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高等教育の未来を考える

第2回、第3回「よりよい未来を創る力を育てるために、「学習者」主体の高等教育をどう実現するか」

グローバル化や多様化が進展し、ますます混沌とする現代社会において、答えのない問いに向き合い、よりよい未来を創っていく若者を育てるために、高等教育をいかに変革するべきか。
ベネッセ教育総合研究所では、各界で活躍する有識者の方々と、高等教育の現状と課題を整理し、課題解決の具体的な方法を大学や社会に提言し、アクションに結びつけることを目指す「高等教育の未来を考える」会を開催している。
2022年2~3月に開催した第2回、第3回では、第1回(2022年1月開催)で洗い出した高等教育の課題をさらに掘り下げた。その議論のポイントを紹介する。

 

  • 参加者

    ■座長 太刀川英輔氏
    NOSIGNER 代表、JIDA 理事長、国立阿南工業高等専門学校 特命教授
    (50音順)
    ■木村健太氏
    広尾学園中学校・高等学校 医進・サイエンスコース統括長、同学園 評議員
    ■キリーロバ・ナージャ氏
    株式会社電通 Bチーム クリエイティブ・ディレクター
    ■小林一木氏
    ベネッセ教育総合研究所教育研究推進室 室長
    ■佐藤昌宏氏
    デジタルハリウッド大学 教授・学長補佐
    ■塩瀬隆之氏
    京都大学総合博物館 准教授
    ■林寛平氏
    信州大学大学院教育学研究科 准教授
    ■平岩国泰氏
    学校法人新渡戸文化学園 理事長
    ■松本美奈氏
    上智大学 特任教授、帝京大学 客員教授、一般社団法人Qラボ 代表理事、東京財団政策研究所 研究主幹、教育ジャーナリスト

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第2回会議レポート

 第1回の議論では、「大学とは何をする場所か」「本質的な学びとは」「大学の学びの先に幸せがあるのか」といった根源的な問いに対し、各会議メンバーから高等教育の課題について様々な視点が提示された。第2回では、それらを踏まえて、議論を深めたい5つの論点が整理された。

◎具体的な提案・提言に向けて
  1. 「創造性」という教育の本質を教えるには
  2. 「生きる目的」へとつながる教育へと導くには
  3. ひっ迫する「社会の課題」と大学教育はどうつながるべきか
◎上記の提案・提言の根本にあるもの
  1. そもそもの「大学の目的」と大学教育における「現在のズレ」は何か
  2. 優れた教育実践拡大の「阻害要因」は何か。広めるための具体的なステップは何か

 第2回で主要な話題の1つとなったのが、上記1~3の論点にも関わる「学生と社会をいかにつなげるか」だ。学生一人ひとりの学びが社会に接続することで、学生の生きる目的が創出されたり、社会課題に結びついたりするといった指摘があった。
 また、学びの充実を図る上で欠かせない、評価のあり方についても多様な意見が出された。「創造性教育や研究活動の評価はどうあるべきか」「学生自身の目標設定と評価をどう結びつけるか」などの視点が示された。

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各有識者からのコメント

太刀川英輔氏
固定観念を外して、創造性を育む教育が求められている

 生物の進化と創造性の発揮は同じ構造、というのが私の考えです。生物は「変異」と「適応」を繰り返しながら進化しますが、日本の教育では、「変異」にあたる偶然性やエラーが排除され、大半の場合、予定調和の中で物事が進んでいきます。しかし実際には、学生も教員も想定すらしていないことに出合う瞬間があってこそ、創造性が発揮され、育まれていくと思うのです。固定観念を外して、変異的な発想を生み出すようなカリキュラムを、比較的自由度の高い大学から取り入れることも考えるべきではないでしょうか。
 現在の教育では、あらかじめ用意された「答え」を述べることが良しとされ、それが評価に結びついています。しかし、創造性教育や探究学習では未知も含めての体験やプロセス、そしてその検証と観察が重要であり、そもそも評価とは相容れない部分があります。つまり成果物を評価する仕組みには、教育の本質的な意味での限界があると感じます。すべての教育活動を評価しなくてはならない、という発想から抜け出すことが、この問題への突破口となると考えます。

