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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。


2019.12.13 update

東京都町田市立鶴川第二小学校では、主体的に知識や技能を身につけられる子どもを育成するため、教科学習のなかで「メタ認知力」を育む授業づくりを研究している。今回は、4年生の算数の授業を紹介するとともに、授業者である清水綾香先生に授業のねらいなどを聞いた。


単元名:2けたでわるわり算(全10時間)
単元の目標:整数の除法についての理解を深め、その計算が確実にできるようにし、それを適切に用いる能力を伸ばす。
本時の目標(全10時間中の1時間目):何十でわる計算のしかたを考え、2位数でわる除法の意味を理解する。

 

(1)4年生算数の授業の様子

 授業は「今日は、お買い物の問題を解きます」という清水綾香先生の一声でスタートした。

 清水先生は、「140円持っています。□円の人形焼きをいくつ買えますか?」という問題文が書かれたシートを黒板に貼り、問題文の空欄に入る金額はいくらになるか子どもたちに質問した。子どもたちからは、「30円」「50円」という声が上がる。

 「この人形焼きは30円でした。『140円持っていたら、30円の人形焼きを、何個買えて、いくら残りますか?』というのが今日の問題です。式を立てられる人はいますか?」

 清水先生の質問に、数人の子どもが手を挙げる。1人の子が「140÷30です」と答えた。次に、清水先生は、子どもたちに、今回の式とこれまで学んだわり算の式で異なる点がないか考えさせた。子どもたちから、「けたが違う」「わる数もわられる数も大きくなっている」「わる数が2けたになっている」といった声が上がった。

 清水先生は、子どもたちに次のように問いかけた。「今日は、この2けたでわるわり算の問題を解きたいと思います。この問題を解くときに、皆さんに作戦を立ててほしいと思います。どんな作戦が良いと思いますか」と言い、数人に見通しを発表させた。

 「140を分ける」「0を消す」といった声が上がった。先生はそれらに加えて、「絵や図を使って考えても良い」と伝え、自分で問題を解く時間を5分間設けた。その間、先生は子どもたちの様子を見て回る。筆算で解こうとしている子、140をいくつかのまとまりに分けようとしている子などがいた。

 5分後、清水先生は黒板に3つの顔のマークを描き、子どもたちに次のように話した。

 「今の自分の状態は、どのマークか書いてください。ニコニコマークは、作戦にも自信があるし、その説明もうまくできそうという人です。普通マークは、問題の答えは分かったけど、人に説明するのはちょっと不安という人です。困ったマークは、困りました、助けてくださいという人です」 子どもたちは自分のマークをノートに書き入れていく。

 「このあとは、どうしたいですか?」と、清水先生が子どもたちに聞くと、多くの生徒から「友だちと交流して、発表したい」という声が上がった。そこで「解き方を教えたい&解き方を知りたい」「より良い方法を見つけたい」「新しい問題を作りたい」という3つのグループの中から好きなグループを選び、同じグループを選んだ子どもが3〜5人ずつ班になり、自分の作戦を発表し合った。そこで得た意見も踏まえて、自分の作戦の振り返りをノートに書かせてから、最後に授業のまとめに入った。

 「140÷30の答えが出た人?」と清水先生が問いかけると、大半の子どもが「4個買えて、20円あまりです」と答えた。清水先生は、机間巡視をしていて、あまりが2なのか20なのか迷っていた子に振り返りノートを読ませた。

 「あまりが2なのか、20なのか、迷った人が多かったようです。でも10のまとまりで考えると、10円玉が2個あまったという意味です。次からは、『140÷50』『150÷60』『150÷63』などを解いていきたいと思います」と伝え、算数のノートを提出させて、授業は終了した。

 

(2)授業づくりのねらい

 東京都町田市立鶴川第二小学校では、2015年度から2018年度まで、文部科学省の研究開発学校の指定を受け、学校独自の教科「21世紀スキル科」を設置し、「メタ認知力」を育成する授業を展開してきた。(過去記事参照)

 2019年度からは、「メタ認知力」を育成する授業づくりを研究するため、国語・算数・体育の3教科で研究分科会を設けた。清水先生の所属する算数分科会は、3・4年生を担当する7人で構成されている。算数分科会では、2019年度の夏季休業中から、9月に予定されていた校内研究授業に向けて話し合いを重ねてきた。そこでキーワードに挙がったのが、「自分で学びのエンジンをかけられる子を育てる授業」だったという。

 「『21世紀スキル科』では『主体的に知識や技能を習得できる子どもを育てるために、自分で学びのエンジンをかけられる力を身につけさせる』ことを目標に、様々な活動に取り組ませていました。算数の授業でも、そうした子を育てるには、今のままの一斉授業では限界があると感じていました。習熟度別に4つのコースに分けていますが、同じコース内でも子どもの取り組む様子には差があり、自力解決も難しい子どももいる一方、考える力をもてあましている子どももいたからです。自分の目標に向けて主体的に取り組ませるための手立てが必要だと感じました」(清水先生)

