教育フォーカス

【特集1】学びとデジタルの融合

[第11-1回]赤堀 侃司 先生 講演   デジタル教材と学習効果
              ~ 主に言語教材の研究から ~(前編)  

NPO法人教育テスト研究センター(Center for Research on Educational Testing)理事であり、白鷗大学大学教授の赤堀侃司(かんじ)先生には、過去に先生が行ったデジタル教材の研究を振り返っていただき、これからのデジタル教材に求められていることについて講演をしていただきました。講演内容を2回に分けてご紹介します。

赤堀侃司先生

赤堀 侃司●あかほり かんじ

白鷗大学大学教授(教育学部長)工学博士 東京工業大学名誉教授
著書に、「教育工学への招待(ジャストシステム)」、「授業の基礎としてのインストラクショナルデザイン(日本視聴覚教育協会)」、「解決思考で学校が変わる(ぎょうせい)」など、多数。

◎ はじめに─デジタル教材の歴史を振り返って見えてきたこと

デジタル教材の未来を考えるうえで、まず過去のデジタル教材の変遷についてお話ししたいと思います。

1970年から1980年にかけて、コンピュータが個別学習のための学習支援ツールとして注目を集め、ドリル、アニメーション、シミュレーションなど、多様なスタイルの学習ソフトが開発されました。最も単純なソフトが、ドリルタイプの教材です。開発当初は学習者に問題を提示し、正答か誤答かを表示するだけのものでしたが、次第にゲームソフトの考え方が入り、アニメーションやシミュレーションを用いた教材が開発されるようになりました。

しかし、学習というのは反復練習だけで身につくものではないという考えから、コンピュータの新しい機能を活用した教材が登場するようになりました。 その一つが、家庭教師のように個々の学習者の知識や理解に応じて間違いを指摘するなど、よりきめ細かく学習を支援するチュートリアルです。こうした教材を実現させるためには、学習者がどこで間違えているかをコンピュータが認識する必要があり、人工知能や自然言語処理、音声認識などのシステムの開発が進みました。

その後、ロールプレイなどの考え方を用いた教材や、文字だけでなく、音声や写真、動画を組み合わせたマルチメディア教材も登場しました。

大きな転換点は、1990年代にインターネットが普及したことです。デジタル教材の開発黎明期には、個別学習のための教材開発に主眼が置かれていましたが、インターネットを活用して課題について情報を仲間と調べるなど、協同学習に利用されるようになりました。教材ベースの活用から、課題ベースの活用へと転換していったのです。

上記に挙げた教材に関する過去の研究を振り返りながら、デジタル教材のこれからを考えたいと思います。

研究の全体像

図1. 全体像

1.プログラム学習のドリル

デジタル教材の原点は、ドリルタイプの教材にさかのぼることができます。ドリルタイプの教材は、「プログラム学習」という理論がベースになっています。

簡単な問題から解答させ、正解したら上位の問題を提示し、不正解の場合は、その誤りの下位の課題を提示したり、ヒントを与えたり、解説をしたりするというものです。積み木を重ねるように、基礎知識を積み重ねていくことで学習が成立するという考えから、「ブロックモデル」ともいわれます。

このプログラム学習の基になるのが、学習は行動の変容という「行動主義」という考え方です。「行動主義」の代表的な実験として良く知られているのは「パブロフの条件反射」「スキナー箱」です。しかし、後にドリルタイプの教材は批判されるようになりました。

学習は、学習者に少しずつ知識を与え、ブロックのように積み重ねるだけで成り立つのではなく、人間の内面で起こる情報処理プロセスに基づいているという「認知主義」の考え方が出てきたからです。

ただ、ドリルタイプの考え方は現在も様々な教材に活用されています。ドリルタイプの教材の有効性はどこにあるのか、過去の研究をご紹介しましょう。

(1) ドリルタイプの教材

私たちが知識を記憶したり、問題を解いたりすることができるのは、脳の働きによるものです。人間の脳は、神経細胞であるニューロンが隣のニューロンにシナプスという物質を通して電気信号を与えることでニューロン同士が結合し情報ネットワークをつくり、外部からの様々な情報を処理すると言われています。何度も練習すると脳の中でシナプスが強固に連結し、正しい解答を導きやすくなるといえます。つまり脳科学では、練習をしなくて学習できるのはまれであり、学習において反復練習が重要であることされていました。

そこで、私はドリルタイプの中国語学習ソフトを開発し、学習効果について検証しました(松下、赤堀、1995年)。この研究では、マルチメディアを用いた学習と紙を用いた学習の比較も行いました。その結果、教材による差はなく、学習効果は学習量に比例するということが明らかになりました。ただ、被験者へのアンケート結果から、次もやってみたいという継続動機は、マルチメディアの方が紙を用いた学習より高いことが明らかになりました。

(2) webベースの教材

1990年代に、インターネットが登場し、webベースの研究(RISE,赤堀、1996年、赤堀研究室HPより)を行いました。これまでのドリルタイプの教材はコンピュータが一方的に学習者に問題を与えるものでしたが、webの特性を生かし、学習者が自分で問題や解答を選択できるような形式にしました。

当時、私は日本語教育を研究していたので、外国人向けの日本語教育用のウェブサイトを開発しました。日本語で書かれた4コママンガを掲載し、そのセリフの音声を繰り返し聞けるようにしたのです。また、どこにいても自由に学習でき、マンガや問題を印刷できるようにしました。このウェブサイトは、世界中の日本語学習者から相当数のアクセスがあり、評判になり、高い評価を集めました。

この研究からは、学習者用デジタル教材には、①学習者を楽しませるアイデアがあること、②自分で学習できるように操作が簡単であること、③印刷することができて繰り返し学習できることが重要だと分かりました。

後編につづく 

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