シリーズ 未来の学校

石巻市雄勝町のムーブメント、 地域住民と支援者がつくるホンモノの自然学校

未来を生きる子どもたちは何をどう学ぶべきなのか
そこで大きな役割を果たす学校はどうあるべきなのか
「未来」といっても決して空想や夢物語ではない、実は
もう始まっている先端的な意味での未来の学校を探訪します。

【前編】 廃校になった小学校を、世界中の子どもたちとの交流の場へ [1/6]

リアス式海岸や豊かな森林、川に囲まれた宮城県の北東部に位置する石巻市雄勝(おがつ)町。2011年3月11日、東日本大震災の大津波によって町の8割が甚大な被害を受けた。その雄勝町で、今まさにムーブメントが起こっている。その名は「雄勝学校再生プロジェクト」。2001年に廃校になった旧桑浜小学校を拠点に、未来をたくましく生き抜く人間を養成する取り組みだ。

制作協力:株式会社百人組
コメンテーター:林信行(ジャーナリスト)

 「雄勝学校再生プロジェクト」のサマースクールに密着

東京から朝一番の新幹線に乗り、仙台からレンタカーで小一時間。石巻市雄勝町の漁港に到着したのは午前11時過ぎだった。県道沿いの空き地に車を止めて漁港の岸まで歩くと、百メートルほど離れた海上に漁船を見つけた。漁船には子どもを含めて10名程度の人が乗っている。

そこでは、「雄勝学校再生プロジェクト」の拠点である旧桑浜小学校での正式オープンを前に、パイロット版であるサマースクールが展開されていた。乗船していた子どもたちは、サマースクールの漁業体験プログラムを受けている最中だったのだ。漁船が岸に戻ると、引き上げた養殖のホタテとホヤを子どもたちに見せてもらう。船上では漁師さんにホタテとホヤのさばき方を教えてもらい食べたらしい。

 漁業体験、講師は本物の漁師さん

港の埠頭で、漁業体験をした子どもたちに対する漁師さんの話が始まった。教える講師は、雄勝で30年漁師をしている佐藤一(さとうはじめ)さん。佐藤さんは、漁師の仕事とはどういうものなのか、漁師になった経緯、仕事の覚え方、仕事を続ける大切さ、海と山や森との関係について、そして仕事がどれほど好きかということまで、子どもたちから受ける質問に答えながら、丁寧にわかりやすく伝えている。自然と直結する生活の営みを教わる場は、都会にはほとんどない。漁師さんの話を前に、子どもたちの眼差しは真剣そのものだ。

このサマースクールで想定している体験学習プログラムは2泊3日。地域の人たちとのふれあい、雄勝ならではの恵まれた自然や地域資源を生かして濃密にデザインされていた。たとえば、漁業体験のほかにも、旧桑浜小学校の修復に必要な竹材を加工する林業体験や農業体験、満天の星を眺めるキャンプ、伝統工芸の雄勝硯に思い出を描くワークショップなどなど。たくましく生きるための力を養うプログラムが満載だった。

 サンフランシスコから参加した外村家

サマースクールに参加していた、海外で子どもを育てている外村(ほかむら)さん一家は、大自然やその土地固有の習慣や文化に触れられる滞在場所を探し、新しい発見があるような生活体験を子どもたちにさせているという。外村さん一家のお父さんに、今年サマースクールに参加した目的を聞いた。

「子どもたちが通うサンフランシスコのクラレンドン小学校は、東北の震災のことを授業で学んでいるので、震災の跡が完全に消えてしまわないうちに子どもたち自身に肌で感じて欲しいと思っていました。そんなとき、雄勝のサマースクールを知り、漁業体験や学校を再生させるプロジェクトに参加できることがわかったからです」

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