「データで考える子どもの世界」

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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。

2020.10.16 update

新学習指導要領にも明記された「メタ認知」。主体的に学びに向かう態度を育成する際にも、「メタ認知」は重要な役割を果たします。今回は、メタ認知の研究を続けていらっしゃる岩手大学の久坂哲也准教授に、メタ認知のメカニズムや、学びとの関係性、メタ認知を育成する方法などを、全5回にわたって連載します。

(1) 学習における「メタ認知」の役割とは (2020.07.13 update)

メタ認知への注目度の高まり

 私が「メタ認知」という言葉を初めて知ったのは,私がまだ教育学部の学生のときでした。その頃はまだメタ認知の知名度が低く,私の周囲にも知っている方はあまりいなかったように思います。当時,私がたまたま購入して読んだ教科教育学の専門書の中に数ページだけメタ認知に関する記述がありましたが,“メタ認知”という文字からはその意味を推測することは不可能で,何だか得体の知れない概念というのが第一印象でした。ただ,その記述を丁寧に読んでみると,「人間が自らの認知そのものを自覚すること」や「個別化を目指す指導の基礎になる得る可能性が高い」などと説明されており,これは近い将来,学校教育でも注目される概念になるに違いないと予感したことを今でも鮮明に覚えています。それからちょうど20年が経過しました。今ではインターネットの検索サイトで“メタ認知”やその英語名である“metacognition”と入力して検索すると, 膨大なウェブページや書籍,論文がヒットするようになりましたし,学校教育に携わる多くに方にとっては既知の概念だと思います。また,2006年には国際的な学術出版社であるシュプリンガーから“Metacognition and Learning”という学習におけるメタ認知に特化した学術雑誌も発刊され,教育研究や学習研究においてメタ認知が研究領域の一つとして確立したといえます。さらには,平成29年に公表された学習指導要領(以下,新学習指導要領)においてもメタ認知という言葉が初めて明記されました。新学習指導要領では,教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力が,「知識・技能」,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱に整理されましたが(文部科学省,2017),「学びに向かう力・人間性等」については,以下のような説明が見受けられます。

 児童一人一人がよりよい社会や幸福な人生を切り拓いていくためには,主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や,自己の感情や行動を統制する力,よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等が必要となる。これらは,自分の思考や行動を客観的に把握し認識する,いわゆる「メタ認知」に関わる力を含むものである。
             (小学校学習指導要領解説総則編,39ページ)

 つまり,これからの学校教育において児童生徒のメタ認知能力を育成することが教育政策として求められているのです。では,なぜメタ認知はここまで注目されるようになったのでしょうか。

 前置きがやや長くなりましたが,この連載企画の第1回では,学習におけるメタ認知の役割や重要性について解説していきたいと思います。

メタ認知の役割とその重要性

 そもそも学習という活動は,知識や技能を習得したり,推論や問題解決をしたりと様々なプロセスから構成されています。例えば,何か新しい知識を理解して習得するときに,それに関連する知識や日常経験を思い出しながら関係付けて学習することは,理解を深めたり学んだことを活用したりする上でとても大切なことです。また,問題解決をするときに,今自分がどこまで理解できているのか,目標に到達するためにはどのようなステップを踏めば良いのかなどを考えながら学習を進めていくことが求められます。このように,既習内容を想起したり,自分の理解状況や目標を把握したりしながら,学習を調整することはメタ認知の働きといえます。メタ認知を働かせながら学習を進めることは,学習活動を効率的に進めるだけでなく,深い学びを促すことにもつながります。

 また近年,学習者が目標に向かって能動的に学習していくことを意味する「自己調整学習(self-regulated learning)」の概念が我が国でも広まりつつあります。令和2年3月26日に国立教育政策研究所から「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」が公開になりました。(国立教育政策研究所,2020)。新学習指導要領では観点別学習状況の評価が3観点に整理されましたが,その1つである「主体的に学習に取り組む態度」においては,①知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとしている側面と,②①の粘り強い取組を行う中で,自らの学習を調整しようとする側面という2つの側面から評価することが求められています。後者は,自己調整学習の理論やモデルが基盤になっていると思われますが,やはりここでもメタ認知が鍵になります。なぜなら,学習者が自らの学習を調整するためには,まず,自らの学習状況を適切にメタ認知することが要求されるからです。しかし,自らの学習方法や理解状況を適切にメタ認知することは,実は私たちが思っている以上に難しいものです。ですので,学習者が自らの学習状況を慎重に吟味したり,批判的に捉えたりといった機会を設け,適切なフィードバックを与えていく中で,このような態度やスキルを育成して必要があります。

 このように,これからの教育や学習においては,子どもたちのメタ認知を促すような指導を心がけるだけでなく,子どもたちがメタ認知を働かせながら自らの学習を調整できているかについても見取ることが求められています。

メタ認知と学力の関係

 最後に,メタ認知と学力の関係について解説したいと思います。これまで学習におけるメタ認知の役割や重要性について説明してきたので,メタ認知と学力には関係があることは容易に想像がつくことでしょう。先に紹介した“Metacognition and Learning”の創立編集長であり,現在,オランダでメタ認知研究所を主宰しているビーンマン博士の研究によると,学力の伸びは知能とメタ認知の2つで50%程度説明できることを示しています(Veenman, 2008)。そこで,北海道大学大学院の大谷和大先生との共同研究でメタ分析という統計的手法を用いてメタ認知と知能,学力の関係について詳細に分析してみました。メタ分析というのは,過去に実施された複数の研究結果を統合して分析する手法です。その結果,知能よりもメタ認知の方が学力に与える影響力が大きいことが明らかになりました(Ohtani & Hisasaka, 2018)。これは,子どもたちの学力向上を支える上で大きな意味をもちます。もし,知能の影響力の方がずっと大きかったらどうでしょうか。知能にもいくつか種類があるのですが,一般的に知能は安定的なものとされており,遺伝の影響も少なくありません。ゆえに,指導や訓練によって知能を高めようとしてもそれは容易なことではありません。しかし,メタ認知は個人差などもありますが,指導や訓練で高めることが可能です。したがって,子どもたちのメタ認知能力を高めることは学力の向上にも寄与します。そして,その影響力は知能を超えるのです。

