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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。


2020.01.09 update

主体的に知識や技能を身に付けられる子どもを育む授業づくりの研究が各小学校で取り組まれている。今回は、東京都渋谷区立富谷小学校の佐藤綾花先生による6年生の国語の授業を紹介、そのねらいや成果、課題を聞いた。


単元名:作品の世界を味わって伝えよう〜宮沢賢治の世界〜(全9時間)
単元の目標:
・ 「やまなし」の全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりしながら読むことができる。
・ 文章を読んで理解したことに基づいて、宮沢賢治のお気に入りの作品に対する自分の考えをまとめることができる。
・ 比喩などの表現の工夫に気づくことができる。

本時の目標(全9時間中の6時間目):物語の時期毎の変化に注意して読み、物語の全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりして、理解したことに基づいて自分の考えをまとめる。

 

(1)授業の様子

 授業は、前時の振り返りからスタートした。前時では、宮沢賢治の「やまなし」の気になる表現に注目して読み、友だちと交流して考えを深めた。佐藤先生は、前時の終わりに子どもが書いた感想を読み上げた。

 「『自分と同じような疑問を持つ人もいて、お互いの疑問を深められて良かった。他の疑問にも興味が持てた』と書いた人や『気になった表現に注目して読むと、見方が変わるし、いろいろな角度からも見えてくるようになった。分からないことも分かってすっきりする』という人がいました。先生も、気になる表現に注目して読むことができたら、『楽しいな』と思ってくれると良いなと思いました」(佐藤先生)

 子どもの意見を紹介した後、先生は「何のためにこのような勉強をしているのでしょうか? 宮沢賢治の『やまなし』を深く読めるようにするためでしょうか?」と子どもに問いかけた。すると、子どもからは、「違います」という声が挙がり、その内の一人が「他の本も深く読めるようにするためです」と答えた。佐藤先生はその意見に同意し、「他の物語や文章を読むときにぜひ生かしてほしいです」と伝え、本時の内容に入っていった。

 「やまなし」は、宮沢賢治の書いた短編童話である。谷川で生きるカニの兄弟が見る生き物たちの世界を描いた作品で、晩春の5月の日中と初冬の12月の月夜の2部で構成されている。佐藤先生は、本時の課題「変化に注目して読もう」をノートに書かせた。「変化」に注目して読み深めたい、という課題意識は、単元の導入で児童の方から出てきていた。その課題意識をもとに、本時の問いの形に変化させ、最初の問いとして、5月と12月の場面で、変化しているものは何か考えさせた。先生が問いを黒板に書き込む最中、問いの答えを見つけたと目を輝かせている子どもを佐藤先生は見逃さず「もう見つかったの?」と声をかけ、発言させた。

 一人の子どもが、「12月の最初の部分に、『カニの子どもが大きくなった』と書いてあります」と発言した。それを受けて、5月から12月でカニの子どもらが大きくなったことをクラス全体で確認した。佐藤先生は「大きさ」以外にも変化していることはないか、子どもたちに質問すると、「季節が夏から冬に変わった」など意見が挙がった。

 次に、「変化しているものと変化していないものがあるとしたら、それは何でしょうか?」と佐藤先生は子どもたちに質問した。10分程度で考える時間を設けた。その際、子どもたちに「話し合いたい?」と問いかけ、うなずく子どもが多かったため、「なぜ話し合いたいのですか?」と佐藤先生は聞き返した。すると、子どもたちから「考えが広がる」などの意見が出た。ただ、佐藤先生は全員を話し合わせるのではなく、「グループでも良いし、一人で考えたい人は一人でも良い」と伝えた。グループで話し合う子、一人で考える子、それぞれのスタイルで考えを深めた。

 その後、クラス全体で考えを共有した。一人の子どもが「カニの知能が変化している」と答えた。その理由として、「カニの言葉に注目しました。5月は語彙力がなく幼稚な感じです。12月は弟と競争するなど少年らしさがあり、強気になっていると思いました」

 また、カニの子どもの「気持ち」の変化を挙げる子どももいた。「5月はおびえていたけども、12月はやまなしが落ちてきても、良い匂いだと言っているので、子どもたちが明るい感じになっていると思います」という声も挙がった。

 佐藤先生は「変化していないところ」について聞いたところ、「場所」という声が挙がった。その理由を一人の子どもが、教科書の『イーハトーブの夢』に掲載されていた資料の一つの地図に、小さな川があり、この場所の物語ではないかと話した。

 ほかには、「家族の構造」「人生について真剣に考えていること」などの意見が挙がった。

 最終的に子どもたちが挙げた「変化しているもの」と「変化していないもの」が11項目あり、佐藤先生は、そのなかで一番重要なものはどれか子どもに考えさせ、手を挙げさせ、どの項目を子どもが重要と考えているのかを佐藤先生は確認した。「変化しているもの」のうち、「かにの気持ち」と手を挙げた子が多かった。

 最後に、自分はなぜそれが重要だと思ったのか、変化に注目して読むとどんな点が良いのかをノートに書かせ、それを提出させ授業は終了した。

 

