しているため、中3生、高3生で「入っていない」の比率が高い。この点を考慮すると、中学、高校とも1割程度、加入率は高まるものと推測される。実際に、全国学力・学習状況調査の中3生4月のデータでは、運動部66.2%、文化部20.3%、両方1.1%、加入していない12.3%であった。両調査の結果は、ほぼ一致している。

 学校段階別にみると、中学生は運動部の割合が、高校生はわずかに文化部の割合が高い。また、性別にみると、男子に運動部が、女子に文化部が多い傾向がある。このように、性による違いはあるとはいえ、中学生と高校生の8~9割が放課後に学校で部活動に勤しんでいる。学校が教育の一環として運動や芸術・音楽などの機会を提供していることは、日本の大きな特徴といえるだろう。

 
※画像クリックで拡大します。


■部活動の頻度

 それでは、彼らはどれくらいの頻度で、また、どれくらいの時間をかけて活動しているのだろうか。加入率の高さもさることながら、驚くべきはその活動量の多さだ。図表2は、部活動に加入している子どもに限り、週当たりの活動日数と1日あたりの活動時間を示している。活動日数の最頻値は、中学生、高校生ともに週「6日」。「6日」と「7日」を合せた割合は、中学生で6割、高校生で5割と半数を超える。文化部に比べて運動部の活動日数が多く、その差は高校生で顕著になる。運動部が、休日を含めてかなりハードな練習をしていることがわかる。

 さらに、活動時間については、「2時間台」がもっとも多いものの、「3時間台」が3割、「4時間台」が1割いる。日数を乗じて週当たりの活動時間に換算すると、中学生で平均14時間、高校生で平均13時間になった。ちなみに、活動日数と活動時間の関連をみたところ、相関係数で「.493」の正の相関がみられる。日数が多いほうが1日の活動時間が長い傾向があるということであり、熱心に活動する部活動では長時間の拘束が当たり前になっている様子がうかがえる。

 
※画像クリックで拡大します。

 

■子どもたちの意識

 このような実態について、子どもたち自身はどう考えているのかを確認しよう。「部活動が楽しい」と「部活動の回数が多くて大変だ」に対して、「あてはまる」かどうかをたずねた。その結果が、図表3である。

 「楽しい」かについては、中学生、高校生ともに9割が「あてはまる」(とても+まあ)と回答。活動の負荷が高い運動部の方が、わずかであるが肯定度が高い。部活動を続けている生徒のみの回答で辞めてしまった生徒が含まれていないが、そのことを割り引いたとしても、7~8割が加入している部活動でほとんどの生徒が楽しんでいるというのはすごいことだ。とはいえ、本来強制ではない部活動で、1割が「あてはまらない」と回答していることには留意が必要だろう。

 「大変だ」の回答には、子どもたちの本音が現れている。「あてはまる」(とても+まあ)は、中学生、高校生とも5割である。しかし、活動量が多い運動部ほど、肯定する割合が高い。「あてはまる」の比率は中学生運動部で55.7%、文化部で36.9%、高校生運動部で61.8%、文化部で31.8%である。運動部では、負担を実感している子どもも多いようだ。

 
※画像クリックで拡大します。

 

 ここまで見てきたように、部活動に加入する子どもの9割は「楽しい」と回答。学習から離れて好きなことに集中して取り組む時間は、1日の生活の中でも貴重なものであろう。

 しかし、活動量が多い運動部では、6割程度が負担を感じているのも事実だ。負担感は、活動量にも比例している。

 次回では、中学生・高校生の生活に相当の比重を占める部活動が、彼らにどのような意味を持っているのか、そのことを探っていきたい。








ページのTOPに戻る