 子どもたちのメタ認知能力を高める指導や支援の方法を考える上で,メタ認知の概念を正しく理解することはとても大切です。そこで,第2回ではメタ認知の概念について詳しく解説いたします。


引用文献
国立教育政策研究所(2020)「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 Retrieved from https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html
文部科学省(2017)小学校学習指導要領解説総則編 東洋館出版社
Ohtani, K., & Hisasaka, T.(2018)Beyond intelligence: a meta-analytic review of the relationship among metacognition, intelligence, and academic performance. Metacognition and Learning, 13:179-212.
Veenman, M. V. J.(2008)Giftedness: Predicting the speed of expertise acquisition by intellectual ability and metacognitive skillfulness of novices. In M. F. Shaughnessy, M. V. J. Veenman, & C. Kleyn-Kennedy(Eds.), Meta-cognition: A recent review of research, theory and perspectives(pp.207-220). Hauppage: Nova Science Publishers.

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(2)「メタ認知」とはどのような概念か (2020.07.17 update)

メタ認知の構成要素

 メタ認知の概念は1970年代に登場し,その後急速に広まってきました。メタ認知(metacognition)の「メタ(meta-)」とは,「高次な」や「一段上の」という意味を持つ接頭語で,「認知(cognition)」は,見たり,聞いたり,考えたりなどといった知的営みや活動を指す言葉です。つまり,メタ認知とは自らの認知活動を高次な(一段上の)レベルから認知することを意味する言葉になります。私たち人間が何か間違いに気づいて行動を修正したり,問題解決のためのより良い方法を計画して活動したりできるのはメタ認知の働きのおかげです。図1にメタ認知の概念モデルを示し,具体例を交えながら少し専門的に解説したいと思います。

図1 メタ認知の概念モデル(Nelson & Narens, 1990を翻訳及び一部追加して改変)

 メタ認知は,活動的要素である「メタ認知的活動」と知識的要素である「メタ認知的知識」に分類されます。また,メタ認知的活動はさらに「メタ認知的モニタリング」(単に“モニタリング”という場合もある)と「メタ認知的コントロール」(単に“コントロール”という場合もある)に分類されます。

 例えば,授業場面を想定しましょう。あなたは教師です。あなたは子どもたちに対して,“説明する”という認知活動を行っています。このとき,あなたは説明している自分を一段高いレベルから客観視して,「話す速度は適切か」や「子どもたちは理解できているか」などと考えるでしょう。これがメタ認知的モニタリングの働きです。その結果,「どうやら子どもたちはあまり理解できていないようだ」と判断されたとき,「話す速度を遅くすると理解しやすくなる」や「物事を何かに喩えて説明すると分かりやすくなる」などといったメタ認知的知識が想起され,ゆっくり話してみたり,説明の対象を子どもたちが知っている何か別なものに喩えて説明してみたりというように,認知活動を修正するでしょう。これがメタ認知的コントロールの働きです。

 このように,メタ認知的モニタリングには認知活動についての気づきや点検,評価などいった活動が含まれます。また,メタ認知的コントロールには認知活動の修正のほかに,目標を立てたり,その目標に到達するための計画を立てたりといった活動が含まれます。“メタ認知”と聞くと何か特別な能力などをイメージする方もいるかもしれませんが,実は私たちが普段の生活の中で日常的に働かせているものなのです。

認知とメタ認知は二分できるか

 メタ認知の研究をしていると,「認知とメタ認知は区別できますか」という質問を受けることがあります。この質問は,メタ認知に関心のある方であれば当然の疑問です。もし区別することができれば,自分自身のメタ認知を働かせるときや,教師であれば子どものメタ認知を促したり見取ったりするときに役に立つからです。しかし,この質問に答えることはそう簡単ではありません。なぜなら,ある活動が認知活動かメタ認知的活動かは個人によって異なるからです。具体例で示しましょう。

 読者の中には,自動車の運転免許証を持っている方も多いと思います。免許取得直後にドキドキしながら運転していたときのことを思い出してください。例えば,交差点で左に曲がるとき,頭の中で「ウィンカーは交差点の30メートル手前で出す」や「教習所では縁石に乗り上げてしまったから内輪差に気をつけながらハンドルを切ろう」などと考えながら運転していたことでしょう。関連する既習事項を想起したり,自分の癖を考慮したりして運転していたと思います。これはまさにメタ認知を働かせている状態であり,メタ認知的活動をしているといえます。ところが,運転歴も増してくると,上記のようなことを思い出さなくても十分安全に運転することができます。つまり,熟達により車の運転という活動(行動)が自動化され,メタ認知的活動ではなく認知活動になってきたことを意味します。これは学習場面でも同様です。例えば,理科の問題を解くときに初学者であれば,問題文に示された情報の整理を行い,「今わかっていることは何か」や「問題を解く上で必要な公式は何か」などを考えるでしょう。ところが熟達者であれば問題文を見たと同時に解法が思い浮かび,すぐに解くことができます。このように,ある活動を対象としても認知活動かメタ認知的活動かは,個人の経験や能力で異なってくるのです。

