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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。


2019.02.06 update

授業づくりで重要となるのは、生徒の主体的な学びを促すことです。その実現のために、学びのプロセスを教師・生徒が共有でき、生徒自らがそれを把握できることは有用です。ICE(アイス)モデルは、質的な評価が基本であり、指導と評価が一体化しているため、どの教科・科目であっても同じ視点で授業構成を把握することができます。

 

1.ICEモデルの概要

ICEモデルは、スー・F. ヤング博士 とロバート・J. ウィルソンによる著書『「主体的学び」につなげる評価と学習方法-カナダで実践されるICEモデル-』によって日本に紹介された学習・評価方法です。ICEのIはIdeas(基礎的知識)、CはConnections(つながり)、EはExtensions(応用)の頭文字であり、それらは学びの領域(フレーム)を示しており、ICEモデルはフレームワークとして機能します。

ICEモデルの基本的な考え方は「基礎的知識(I)のつながり(C)を適切な質問と指導を通じて理解させ、さらに自らの体験に結びつけた知の応用(E)へ発展させる」というものです。すなわち、知識を相互に関連づけてより深く理解したり、知識を他の学習や生活の場面で活用したりできるようにするための学習モデルといえます。ICEモデルの特長を以下に示します。

  • (1)ポータブルであり適用範囲が広い。
       教師生徒・生徒教師で共有可能であり、生徒自身が学びのプロセスを把握できる。
  • (2)表現される内容が質的で能動的である。
       質的な変化をとらえやすく、改善の方向性を見出し、実践につなげやすい。
  • (3)C領域において、知識の統合が促される。
       知識を関係づけることが重視され、見方・考え方を培うことができる。
  • (4)E領域において、学びの質的飛躍が期待できる。
       活用志向であり、文脈に位置づいた中で、応用や創造がめざされている。

主体的な学びでは、生徒自身が自分の学びについて感度を高め、省察を働かせながら自分の学びをコントロールしていくことが重要だと考えます。この意味から、(1)で示した内容は大変重要です。ICEモデルはブルームのタキソノミーと比べると、わずか3つのフレームからなる、とてもシンプルな構造をしています。したがって、教師は指導内容がどのフレームに相当するのかを常時把握することができます。また、生徒も自分の学習活動がどのフレームに属しているのかを簡単に知ることができます。(2)~(4)についても、順次具体例を交えながら紹介していきたいと思います。

また、ICEモデルのE 領域は、学びの文脈に実社会の内容を取り入れたり、他者を想定した学習活動を基盤としやすいため、PISAが目標的とする「身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるか」ということと親和度が高いといえます。以前から「学校で学習したことが社会で生きて働かない」という指摘がありますが、ICEモデルの活用はこの指摘に対する回答の一つになると考えています。ICEモデルの具体的な内容は「4 ICEモデルの各フレーム内容と活用の要点」で説明します。

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2.ICEモデル導入の経緯

平成26年に広島県立安芸高等学校に赴任し、生徒の主体的な学びを推進すべく、当時話題となりつつあった「アクティブ・ラーニング」を授業づくりの柱として導入することにしました。導入にあたって関連書籍や文献をいろいろと調べましたが、なかなか学校の実態に合うものがないことや具体的な内容が示されているものが少なかったことから、学校独自のアクティブ・ラーニングのためのガイドブックを作成することにしました。問題は主体的な学びにかかわって評価をどうするかでした。それまでブルームのタキソノミーを基本に考えていましたが、日々の授業で継続して使うには複雑過ぎ、ポータブルで負荷を感じることなく使えるよいものがないかと模索が続きました。そんな折、たまたま前述のスー・F. ヤング博士の著書に出会い、強いインスピレーションを受けました。さっそくその年の2学期から研究を始めました。その年の12月に、広島文化学園大学でスー・F. ヤング博士のICEモデルに関する講演があり、ICEモデルが指導と評価を一体化したものであり、高校でも十分活用できるものだとわかりました。さらに同月、広島県教育委員会から、「広島版『学びの変革』アクション・プラン」が出され、生徒の主体的な学びを軸とする授業づくりの方針と施策が示されました。その一つとして、下﨑邦明教育長(当時)がICEモデルを紹介し、その考え方について研修会等で講義が行われました。また、県教育委員会が発行する広島県教育資料には、ICEモデルを軸とした各教科・科目の学習指導案が掲載されるなど、授業づくりに関する具体案が示されました。本県のICEモデル活用の基点は、下﨑教育長による紹介にあるといえます。これらのことを背景として、2学期からICEモデルを軸としたアクティブ・ラーニング(以下「AL」という)を導入し、生徒の主体的な学びを促す授業づくりを始めました。