松本美奈氏
他者になりきる学習で多様なものの見方を養う

 自分の学びと社会の課題を結びつけるために、他者になりきる学習は効果が高いと感じています。私が指導する「質問力を磨く」授業では、学生は自分以外の誰かになりきって新聞を読み、質問を作り、その質問への答えを考えます。例えば、ウクライナのキーウ(キエフ)に暮らす15歳の女性の視点になり、日本の新聞報道を読んでどのように感じるかを考え、問題点を見つけ、グループで質問を磨いていきます。
 この科目は、ルーブリックを作成して評価し、学生一人ひとりと面談を行い、評価の理由を丁寧に説明しています。そうすることで、評価に納得がいかない場合は、学生が反論する機会を設けています。
 授業を通して痛感しているのは、学生に考える素地が不足していることです。今は学生だけでなく教員でも新聞を読まない人が増えていますが、社会がどのように動いているかを理解していなければ、与えられた情報に飛びつくのは当たり前です。そうした状況を前提として、想像力と創造力を育む教育に取り組む必要性を感じています。

林寛平氏
学生が教員を超えて新しい世界を開いていける教育を

 大学は、「研究」と「教育」の2つの機能を持ちます。研究が、新しい知を生み出すことに特化しているように、教育では、培ってきた知見を基に、学生が教員を超えて新しい世界を開いていこうとすることを最も重視すべきでしょう。しかし、最近の教育行政に目を向けると、教育をコントロールして、何かを教えたり、身につけさせたりする傾向が強まっていると感じます。その方向性では、先生から教えられたことだけを習得する「ミニ先生」しか生まれません。
 大学の4年間で教育を完結させようとせず、もっと長い目で、次の世代をよりよい世代にしていくことが大学教育の大きな役割ではないでしょうか。今回の論点の「社会の課題」「生きる目的」なども重要ですが、それらを個別の小さな議論とせず、高等教育の使命を大きく捉えた提言につなげたいと考えています。

塩瀬隆之氏
学びの「Big picture」を、学生に自問させることが大切

 今の日本の教育は、自分の学びと世界の情勢が結びつきにくい状態です。小学校から大学までオーストラリアで教育を受けたというある大学院生は、論文の質が群を抜いて高かったのですが、話を聞くと、小学校時代から自分の考えを述べる度に、教員から「What is your big picture?」と社会全体に結びつけて説明することを求められたそうです。例えば、科学が好きだと話すと、具体的に何に興味があり、それは現在の世界でどのように役立つのかといったことを、先生から問われたと言います。学生に今、何を、なぜ、学ぼうとしているかを、俯瞰して捉えさせることの重要性を痛感しました。
 自分の学びをマッピングできるように、シラバスや時間割を自分で組み立てていくことが必要ではないでしょうか。できれば、中学校や高校でもそうしたシステムを取り入れて、主体的に学ぶ姿勢をもっと若いうちから育むことが重要だと考えます。そうしなければ、地球全体を考えて学べるようになることはありえず、自分が何をどうして学んでいるかも分からない人を生み出し続けることになってしまうと思うのです。

佐藤昌宏氏
「拡散」の思考力を伸ばす学びと評価が求められている

 今の日本社会は、子どもの特性である拡散的な思考を収束させることに比重が置かれ、テストでも収束するプロセスが高く評価される傾向にあります。
 しかし、STEAM教育の要素でもあるアートやリベラルアーツは、1つの答えが存在せず、拡散していくものであり、創造性を発揮するためには収束と拡散の組み合わせが欠かせません。大学に入って、いきなり自由に思考を拡散させなさいと言われて、方法が分からずに戸惑っているのが現状ではないでしょうか。拡散は個々の自由な思考を伴いますから、学びをコントロールするのは難しいと思いますが、そうした教育からしか、創造性は育まれないと思います。
 拡散的な思考に関しては、教員による評価はせず、個々の自由な思考を促すことが大切でしょう。その一方で、自己評価は重要であり、自分の思考についてどう考えるか、事前と事後でどう変化したか、次に何をしたいかといった観点からリフレクションをさせる機会を持たせるとよいと思います。

キリーロバ・ナージャ氏
それをなぜ学ぶのか、なぜ教えるのか

 私が通ったカナダの中学校では、複数の科目の中から自分が学びたい科目を選択するときに、理由とともに提出する仕組みになっていました。また、例えば「ウッドワーク」の授業では、まず、何をどういうコンセプトでつくるのかを考えます。そのアイディアのオリジナリティ、難易度、そしてどれだけ実現できたかという視点で評価されました。
 歴史の授業でも、教科書に載っている考えをまとめただけのレポートでは、「それはあなたの言葉ではない」と突き返され、自分なりの視点を書くことを求められました。その過程で、どうすればフレッシュな切り口を提示できるかを考えましたし、ほかの人のレポートを見ると多様な発見と学びがありました。
 その中で、学びの目的を「Big picture」で考えられるようになるとともに、自分がどのような発想や創造性を持っているのかに気づくこともできました。教える側も改めて学びの目的を意識すれば、変わっていくのではと思います。