メタ認知を見分けるポイント

 ただし,見分けるポイントを強いて挙げるならば,私は2点あると考えています。1点目は「そこに自分という対象が入り込んでいるか」です。例えば,子どもが問題を解いているときに「わかった」と発言したとします。これには「問題の意味がわかった」や「答えがわかった」という意味のほかに,「わかった自分がわかった」という意味が含まれている場合があります。“さっきまで自分はこの問題の意味がわからなかったけれど今はわかったぞ!”という気づきです。つまり,メタ認知を働かせる対象は自らの認知活動ですので,わかったという対象が問題(外)に向いていれば認知,自分(内)に向いていればメタ認知といえるのではないかと思います。2点目は「そこに意識が働いているか」です。メタ認知的活動は意識的に行われるものです。モニタリングの結果を自分が保持している何らかのメタ認知的知識と照合し,コントロールへと反映させるわけですから,そこに意識や注意がどのくらい向いているかは別として,全くの無意識で行っている活動はメタ認知的活動とはいえません。ですので,教師であれば子どもの発言や学習行動に対して,「なぜそう思ったの?」や「なぜそうしたの?」と問いかけてみてください。そこで子どもが,何かしらの理由(メタ認知的知識)に基づいて発言や行動をしていたと答えたならば,メタ認知を働かせていたと判断できるのではないでしょうか。

 ただし,子どもが持っているメタ認知的知識がいつも正しいとは限りませんので注意が必要です。そこで,第3回では子どもたちのメタ認知に働きかける授業づくりについて詳しく解説いたします。

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(3)「メタ認知」に働きかける授業づくりとは (2020.07.22 update)

授業におけるメタ認知の位置づけ

 「メタ認知」は,“伸ばす”や“促す“,“働きかける”などいくつかの表現が用いられます。今回(第3回)のタイトルでは“働きかける”を使わせてもらいました。これには私なりの意図があります。授業づくりを考えたとき,授業の目的は学習者のメタ認知能力を伸ばすことではなく,学習者のメタ認知に働きかける指導や支援を通して,その教科の知識・技能を習得したり,思考力・判断力・表現力等を育成したりすることが求められるからです。では,「メタ認知」に働きかける授業はどのようにつくっていけばよいのでしょうか。第3回では,そのポイントについて解説していきたいと思います。

授業づくりの鍵はメタ認知的知識

 私はこれまでメタ認知に着目した国内の理科教育学研究の調査を行ったり,小学校や中学校でメタ認知を意識した授業実践などをいくつか拝見したりしてきました。これらの実践研究や授業実践の多くは,教師の指導や支援における発話や言葉かけ,学習シートなどの工夫によって,学習者の振り返り活動(=メタ認知的モニタリング)を促すものでした。当然のことながら,学習において振り返り活動を促すことはとても重要です。しかし,メタ認知に働きかける授業づくりを考えたとき,振り返り活動を促すだけでは不十分だと思われます。

 メタ認知が,メタ認知的活動とメタ認知的知識で構成されていることは前回(第2回「メタ認知」とはどのような概念か)説明しました。メタ認知は,何らかのメタ認知的知識に基づいてメタ認知的活動が行われています。メタ認知的知識は個人の経験や信念に基づいて形成されるため,子供たちが学習に対してもっているメタ認知的知識は,常に正しいとは限りません。また,教師が思っているほど豊富ではないことも指摘されています。間違ったメタ認知的知識を持っていたり,必要なメタ認知的知識を持っていなかったりすると,不適切なメタ認知的活動が遂行される可能性があります。したがって,授業を通して資質・能力を育成する上でどのようなメタ認知的知識が必要かを認識し,それを意図的に指導していくことが鍵になります。

メタ認知的知識を指導した授業実践例の紹介

 メタ認知的知識を指導する授業実践について,私たち研究グループが中学校の理科授業で行った実践を紹介します。中学校理科では,「自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成すること」が教科の目標として掲げられ,科学的に探究するための知識・技能,思考力・判断力・表現力,態度の育成を図ることが求められています。科学的な探究活動において,実験計画を立案することは中心的な能力の一つとされていますが,平成30年度に実施された全国学力・学習状況調査の結果では,条件を制御した実験を計画することに課題があることが指摘されています(国立教育政策研究所,2018)。

 そこで,私たちは実験を計画する際に必要なメタ認知的知識を7つのルールとしてまとめ(図2),練習問題を交えながら学習するテキストを作成し,授業実践を通してその効果の検討を行いました。

図2 実験計画の7つのルール

 授業実践の効果を検討するために,この学習テキストを用いて学習する群(実験群)と,学習しない群(統制群)を設定し,プレとポストで実験計画書を作成するパフォーマンステストを実施しました。その結果が図3になります(注:統制群においてはポストテスト終了後に学習テキストを用いた授業実践を行い,処遇による差が生じないよう配慮しています)。

図3 パフォーマンステストの結果

 授業実践前に行ったプレテストでは,両群において得点に差が見られませんでしたが,ポストテストでは差が見られ,実験群の得点が有意に上昇したことがわかりました。この成果については,これまで学会や教員研修会等で紹介させていただきました。すると,「実験計画の立て方を指導したのだから得点が伸びるのは当たり前ではないのか」とのご批判を何度か頂戴しました。私はこのご批判は正論だと思っています。しかし,これまでの理科授業で子供たちは実験を何度も経験してきたし,教師は実験計画の立て方も指導してきたはずです。それにも拘らず,学力調査などで実験を計画する力に課題があると指摘されてきたのは,実験のもつ意味が抽象化・ルール化されておらず,子供たちにとって自覚的・随意的に利用可能なものになっていなかったからではないでしょうか。むしろ私たちは,このように指導すればできるようになることを指導してこなかったことを反省し,教訓とすべきだと考えています。

 今回は,中学校理科の実験を計画する力を一例として紹介しましたが,各教科で問われている資質・能力を確実に育成するためには,それを支えるメタ認知的知識を明確にし,それを教科の学習内容とともに教師が明示的に指導する授業づくりをしていくことが効果的です。子供たちは正しいメタ認知的知識を習得することによって,自らの思考や学習行動をより望ましい方向へと調整することが可能になるのです。


引用文献
国立教育政策研究所(2018)「平成30年度全国学力・学習状況調査報告書(中学校理科)」 Retrieved from https://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/report/data/18msci.pdf

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(4)メタ認知的視点から考える「振り返り」 (2020.07.31 update)