(2)授業づくりのねらい

 佐藤綾花先生は、「国語」において思考力を高める授業づくりの研究を行っている。今回の単元では、子どもに表現の効果に着目して文章を読むことを目指した授業を展開した。その狙いを次のように話す。

 「宮沢賢治の『やまなし』という作品には、色彩語、擬態語、擬音語などが至るところにちりばめられていて、表現の効果を考えるためにはとても良い作品です。それらの表現の効果に気づいて読むと、物語に対する理解がどのくらい深まるか、子ども自身に感じてもらいたいと考えました。そうした力が、他の物語や説明文を読むときにも生かせるからです。ただ、『やまなし』は独特の表現が多く使われているため、子どもたちにとっては理解しにくく、6年生の国語のなかでも難しい教材といわれています。私も過去に何度も指導の難しさを経験していたので、子どもが文章を読む楽しさを感じられるように留意しました」(佐藤先生)

 

(3)佐藤先生の授業づくりの3つのポイント

ポイント1、複数の宮沢賢治作品に触れさせ、読むときの観点を持たせる

 「やまなし」には筆者がつくった言葉や擬態語、擬音語が随所に使われているため、一度読んだだけではその意味を理解することが難しい教材である。いきなり子どもに「やまなし」を読ませると、「クラムボン」「イサド」といった造語が何を指しているのか考えすぎてしまい、「難しい」「よく分からない」という印象を持ってしまうことが多いという。すると、自分の考えをまとめたりする学習に主体的に考えられなくなってしまったということを佐藤先生は経験していた。

 「『やまなし』を読ませる前に、私が宮沢賢治の作品のなかで、6年生の子どもにとって読みやすく、感想や考えを持ちやすいと考える『いちょうの実』『月夜のでんしんばしら』『雨ニモマケズ』を読み、感じたことや考えたことを書かせました。子どもたちは一つ一つの作品に対して、また、作品と作品とを結びつけて様々な感想を持っていました。それらの感想を共有する中で、「表現の仕方が独特で面白い」、「人間以外の生き物の視点で書かれている」、「宮沢賢治は伝えたいメッセージがあって、作品を書いていたのではないか」など、読むときに注目したい様々なポイント(読みの観点)を確かめました」(佐藤先生)

ポイント2、子どもに学習計画を立てさせる

 本単元の2時間目に宮沢賢治の他の作品を読んだ際、色やリズムなどの表現、人物の気持ち、作者の思いの3つに着目にすると良いという意見が子どもたちから出てきたため、それらの3つポイントを、どのような順番で注目して読んでいったら良いか子どもに問いかけ、学習計画を立てさせた。

 「学習計画をクラス全体で立てたあと、『やまなし』を読んでいきました。もし、子どもたちに考えさせるのではなく、私が『色に注目して読んでください』と言ってしまうと、「なぜ色に注目するの」という点に引っかかってしまい、読みが主体的なものにならず、その後に友だちと意見交換する際も話し合いが深まりません。できるだけ子どもが主体的に学びに向かうよう授業を組み立てています」(佐藤先生)

ポイント3、自分の立場を明らかにさせ、話し合わせる

 佐藤先生が授業を行う際に常に心がけているのは、「クラス全員が参加したくなる授業」だ。国語の授業では、「筆者や主人公の気持ちを考えよう」と発問することが多いが、子どもたちにとって「人の気持ち」というのは抽象的なため、捉えにくくいという。そのため、友だちと意見交換させても、自分と友だちが同じことを書いているのか、違うことを書いているのか、はっきりとしないため、考えを深め合えず、それぞれの意見を発表するだけで終わってしまうという。

 「一方で、討論会では子どもたちが活発に話し合います。それはなぜかと考えると、自分の立場がはっきりしているからです。討論会の授業以外でも、立場(現段階での自分の考え)をはっきりさせることを意識して行っています。後から立場が変わってもよいとしつつ、自分の立場をはっきりさせることで、一人一人の子どもが授業という土俵に立てるのだと思います。本時では、発問を工夫し、『変化をしているのがどこか、変化していないのはどこか』と問い、自分の立場を明確にさせてから友だちと話し合わせました」(佐藤先生)

 「自分の立場」という形で自分の考えをメタ認知させることで、友だちの意見との違いを分かりやすくさせ、学び合いが深まるという。この手法は「国語」だけでなく、他教科でも活用していると佐藤先生は語る。

 

(4)成果と課題

 今回の授業の感想を佐藤先生は次のように話す。

 「変化していないものに気づけなかった子が、予想よりも多く見られました。変化といっても明らかに描写でかかれていることではないので、少し難しかったのかもしれません。ただ、宮沢賢治の他の作品と比較しながら読むなど、私がこの単元で狙っていた複数の作品間のつながりを意識しながら読むという方法を採っていた子どももいて、手ごたえを感じました。これからも、子どもの主体的な学びを引き出しながら、生きた国語の力が身につくような授業を展開していきたいと思います」


著者紹介


佐藤 綾花 さとう あやか  プロフィール

■ご担当

 渋谷区立富谷小学校 指導教諭。東京都指導教諭として、年に4回授業を公開している。参観は随時受付中。

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