平岩国泰氏
小中高時代に、たくさんの大人に出会う機会が必要

 新渡戸文化学園では学校を思い切り社会に開いています。本校では、大人が外部から人を連れてきたり、課題を提示したりして、よりよい社会について考えられるようにすることで、社会と結びついた学びのきっかけを生み出しています。さらに、生徒同士が校則について改善策を話し合うなど、自分たちの力で環境を変えることにも取り組んでいます。そうした経験を積むことで、生徒の意識が変わり、大学進学後の学びも変化していくのではないかと期待しています。
 小学校から高校まで共通して気になる点は、今の教育にはあまりにも自由や余白が少ないことです。自由がないままに大学に進んで、「さあ自由に学んで」と言われても、何をどう学べばよいのか、そこで初めて考えるのが実情でしょう。高校までに自分なりに自由に考える時間が十分あれば、意志を持って進路を選べるはずです。「高校卒業後、いったん仕事をしてから大学に入ろう」などと考える生徒も出てくるはずです。高等教育の未来を考えるためには、そのように、初等中等教育の実態も踏まえて議論する必要があると思います。

木村健太氏
学び手を「主語」とした評価の仕組みを整えたい

 本校では、生徒を「主語」として評価するとともに、「誰のための評価か」を生徒や教員に理解してもらうことを重視しています。生徒の多くは、それまでの経験から、評価は選抜に用いられるものと捉えていますが、それは評価の一部に過ぎません。例えば、定期考査は自分の力を試して、課題を見いだす目的があり、本来は自身の成長のために「試験を受けるのが楽しみ」と思ってもらいたいほどです。にもかかわらず、生徒が評価と仲良くなれないのは、生徒や教員、保護者が評価について思い違いをしているからなのかもしれません。
 中等教育から高等教育にかけて評価のあり方を変えていく必要もあるでしょう。例えば、中等教育における探究活動では、実験によって得られた結果が仮説と異なっていた場合でも、結果を得るに至るまでのアプローチが正しければ評価すべきだと考え、本校では、そのための仕組みを整えています。大学でも、1・2年生までは、プロセス重視の評価でよいかもしれません。ただ、最終的には結果が重要だという現実を、評価を通して理解できるようにする必要があるでしょう。

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第3回会議レポート

 第3回は、第2回の議論で不足していたテーマや、より優先すべきテーマについて意見を出し合った。

第2回 議論まとめ

  1. 「創造性」という教育の本質を教えるには
    • 偶発性を排除せず、予定調和や固定概念を崩す
    • 時間軸・空間軸を意識して「Big picture」を描く
    • Whyの教育
  2. 「生きる目的」へとつながる教育へと導くには
  3. ひっ迫する「社会の課題」と大学教育はどうつながるべきか
    • 「自分は国や社会を変えることができる」という実感
    • 自分ではない他者になりきる練習
  4. そもそもの「大学の目的」と大学教育における「現在のズレ」は何か
    • 可能な限り1次情報に触れる
    • 探究、何をどのように学ぼうとしているのかを俯瞰する
    • 「習っていないから分かりません」をなくす
    • 安心・安全に失敗する
  5. 優れた教育実践拡大の「阻害要因」は何か。広めるための具体的なステップは何か
    • 創造性教育の「評価」をどうするのか
    • 履修主義 VS 習得主義

 第2回は、5つの論点を軸として、高等教育の課題を掘り下げていった。第3回では、これまでの議論を俯瞰し整理した上で、具体的な解決へのアイディアなどの議論になった。
 それらの発言に共通していたのは、課題とは表裏一体の関係で、日本の教育のよさも存在するという指摘だ。高等教育の改革においては、課題を謙虚に受け止めるのと同じく、日本の教育の強みをさらに引き出すことも重要になる。そうした観点から、ポジティブな側面にもしっかりと光を当て、「学生や教員など高等教育のステークホルダーが、ワクワクした気持ちになる提言にしたい」という共通認識が図られた。