授業における「振り返り」の意味

 授業の中で「振り返り」活動を取り入れている先生は多いことと思います。新学習指導要領においても「主体的な学び」の実現には,「見通し」と「振り返り」が重要であると示されています。では,そもそも振り返りは何のために行うのでしょうか。振り返りの場面には,次の3つの意味があると言われています(田村,2018)

 1)学習内容を確認する振り返り
 2)学習内容を現在や過去の学習内容と関係づけたり,一般化したりする振り返り
 3)学習内容を自らとつなげ自己変容を自覚する振り返り

 今回は,この3つの意味についてメタ認知的視点から考えていきたいと思います。

学習内容を確認する「振り返り」

 学習内容の確認には,「今日学んだことは何か」ということの他に,自分自身の理解状況を振り返ることも含まれます。「今日の学習内容を自分は理解することができたか」を振り返ることはとても大切です。しかし,自分の理解状況を適切に振り返る(=メタ認知的にモニタリングする)ことは,私たちの想像以上に難しく,メタ認知の正確さに関する先行研究では私たちはしばしば過大評価や過小評価をする傾向があることが報告されています。もし,理解できていないのに理解できたと過大評価をすると,本来必要な学習行動が生起されません。逆に,理解できているのに理解できなかったと過小評価をすると,本来必要のない学習行動が無意味に繰り返されることになります(ただし,「過剰学習」といって,あることができるようになった後も多少学習を継続した方が学習効果が高いという知見があります)。

 一般的に,メタ認知の正確さは小学生よりも中学生の方が高いとされています。また,低学力の学習者よりも高学力の学習者の方が高いことも知られています。これは,メタ認知の能力が年齢とともに発達することや,学力とメタ認知能力には相関関係があることが原因です。ただ,メタ認知を正確に働かせられるようにするためには,判断に利用可能な手がかりとフィードバックを与えることが効果的とされています。したがって,学習内容を確認することを目的とした振り返りを行う際は,学習プリントや小テストなどのように自分の理解状況を確認できるような手がかりを与えたり,学習者の振り返りに対して教師がコメントを返してあげたりすることが大切です。このような指導を継続的に行うことによって,子どもたちのメタ認知の正確さは徐々に高まっていくでしょう。

関係付けや一般化をする「振り返り」

 学習内容を現在や過去の学習内容と関係付けたり一般化したりすることを,教育心理学では「精緻化」や「体制化」などと呼びます。精緻化とは,学習した内容を既有知識や経験,日常生活などと関連付けることをさします。学習した内容に関連する情報を付加することによって,理解が深まったり思い出しやすくなったりします。体制化とは,上位概念や下位概念などに整理したり分類したりすることをさします。例えば,植物の種類を覚えるときにそれぞれの種類をバラバラに覚えるよりも,種子植物の中に裸子植物と被子植物があり,さらに被子植物の中に単子葉類と双子葉類があるなどと整理した方が覚えやすいでしょう。精緻化や体制化などといった活動は,認知的方略といわれています。一方,振り返りのように自らの学習状況に目を向けることはメタ認知的方略といわれています。つまり,関係付けや一般化を目的とした振り返りは,認知的方略とメタ認知的方略を同時に働かせることになります。「今日学んだことと前回学んだことを比べると,どんなことがいえそうかな?」など,関係付けや一般化の対象となる知識や事象などに目を向けさせ,意識的に取り組ませることが認知的方略やメタ認知的方略を効果的に活用することにつながります。

自己変容を自覚する「振り返り」

 学習内容の理解や学びの深まりに対して自分の成長を自覚し,ポジティブな感情を抱くことはとても大切です。その代表として「自己効力感」が挙げられます。自己効力感とは,過去の経験に基づいてある行動が自分にはできるとする信念であり,自己効力感が高い人は,難しい課題にも粘り強く積極的に取り組むことが明らかになっています(Bandura,1995)。新学習指導要領の観点別学習状況評価の1つである「主体的に学習に取り組む態度」は,粘り強い取組を行おうとする側面と,自らの学習を調整しようとする側面の二つの側面を評価することが求められており,振り返りによって自己効力感を高めていくことが重要であると考えられます。では,振り返りの場面において,自己効力感を高めるためにはどのようにすればよいのでしょうか。私は2点あると考えています。1つ目は,自分と友達のようすを比較させ,友達の良い部分を見つけさせることです。これは観察学習ともいいます。上手くできた友達のようすを観察させることで,「なるほど,そうすればできるのか!自分も同じようにすればできるはずだ」という感覚をもたせるのです。2つ目は,授業前と授業後の自分を比較させることです。そのためには,学習前のわからない自分と学習後のわかった自分をそれぞれメタ認知させ,そのギャップに意識を向けさせなければいけません。こうして「わかった自分がわかった」ことに気付かせるのです。

授業における「振り返り」の意味

 「授業も残り3分なので,最後に振り返りをしましょう」のような教師の発話だけでは,子どもの振り返りは単なる感想になってしまう場合があります。そこで,最後に私が考える良い振り返りの条件と要素について述べます。

○条件:「何をどのように振り返り,次にどうつなげるか」が明確になっていること

○要素:条件を3つの要素に分解

1)何を(=振り返りの対象):前述した振り返りの3つの意味や目的に応じて,振り返りの対象を明確にする。例えば,学習内容の確認であれば理解状況や達成状況,関係付けや一般化であれば知識のつながりや関係,自己変容の自覚であれば自分自身に目を向けさせる,など。

2)どのように(=振り返りの視点):振り返りの目的に応じて視点を持たせる。例えば,学習内容の確認であれば目標や課題と照らし合わせて,関係付けや一般化であれば前時と本時の学びを関連づけて,自己変容の自覚であれば授業前後の考えを比較して,など。

3)どうつなげるか(=学びの連続性):振り返りは過去を見て終わりではなく,未来の学びをより良いものにするために行うものである。振り返りの結果を,次の学習にどう活かしたり改善したりするかを見据えて行う。