 

(3)授業づくりの4つのポイント

ポイント1、自分シートの導入

 算数分科会の話し合いで出てきたのが、「個人の目標にあったコース選び」をさせることだ。これまでは、各単元のスタート前に準備テストを受けさせ、教員がその結果を基にコースを振り分けていた。今回からは、準備テストを改良し「自分シート」を作成し、目標にあったコースを自分で選べるようにした。


「自分シート」・・・「自分シート」は、下記5つの内容で構成される。


◎レディネステスト

 既習事項の定着具合を自分で確かめられる問題を用意。今回は、2けたでわるわり算のため、小さい数と大きい数の四則演算の計8題を解かせ、子どもに4段階で自己評価させた。

◎ゴールと必要な力・伸ばしたい力

 目的意識を持って学習に取り組み、モニタリングする際の視点として参考となるよう単元のゴール、必要な力、伸びる力を明記する。

◎コース選択

 自分で4つのコースから選ばせ、その理由も書かせる。

◎目標設定

 この単元における自分の目標を書かせる。

◎授業の振り返り

 単元の振り返りを書き込む欄を設けた。どのように取り組めたのか数値化することで、視覚的に自己評価ができ、自分自身をしっかりメタ認知できるのではないかと考えた。


ポイント2、自力解決のためのプランニングとモニタリングをさせる

 主体的に自分の目標に向かって取り組んでほしいと考え、自力解決の時間にも工夫を加えた。2けたのわり算をどのように解いたら良いかプランニングさせる際、自分の解き方に「作戦名」をつけさせ、取り組ませた。また、課題の自己到達度をメタ認知させるため、3つの顔の表情で自分の理解度を示させるようにした。その理由を清水先生は次のように話す。

 「既習事項と関連づけて、課題の見通しを持ち、自分なりの方法で解決してほしいと考えました。また、その後の振り返りでもモニタリングしなさいというよりも、ニコニコマークや困ったマークなど3段階の顔の表情で自分の状態する方が、子どもたちにとってメタ認知しやすいと考えました」(清水先生)

ポイント3、目標にあったグループで話し合い、問題に取り組ませる

 これまでは席の近い人と話し合わせることが多かったが、自分の目標にあったグループを選び、そこで話し合わせることにした。グループ別の進行表を配り、子どもたちの話し合いの目線あわせに役立つようにした。

 「『解き方を教えたい&解き方を知りたい』『より良い方法を探りたい』『新しい問題を解きたい』の3つのグループに分かれ、学び合いをさせました。『新しい問題を解きたい』のグループは、より発展的な学習をしたいと感じている子を想定したグループでしたが、研究授業の前に他クラスで同様の授業を行った際、『新しい問題』がどのような問題なのか説明しなかったため、話し合いがうまく進みませんでした。そこで、各グループにどのように話し合ってほしいか、進行表を作りました」(清水先生)

ポイント4、自分の振り返りをノートに書く

 授業のまとめの前に、自分の作戦の振り返りについて、単に反省を書かせるのではなく、「①うまくいったか、いかなかったか」、「②その理由」、「③どうすれば良かったのか」この3つの観点で振り返りをさせた。

 「『自分シート』にどのように取り組めたかを数値化して記入することで、視覚的に自己評価でき、自分自身をしっかりメタ認知することにつながるのではないかと考えました」(清水先生)

 

(4)成果と課題

 新しい授業に挑戦した清水先生に、授業後、感想を聞いた。

 「『よく分かった』という表情の子が従来型の授業に比べて少ないと感じました。モニタリングやプランニングをする時間を多く割いてしまったため、グループでの話し合いの結果を発表したり、全体でより良い方法について練り上げたりする時間が少なかったと反省しました。今後、時間配分を考えていきたいと思います」(清水先生)

 その一方で、清水先生は、子どもたちのノートに書かれた振り返りを読んで、今回の授業の手ごたえを感じたという。

 「『自分ではできたつもりだけども、友だちから違う説明を聞き、間違いに気がついた。次は友だちの考えで自分もやりたい』など、友だちと交流したことを自分なりに解釈して、自分の作戦の振り返りができている子がかなりいました。目標にあったチームに入り、メタ認知力を高めさせるという意図は、子どもたちに伝わったのだと思いました。

 今後の目標は、子どもたち一人ひとりが、どう学びたいか『目標』を持ち、それに適した自分の学び方、方略を見つけられるような授業を展開することです。そのためには、自分にはどんな力が必要なのか見つめ、今まで学んだことを用いてどのように解決していくか考える力をつけていくこと、つまり『メタ認知力』が重要です。それをどのように算数で身につけさせるか、さらに研究を深めていきたいと思います」(清水先生)



著者紹介


清水 綾香 しみず あやか  プロフィール

■ご担当

 東京都町田市立鶴川第二小学校算数担当

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