太刀川英輔氏
自分と社会とをつなぐテーマと出合う機会を

 大学1、2年生は、自分の専門性やキャリアを決める入り口に立っています。そのタイミングで自分が探究したいテーマに出合えると幸運ですが、出合えずに迷走する場合もあります。大学側が専門性の多様なフィールドの面白さをどう演出し、学生に出合わせるかは大きなポイントになるでしょう。その際学生には、自分からアプローチすれば社会につながれることを気づかせて、自分と社会との分断を乗り越えることが大切だと思います。例えば私の場合、デザインを上手くなりたい、つまり創造性を磨くというテーマを突き詰めた結果、創造性教育という形で社会課題に接続できたことは幸運でした。そのように、自己理解から出発してテーマを設定し、専門へとつながる学びがあることが望ましいと思います。
 さらに言うと、学生が少し先までのテーマを自己決定できる仕組みがあり、それを元に履修できると、自分が興味があり、かつ1番になりうる固有のテーマを設定できるため、自信を持てるようになります。そうした小さな自信を積み重ねた結果、より大きなテーマにも挑めるようになるでしょう。

林寛平氏
学ぶ側のロジックを取り入れて新しい教育を創造するべき

 これまでの教育は、多くの場合、教える側のロジックで語られてきました。そのため、「あれもこれも必要だ」となって、教える内容がかなり増えてしまいました。今こそ発想を転換して、学ぶ側のロジックを取り入れるべきではないでしょうか。以前の議論で、「社会問題の教育化」が論点となりましたが、この問題についても、学ぶ側がどう受け取るか、あるいは受け取らないかという視点を重視することで解決に向かうのではないかと思います。
 学ぶ側のロジックを取り入れるためには、教員の権限を徐々に学生に移していく必要があります。つまり、教える側と学ぶ側の境をなくして、大学を民主化していくのです。例えば、学生がカリキュラムづくりに参加したり、学生が講師となって授業を行ったりと、学ぶ側に任せる範囲を増やしていくといった方法が考えられます。まずは、そうした権限を与えられたときに、しっかりと対応できる学生を育てることから始めていくとよいでしょう。

松本美奈氏
「授業者」の視点を持って、学びをつくり出せる学生をいかに育てるか

 Teachingは最高のLearningだと考えています。そこで私の授業では、入学準備教育として、学生が帝京大学に入学予定の高校生に対して、授業をする場を設けています。学生自身が、入学してからどのように学んできたかを俯瞰してとらえ、それを再構成して高校生に教えるという経験を通して、「『伝える』と『伝わる』は違うと実感した」「自分の意見を持つには何が必要か分かった」「臆せずに意見を伝えられた」といった前向きな声が聞かれています。私自身も、学びのあり方について改めて考えさせられる機会になりました。
 どのような教育をすれば、「授業者」の視点を持って、学びをつくり出せる学生を育てられるのかという視点は、教育改革を考える上で興味深いポイントになりそうです。視点の転換ですね。教える側のロジックから抜け出し、主体的に学びをつくり出せる学生をいかに育てるかを考える中で、新たな授業の組み立て方などの発想が生まれてくるかもしれません。

キリーロバ・ナージャ氏
日本の学生や教育のよさもたくさんある。そこにも光を当てるべき

 日本では、子どもが自分の意見を積極的に述べたり、何かに失敗したりするといった経験がまだ少ないと感じます。先生の中に1つの答えがあるため、子どもはそれを目指し、先生も想定外の意見が出ることを好まない傾向があるからかもしれません。みんな似たような考え方になり、自分の個性ややりたいことが分からないまま、大学に進学することが多いと感じます。そのため、大学でいきなり自由を与えられても、困ってしまうし、ここでも与えられた軸に乗っていれば、大丈夫だと思ってしまいます。考え方をシフトさせていくサポートが必要です。
 また、日本の学生は自己肯定感が低いなど、ネガティブな情報ばかり取り上げられがちです。それも単に鵜呑みにせず、要因などを想像しながら突破していく力を身につけていくことも必要です。日本の学生や教育のよさはたくさんあるわけですから、ポジティブな側面を積極的に評価しながら、足りないことを補うという視点を大切にするべきではないでしょうか。