 教師であれば,自らの授業における振り返り活動が子どもたちにとって効果的なものとなっているかについて,さらに振り返って再考することも必要である。


引用文献
Bandura, A.(1995)Self-efficacy in changing societies. Cambridge University Press.
田村学(2018)深い学び 東洋館出版社

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(5)メタ認知の指導に関する基本三原則とは (2020.08.07 update)

「深い学び」が「不快な学び」にならないために

  新学習指導要領では,育成を目指す資質・能力が「生きて働く『知識・技能』」「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等』」「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』」の三つの柱で整理されました。そして,この資質・能力を一人一人の子どもに確実に育成するため「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善が求められています。これらの背景や考え方については,分かりやすく解説している書籍が多数あるのでここでは説明を省きます。ただ,1つだけ注意すべき点を挙げておきます。「主体的な学び」や「対話的な学び」そのものは,とても大切なことですが,子どもたちが主体的・対話的に学習を進めていても,それに伴って学びが深まっていなければ意味がありません。「主体的な学び」や「対話的な学び」が「深い学び」の実現に向かっている必要があります。「深い学び」に向かわない「主体的な学び」や「対話的な学び」を追求すること,つまりは,単に活動だけを促すような目的意識が希薄な学びを学習者に強いることは,子どもたちにとって「不快な学び」になる可能性があります。

  第1回から第4回までの中で,学習におけるメタ認知の重要性や役割,授業づくりなどについて解説してきました。ここまで読んでくださった読者の方々であれば,「深い学び」にはメタ認知の働きが欠かせないことは理解いただけたと思います。ただ,メタ認知を働かせて学習することは学習者にとって認知的な負荷がかかるため,メタ認知への働きかけや指導が過度になると,これもまた不快な学びになってしまう危険性があります。そこで最終回となる今回は,メタ認知の効果的な指導に関する3つの原則について紹介したいと思います。

メタ認知の効果的な指導に関する3つの原則

  メタ認知研究の世界的権威であるビーンマン博士は,長年オランダのライデン大学で教鞭を取りながらメタ認知に関して幅広く精力的に研究し,数多くの著書や論文を執筆されています。第1回で紹介したMetacognition and Learning(Springer)というメタ認知に特化した国際誌の創立編集長も務め,現在はメタ認知研究所を設立して教員を対象としたワークショップなども開催しています。そのビーンマン博士は著書の中で,メタ認知の効果的な指導には3つの原則があるとしています(Veenman,2011)。その基本三原則について私なりに説明を加えて解説していきたいと思います。

  1つ目は,“メタ認知を学習課題と一緒に指導する”です。メタ認知を学習課題から切り離して指導することは望ましくありません。なぜなら,習得させたいメタ認知的知識や実行させたいメタ認知的活動を学習課題の文脈に埋め込んで指導することで,子どもたちはどのような場面でどのようなメタ認知を働かせるべきかを理解できるからです。やや専門的になってしまいますが,メタ認知的知識は「プロダクション・ルール」といい,「if(もし〜ならば)」といった条件的知識と「then(〜する)」といった手続き的知識で構成されます。メタ認知を学習課題と一緒に指導することによって,条件的知識と手続き的知識の結び付きが形成され,新たな課題解決を行う際に必要なメタ認知的知識が想起され,適切なメタ認知的活動が遂行できるようになります。

  2つ目は,“メタ認知を働かせることの良さを教える”です。先ほど述べましたが,メタ認知を働かせることは認知的に負荷がかかります。私たち大人も未熟で慣れないことを実行するためには,そこに注意をたくさん向けなければならずとても大変です。それと同様に,子どもたちが慣れないメタ認知を働かせることはとても負荷がかかります。したがって,メタ認知を働かせることの良さ(メリット)を教えなければ,メタ認知は自発的に利用されなくなります。メタ認知を働かせて問題解決に成功できた体験などを積み重ね,メタ認知の有用性を強調して指導していきたいところです。

  3つ目は,“メタ認知は長期的に指導する”です。時間をかけて指導やトレーニングをすることで,先ほどのプロダクション・ルールが蓄積され,メタ認知を円滑に運用できるようになります。私は,各教科の年間指導計画の中に,どの単元でどのようなメタ認知を育成したいかを明確にしてカリキュラム・マネジメントを行うことが効果的と考えています。教科や単元の内容によって指導すべき,あるいは指導しやすいメタ認知的知識があります。例えば,小学校第5学年理科では条件を制御しながら解決の方法を発想する力の育成が求められていますが,そのためには,「実験の計画を立てるときは変える条件と変えない条件について整理する」や「調べる条件を1つずつ変えて実験計画を立てないと,結果の考察ができなくなる」などといったメタ認知的知識が必要になります。このような知識は,エネルギー領域であれば独立変数や従属変数を設定しやすいため指導しやすいのですが,地球領域では時間的・空間的な要因を自ら制御できないため指導が難しいという性質があります。したがって,各学年の教科や単元の特徴に応じてメタ認知的知識をいつ,どのように指導するかといった長期的,継続的な指導計画を立て,明示的に指導していくことが大切です。まさに,“メタ認知は1日にして成らず”です。

あとがき

  全5回にわたってメタ認知の概念や授業づくりなどについてお話ししてきました。教育や学習におけるメタ認知の重要性は以前から誰もが認めるところですが,新学習指導要領の中でメタ認知という言葉が初めて使用され,各学年や各教科の指導の中で子どもたちのメタ認知にどのように働きかけ,そしてそれをどのように評価すべきか,ということが教師にとって現実的な問題となりました。この問題の解決には,メタ認知の概念が提唱されてから現在に至るまでの約40年の間に蓄積されてきた様々なメタ認知研究の知見が活かされます。私たち教育学研究者は,多くの理論やデータを持っています。また,学校現場の教師は実践に関する多くの知恵や工夫を持っています。我が国の教育政策がコンテンツベースからコンピテンシーベースに大きく転換した変革期にある今こそ,研究者と実践者の協働が強く問われているのではないかと,考えている次第です。


引用文献
Veenman, M. V. J.(2011)Learning to Self-Monitor and Self-Regulate. In R. Mayer, & P. A. Alexander(Eds.)Handbook of Research on Learning and Instruction(pp.197-218). New York: Routledge.

