シリーズ 未来の学校

秋田県発、 リベラルアーツ教育がグローバル人材を輩出する

未来を生きる子どもたちは何をどう学ぶべきなのか
そこで大きな役割を果たす学校はどうあるべきなのか
「未来」といっても決して空想や夢物語ではない、実は
もう始まっている先端的な意味での未来の学校を探訪します。

【後編】 ワールドクラスのリベラルアーツカレッジを目指して [1/7]

2014年4月、秋田県の公立大学、国際教養大学が創立10周年を迎えた。すべての授業を英語で実施、入学から1年間は留学生との寮生活をともにし、全学生に1年間の海外留学が義務づけられている(詳しくは前編へ)。同じく9月、文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援に採択されたこの大学は、これからの10年をどのように構想しているのだろうか。後編では学長へのインタビューを中心に、在学生の声や卒業生の現在、地域交流プログラムの取り組みなどをレポートする。

制作協力:株式会社百人組
コメンテーター:林信行(ジャーナリスト)

 人工植林型から雑木林型の教育へ

2013年6月、急逝した中嶋嶺雄前学長に代わり、国際教養大学の第2代学長に就任した鈴木典比古(すずきのりひこ)氏。開学以来、ユニークな取り組みを続けているAIUの教育方針について鈴木氏に話を聞いた。

「これまで多くの大学は、同じような考え方、あるいは学力・知識をもった学生を大量に輩出する教育でした。この教育は、私の言葉でいうと『人工植林型』の教育と言います」

20世紀、産業界は同質的な人材を大量に必要としていた。「大学が学生に手をいれてくれるな。入社してから社内で教育する」という時代だ。ところが、21世紀になって産業界も様変わり。人工植林型の教育を受けた同質的な人間では、海外はもちろん、国内でも通用しなくなってきている。

「これからの教育は人工植林型から、これも私の造語ですが、『雑木林型』の教育に変わっていくべきです。雑木林というのは、1本として同じ木はありません。1本1本の木が特長・特色を発揮しながら、上に伸びていこうとして、四季折々に森の様子が変わりとても豊かです。人間も、一人ひとりがそれぞれの活躍できる場所で個性を発揮していく時代に変わってきました」

人工植林型から雑木林型の教育は時代の要請でもある。AIUのユニークな教育方針は現在の社会ニーズとマッチしている。

「少人数で授業を英語で行う、1年生は留学生とともに寮で生活する、1年間海外に全員留学するというのが、具体的な雑木林型の教育実践です」

 インターナショナル・リベラルアーツ教育とは

AIUの特色として、インターナショナル・リベラルアーツ教育が挙げられる。校名に使うほど力を入れているこの教育について、鈴木氏は次のように語る。

「リベラルアーツは、ラテン語で『自由人になるための技芸と学芸』を意味する『アルテス・リベラレス』が語源です。語源からすると、古代ギリシャからある教育方法です。その当時の理想として追究した人間像というのは、古代のオリンピックの選手ですよね。都市国家を代表して、体力、知力、気力を4年に1回競い、1000年もの間オリンピックは続きました。そういう力を兼ね備えた全人力をもった自由人が、古代の国家を率いるリーダーになっていました」

当時のギリシャの都市国家では、自由人は特に限られた市民だけだった。自由人がリーダーシップを発揮し、責任を果たして国を率いる。そういう人材になるための技術がアルテス・リベラレス、リベラルアーツの原型だという。リベラルアーツが中世のヨーロッパに移り、その後アメリカ大陸に移り、米国から日本に渡ったのは戦後である。実に、2600~2700年を経て日本に移植されたのだ。

「21世紀、自由人のリーダーは、グローバル社会と対峙して生き抜かなければなりません。インターナショナル・リベラルアーツは、雑木林型の教育を受けて世界で個を発揮できる人間を輩出する教育です」

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