木村健太氏
グローバルな視点から、日本のよさを引き出す教育改革を

 本校では、277人の卒業生を送り出した昨年度、222人の海外大学合格が出ました。素晴らしいと思う一方で、強い危機感も覚えます。どうして日本の大学を選ばないのか、私たち大人は真摯に考えるべきでしょう。少子化が進む中で有為な若者がどんどん海外に出て行く状況を目のあたりにし、このままでは日本がどうなってしまうのかとリアルに感じています。
 今こそ日本の教育は本質に立ち返り、魅力化に取り組むべきでしょう。その際は、グローバルな視点から日本のよさを見つめ直し、海外の学生からも入学したいと思われる大学を目指すべきだと思います。
 日本で育った子には、自分だけでなく他者の幸せにも配慮できることなど、地球人として重要な資質がありますし、日本の初等中等高等教育にもそれぞれ誇るべき点が多々あります。それらがサスティナブルな未来社会にどれほど貢献できるのか、もっと明確に打ち出しながら、足りないところは謙虚な姿勢で補い、これからの教育を創り上げていくべきだと考えています。

平岩国泰氏
学生のリアルな声で未来の高等教育を語りたい

 本校では、多様な人に会ったり、外に出かけたりして、外の世界を知る機会を設けるとともに、自分自身の興味や得意をじっくりと見つめる時間を持たせて、自分が社会でやりたいことやできることを探していきます。こうして自分の内面から生まれた「矢印」は、太くて強いものになります。
 ただ、私がNPO法人の運営に関わる経験から考えると、実際に社会課題を解決するのは容易ではありません。大学でも、4年間で成果を出そうとせず、その先の人生で自分がやりたいことを実現したり、幸せにしたい人を幸せにしたりする力を育む時期と捉えるとよいと思います。
 高等教育の未来を考えるときに重要なのは、学生自身が何を課題と感じ、どう変えていきたいか、といったリアルな声を捉えることです。大人が「こうあるべき」を語るのではなく、学生がこう言っているのだから皆で考えようと呼びかけることが、1番の原動力になると考えるからです。

塩瀬隆之氏
アウトプットを大切にして、内なる多様性に気づかせる教育を

 高校の先生方と話していると、生徒から同じような意見しか出てこず、多様性が見られないといった意見をよく聞きます。しかし、表面的なアウトプットだけを集めると、似た意見ばかりになるのは当然です。問題の根本は、自由なアウトプットの時間がほとんどないことにあると感じます。
 先生方は、「アウトプットが大事」と言いながら、実際には授業の9割がインプットです。しかも、アウトプットの時間が短いだけではなく、インプットした内容を復唱するようなアウトプットで終わるケースが大半です。じっくりと時間をかければ、一人ひとり異なる考えが表出されて、そこから学びが広がったり深まったりしていくはずです。
 ダイバーシティというと、性別や年齢、人種などの違いを思い浮かべますが、じつは学生の間にも内なる多様性があるのです。中学や高校と違い、大学は通学圏が広がることもあり、学生にとってはダイバーシティに気づきやすい場であることを意識させてほしいと思います。

佐藤昌宏氏
学びの機会を最大限に引き出すシステムと人を一体化した環境の整備を

 初等中等教育では、これまでのインプット主体の教育から、主体的な学びに向かう変革を進めています。大学などの高等教育になれば、より社会に近い、研究・応用・実践などの複合的な学びの機会が増えることになり、そこでは、自身の興味・関心や課題意識を基にしたテーマ設定をしていくことになります。これは、自律的に学びをプロデュースすること自体が必要になるものであり、教えを請うという教育の枠を超える必要性があります。
 そうした中、これからの学びに必要なのは、フィジカルな体験を軸に、それを超える創造的な体験や世界的な視点・考え方を学ぶ方法を知ることになるでしょう。デジタルテクノロジーの活用は、フィジカルな経験を超えるこれからの「探す・調べる・つながる・広げる・創る」の機会を得ることができる「これからの当たり前」です。汎用的なテクノロジーを中心に自らの学びのスタイル、テーマに取り入れていけばよいのです。
 大学は、独自のポリシーを持ち、学校・教員・シラバスという一定の質を担保するために型(かた)の提供をしながら、学生の学びの機会を最大限に引き出すシステムと人を一体化した環境を徹底的に整えるべきだと思います。

 

 ベネッセ教育総合研究所では、今後も本会議を継続し、2022年度中を目標に具体的な提言としてまとめ、大学や社会に提言するとともに、具体的なアクションにつなげることで、教育改革、社会課題の解決や社会変革への貢献を目指していく。

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