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※Q&A ~現場の先生からいただいた上記記事に対する質問と回答~


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Q1.「『メタ認知』と学び」の連載3回目、「(3)『メタ認知』に働きかける授業づくりとは」では、久坂先生が実践された中学校の理科の授業が紹介されていました。メタ認知を働かせる場面として、実験計画の場面に焦点をあてたのは、どのような意図からでしょうか?

 A(久坂先生):
 科学的探究、あるいは問題解決の基本となるプロセスは、「仮説の形成」「観察・実験の計画」「証拠の評価」の3段階から成ります。私は2016年度に岩手大学に着任後、1年ごとに1ずつ焦点をあて、研究に取り組んできました。

科学的探究のプロセス
 「仮説の形成」2016年度に研究 
 「観察・実験の計画と遂行」2018年度に研究 
 「証拠(考察やまとめ)の評価」2017年度に研究

 2017年度は、2段階目に当たる「観察・実験の計画と遂行」より先に3段階目にあたる「証拠の評価」を研究しましたが、それは「観察・実験の計画と遂行」の研究が一番難しいと考えたからです。実験計画の立案は、科学的探究の中心であり、そのためには、実験に対する見通しを持つことが必要です。

 また、平成30年度(2018年度)の文部科学省の「全国学力・学習状況調査」の結果では、条件を制御した実験を計画することに課題があると指摘されています(国立教育政策研究所,2018)。具体的には、中学校の理科において、条件を制御して光合成の働きを調べる実験を計画する問題の正答率が19.8%であり、5人に1人しか正答できていませんでした。そうした課題を受け、私は、メタ認知をどのように働かせれば、観察・実験の計画を立てられるようになるのかを研究することにしました。

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Q2.「『メタ認知』と学び」の連載3回目、「(3)『メタ認知』に働きかける授業づくりとは」では、メタ認知的知識を指導するために「実験計画の7つのルール」を作成し、授業で指導したとありましたが、具体的にはどのような指導をされたのでしょうか?

 A(久坂先生):
 私が勤務する岩手大学教育学部の附属中学校で、理科の授業時に「特別授業」という形式で実践しました。本来は、理科の単元のなかに組み込んで指導したかったのですが、中学校教員ではない私が通常の授業を受け持つことは難しいため、理科の「特別授業」という形で、2時間指導しました。

 メタ認知的知識を指導するためには、テキストがあったほうが子どもにわかりやすいと考えて、テキストを作成しました(下記参照)。

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 まず、理科における実験とは何かを指導しました。本学部附属中学校には、学力上位層の生徒が多いため、まだ学習していない「独立変数」と「従属変数」という言葉を用いて、実験とはどのような活動なのかを説明しました。そして、理科の実験を計画するときに必要な7つのルールについて、「理科の学習場面」と「日常の生活場面」で考えさせる練習をしました。これは、学んだルールの理解と活用を促すためです。

 例えば、ルール2は、「結果に影響を与えそうな独立変数を多面的に考える」です。理科の学習場面においては、小学5年生の学習内容であるふりこを例に挙げ、「ふりこが1往復する時間の違いを実験で調べるとき、結果に影響を与えそうな要因にはどのようなものがあるか考えよう」という問いを生徒に出し、独立変数を考える練習をさせました。

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 日常の生活場面でも同様の問いを出しました。複数回練習することで、本質から具体に肉づけを行う“文脈化”と、具体から本質を抜き出す“脱文脈化”がそれぞれ起こります。そうすると、本質が見えてくるため、理解と活用が深まり、多面的に考える力を育成できると考えました。

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Q3.「『メタ認知』と学び」の連載3回目、「(3)『メタ認知』に働きかける授業づくりとは」では、「実験計画の7つのルール」を用いて授業実践をされましたが、各学力層の子どもは、メタ認知的知識(「実験計画の7つのルール」)をどのように活用したのでしょうか?

 A(久坂先生):
 今回の実践授業は、附属中学校という一般の公立校とは異なる学力の集団で行ったため、学力層別での分析はできていません。ただ、これまでの研究から、学習者のメタ認知に働きかけた際、最も効果があるのは中間層だと、私は仮説を立てています。中間層は、ある程度の認知能力を持っていますが、その運用の仕方が不十分なことが多く、メタ認知に介入すれば、学力は伸びると考えられるからです。

 一方、下位層は、メタ認知よりも、読み書き計算などの認知能力を鍛える必要があります。上位層は、高い認知能力を生かして解答できるため、メタ認知を促してもそれほどの効果はありません。下位層や中間層の子どもにとっては「メタ認知」となる行為でも、上位層の子どもにとっては「認知」になるからです。

 以前、ある小学校で、算数オリンピックに出題される難問を出したところ、30秒ほどで答えを出した子どもがいました。その子に話を聞くと、「問題文を読んだ瞬間に答えが見えた」と答えました。そうした子に「今まで学習したことを思い出してごらん」といったメタ認知を促すような発問をすると、かえって邪魔になる可能性があります。学力上位層の子どもは認知能力が高いため、メタ認知を働かせなくても、問題が解決できるのだと実感した瞬間でした。

 今後、私の研究室ではこの研究を更に深めていきたいと思います。

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Q4.子どもがメタ認知を働かせた結果として、思考や行動が変容した場合、それを教師はどのように見取ったらよいでしょうか?また、それを見取るための評価指標はどのようなものでしょうか?

 A(久坂先生):
 子どもの思考過程を見取ることは、とても難しいものです。そこで、授業において、教師が子どもに積極的に外化(発言や行動)を促し、その思考や行動の変容がどのように表出したかを見取ることが妥当です。また、メタ認知は、レベルの高いものから低いものまで存在するため、その質を見取る必要がありますし、量的なものを見取る必要もあると考えています。そのため、学習の様子や発言、ノートの記述などのパフォーマンスを評価することが望ましいでしょう。

 参考資料として、海外のメタ認知研究を概観してみると、メタ認知の測定方法は、学習時間外に測定を行う「オフラインメソッド」と、学習中に測定を行う「オンラインメソッド」の2つに分類できます。オフラインメソッドは、質問紙やインタビューによるセルフレポートであるため、正確に測ることはできないというのが現在の主流な考え方です。

 注目されているのは、行動観察・発話プロトコル分析・眼球運動の記録・機能的MRIなどのオンラインメソッドです。例えば、「眼球運動の記録」は、目の動きを記録する装置をつけ、目の動きを捉えることにより、メタ認知を測定するものです。また、「機能的MRI」とは、MRIを利用し、子どもに学習課題に取り組ませ、前頭前野がどのぐらい働いているか調べる方法です。また、「ふきだし」は、私たちが考案した測定方法で、ある設問に取り組む際、子どもが頭の中で考えていることをふきだしに書き出してもらい、その記述を得点化する手法です。

 なお、オンラインメソッドの方が、正しく測定できるというエビデンスが多くの研究から明らかになっています。

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Q5.子どものメタ認知による思考や行動の変容を見取るためには、キーワードやモデルが必要だと考えられますが、ルーブリック評価はいかがでしょうか?

 A(久坂先生):
 近年、メタ認知研究においては、学習者のメタ認知を外的に評価する方法としてルーブリック(コーディングスキーマ)が活用されています。例えば、Bannertの2014年の論文では、学習者のメタ認知的な活動を分析するために、下記のようにメタ認知を7つのカテゴリーに分けて把握しています。

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 次に紹介するのは、私たちが作成したルーブリック評価です。Q4でも紹介したふきだしを用いてメタ認知的な活動を測定するためのものです。

 例えば、算数のメタ認知では、「プランニング」「評価」「精緻化」が大事だと考え、それらを3つのカテゴリーを軸に作成しました。また、質的な評価もできるように、レベルを3つに分け、例えば、プランニングでは、抽象か具体的かを基準としました。

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 小学校や中学校で子どものメタ認知の働きを見取る際には、こうしたルーブリックが有効な手立てになると考えています。以前、メタ認知研究会でご一緒した東京都・町田市立鶴川第二小学校の鈴木明子校長からは、「ルーブリックが、評価指標になると同時に指導目標にもなる」とご意見をいただきました。子どもにどういったメタ認知を身につけてほしいのか、目標を明らかにし、その目標に照らし合わせて子どもを見取っていく。つまり、その目標がルーブリックになるのではないかと考えています。

 Q4では、オンラインメソッドにおいて、機能的MRIや眼球運動を記録する装置を用いてメタ認知を測ることができると説明しましたが、学校でそれらの機器を使って測定することは非現実的です。そこで、学習の様子や記述、発言の量や質を、ルーブリックを用いて得点化することが、学校でメタ認知を測定する唯一の方法になると考えています。

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Q6.メタ認知にも、教科横断の能力と教科固有の能力があると考えています。教師が教科固有のメタ認知を、全教科にわたって把握し、指導することは難しいのではないでしょうか?

 A(久坂先生):
 メタ認知が教科固有の能力なのか、教科横断の能力なのかは、メタ認知が盛んに研究されるようになった頃から議論されており、今も続いています。ただ、メタ認知は領域固有(教科固有)の要素よりも、領域一般(教科横断)の要素の方が大きいのではないかといった指摘があります。

 読解課題におけるメタ認知スキルと問題解決課題におけるメタ認知スキルでは、それぞれ固有の活動が見られますが、完全に独立したものではありません。他領域の類似したメタ認知が転移すると考えられます。例えば、理科の学習において、教師が積極的にメタ認知を促すと、子どもたちは他教科で身につけた、理科に使えそうなメタ認知スキルを想起して使用しています。ゆえに、メタ認知は教科横断で、訓練や活用を促すことに意義や価値があると言えます。

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 しかしながら、教科固有のメタ認知スキルも存在するため、それも育成していかなければならないと考えています。その際、学習内容から切り離して指導することは難しく、また単元の学習内容によっても指導のしやすさは左右されます。

 例えば、小学校5年生の理科で「実験を計画する力」を育成する際、 種子の発芽やふりこの規則性では教えやすいですが、気象領域では教えにくいといった事などが挙げられます。

 また、1人の教師が、すべての教科で領域固有(教科固有)のメタ認知スキルを指導するためには、まず、教科固有のメタ認知を整理し、メタ認知のカリキュラム・マネジメントを作成するとよいのではないでしょうか。何年生のどの単元で、何をどのように教えるのかといった計画を作成できれば、指導がしやすくなると思います。全教科を一度に作成するのは大変ですから、今年度は理科と社会といったように、数年間かけて作成するとよいでしょう。

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Q7.メタ認知は、一般化するほど蓄積しやすく、具体的なほど蓄積しにくいものだと理解していましたが、Q6の回答で、教科の文脈とも切り離せないという話を聞き、迷いが生じてしまいました。メタ認知は一般化するほど、子どもは使いやすくなるのでしょうか?

 A(久坂先生):
 一般化は大切ですが、メタ認知は固有の文脈があって獲得されていきます。様々な学習をするなかで共通項を捉え、帰納的なものとして一般化されていきます。子どものなかで一般化されたメタ認知は、別の事例でも使えるようになるのです。そのため、個別の事例ばかりを積み重ねることは、子どもにとっては不快なことと言えます。個別のメタ認知スキルが積み上がった際、それを教師が一般化してあげることが大切です。

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Q8.教科固有のメタ認知も、問題解決系、目標実現系、表現型といったような分類ができないでしょうか。そのようにすれば、教師は、全教科でメタ認知能力を育成できるのではないでしょうか?

 A(久坂先生):
 Q6でお伝えしたとおり、教科固有のメタ認知が存在します。そのため、学習内容にメタ認知を使う場面を盛り込み、指導するのが望ましいでしょう。問題解決系、目標実現系と抽象的な能力として分類してしまうと、かえって指導しづらいのではないでしょうか。

 教科固有のメタ認知を一段上のレベルで括るよりも、どの単元で、どのようなメタ認知を育成したいかを抽出し、表に整理した方が教師も指導しやすくなるのではないかと考えています。例えば、小学1年生でメタ認知を育成したい場合、どの教科のどの単元で指導したらよいかを考え、カリキュラム・マネジメントしていくのです。

 それに関連して、私はメタ認知スキルの二次元モデルを作ろうと考えています。メタ認知には、教科固有(領域固有)のものと教科横断(領域一般)のものがあります。そして、レベルが、低次なものから高次なものまであります。メタ認知は、学習を繰り返していくなかで、一般化が促進されていきます。いきなり高次なものから教えると、子どもは混乱してしまうので、低次で、教科固有(領域固有)のメタ認知からスタートするのがよいのではないかと考えています。

 例えば、この単元ではこのメタ認知を使おう、それができたならば、他の単元、他の教科でも使えるようにデザインしようと進めていく。そうすれば、メタ認知は、斜め上に上がっていくようなイメージで獲得されていくのではないかと捉えています。

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 このモデルを考える際にエビデンスとした研究を紹介します。Van der Stel & Veenmanの2014年の論文によれば、メタ認知は直線的に発達せず、13歳から14歳にかけて成長するが、14歳から15歳にかけては固定または回帰するとされています。それは、14歳から15歳にかけてメタ認知の一般化が起きているからだと、主成分分析によって分析し、結論づけています。

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Q9.意識的にメタ認知を働かせて活動している子どもは、必ず自分の行動を言語化して説明できるものなのでしょうか。「言語化して説明できないから、意識的に活動できていない、メタ認知を働かせていない」と判断してよいのでしょうか?

 A(久坂先生):
 頭のなかで、言語を用いて思考することと、思考の過程を振り返って言語として表出することは、多少異なります。事実、頭のなかで思考していても、上手に言葉で話すことができない子どももいます。

 ただ、意識的な(=メタ認知を働かせた)活動は言語化できると考えていますが、 意識下にも“何となく”という弱いものから、明確な根拠を伴う強いものまでレベルがあるため、レベルの弱いものは、言語化するのは難しいかもしれません。

 また、メタ認知的活動も熟達化(=自動化)が進むと無意識下で実行可能となるため(連載2回目参照)、「言語化できない=メタ認知が働いていない」と断言することはできないでしょう。

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Q10.大人でも意図的に働かせることが難しいメタ認知ですが、「自分のメタ認知はあてにならない。ずれることがある」といった認識は、他者と学ぶ意義を理解することにつながると思います。そうした認識は、メタ認知を働かせることのよさを実感させることの弊害になってしまうのでしょうか。

 A(久坂先生):
 「メタ認知のずれを実感すること」と「メタ認知のメリットを実感すること」には、直接的な負の関連はないと思われます。むしろ、ずれを実感することによって慎重に判断しようとする態度を形成できるのではないかと考えています。

 ただ、子どもたちに、そうしたずれを実感させるためには、教師の支援や手立てが必要です。メタ認知を働かせてアウトプットさせる機会を増やし、「自分はもっとできていると思ったけども、正しくできていなかった。だから、気をつけて判断しなければならない」と気づかせることが重要だと思います。

 また、メタ認知が正確に働くかどうかは、性格にも関係すると海外の論文ではいわれています。昨年、私は日本の中学生を対象に同様の研究を行いました。評価過敏性(他者の評価を気にしやすいこと)の高い子どもは、テスト実施後に自分を過小評価する傾向にあります。一方、誇大性(他者の評価を気にせず、自らを肯定的に認識する傾向の強いこと)の高い子どもは、一貫して自己評価を高く見積もっている可能性があります。そのため、そうした自己愛傾向は、メタ認知的判断の正確さをゆがめる可能性があると言えます。

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Q11.ソーシャルスキルを高めるようなメタ認知を育むにはどのようにしたらよいでしょうか?

 A(久坂先生):
 ソーシャルスキルのような高次な能力の育成に関して、規則性を述べることは難しいものがあります。

 ソーシャルスキルは、行動分析学や認知行動療法が得意とする分野で、ソーシャルスキルトレーニング(SST)として既にある程度確立した手法があり、そちらを参考にしていただければよいと思います。私はソーシャルスキルを鍛えるには、他者を見ることによって学ぶ、モデリング(観察学習)などが鍵になるのではないかと考えています。これは自己調整学習においても大切であり、他者の様子を見て、この場面ではこのようにすればよいのだと学ぶことです。

 具体的な指導方法は、ロールプレイ(役割を決めて練習する方法)や場面想定法(場面を決め、その際にどのような言動をすればより望ましいか学ぶ方法)などがあり、練習を積むことによってソーシャルスキルは高まっていきます。

  特定の場面状況において、どのような言動が望ましいのか、自分の言動に対して他者はどのような感情を抱くのか、メタ認知を働かせながら学習することが大切です。ソーシャルスキルやメタ認知は技術ですから、訓練すれば上達すると言えます。

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プロフィール


岩手大学教育学部 准教授 久坂 哲也 ひささか てつや  

■経歴

専門は、理科教育学・教育心理学・認知心理学・教育工学。岩手大学教育学部・教育学研究科修士課程、及び鳴門教育大学大学院学校教育研究科(研究生)を修了後、岩手県の公立小・中学校における6年間の常勤講師を経て、2012年度に大阪大学大学院人間科学研究科(博士課程)へ進学。2014〜16年度、日本学術振興会特別研究員(DC2)。2016年度から現職。

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