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3.ICEモデル活用に向けた組織的な取組

ICEモデルの導入には2つの障壁がありました。一つは学校運営上の課題で、ALとICEモデルの理解を進め、新しい授業づくりへの必然性と意欲をいかに高めるかということ、もう一つは実践上の課題で、ALとICEモデルを各教科・科目の特質に応じて、どのように具現化し授業展開するかということでした。それらを解決するために、まず考えたことは、講師を招聘しての講義や授業の実施、先進校視察や研修会参加、大学との研究会の開催など、外部の力を借りて推進力を得ることでした。また、日々の授業を変える方法として、定期試験にICEのC・Eレベルの評価問題を出題し、評価問題から授業に迫っていくことにしました。教務部が授業の実施状況を入力するシートを作成し、出題された評価問題を整理し、全員で共有・評価するというシステムをつくり、組織的な取組の基盤整備を行いました。こうして徐々に「ICEモデル」という言葉が校内に浸透していき、実施2年目にはすべての教科・科目でICEモデルを軸としたALを実施することができました。

平成28年に赴任した祇園北高校は、カリキュラム開発を行う「活用スクール」として県教育委員会から指定を受け、牽引役として中核教員が配置されていました。中核教員は、活用コア推進会議やルーブリック作成委員会を開催したり、カリキュラム開発に関する授業実践や資料提供を行うなど、校内の実施体制を構築し、学びの変革をリードする役割を担っていました(図1)。

図1.校内の実施体制

校内の実施体制
※上記画像をクリックすると拡大します。



単独校で授業改善に取り組む場合に比べ、中核教員(指定校配置)や実践推進リーダー(全校配置)の措置など、教育委員会からの様々な支援が組織的な取組を進めるうえで大きな力となりました。「広島版『学びの変革』アクション・プラン」は、各学校に授業改革のための求心力を生みだす源として大きな力を発揮したのです。 校内への円滑な導入を図るには、取組の「軸」を定め、授業づくりの方向性を明確に示すことが不可欠だと思います。本校の場合、ICEモデルがその「軸」としての役割を果たしました。また、ICEモデルは組織化を進める過程で、コミュニケーション密度を高める「共通言語」としても有用でした。

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4.ICEモデルの各フレーム内容と活用の要点

表1に、ICEモデルの各領域について、指導と評価に関する内容を整理したものを示します。大まかにいうと、C領域が「見方・考え方」を培うところであり、E領域が、習得した知識・技能や見方・考え方を活用して、問題解決をしたり、価値を創造したりするところです。表1の上から5段目に各領域を特徴づける動詞を記載しています。ICEルーブリックでは動詞に着目して学習活動を扱います。なお,、簡略化し、I、C、Eの各領域を、以後それぞれ、I、C、Eと表記します。

表1.ICEモデルの領域と内容

ICEモデルの領域と内容
※上記画像をクリックすると拡大します。

例を挙げると、「説明する」はIの動詞ですが、これがEでは「説得する」「納得させる」などになります。これは、Eの学習活動が単なる説明ではなく、他者性を前提としたものだからです。解答についてみると、Eに至る学びのプロセスでは他者の存在が色濃くなるため、表1の最下行にあるように、「正解」から「最善解」や「納得解」に移っています。これは実社会や複雑な状況において、正解が一つに定まらず、複数解の存在が想定されるためです。実社会では過不足や拮抗する立場や考え方が存在することが多く、問題解決を行う場合、様々な要因や条件を考慮しながら、総合的に判断して最善解を求めることが重要になります。単に既有の知識を再生するだけではこのような問題解決に役立ちません。必要とされるのは準備された選択肢から正解を選ぶのではなく、「読み取った情報と既有知識を組み合わせ、複数の選択肢をつくりだし、その優先順位を考える」という高次の思考・判断力です。

Eでは非定型の課題を扱い、「提案する、価値をつくる、創造する」などの動詞に象徴されるように、新たな価値を生みだしたり、体験を価値づけたりする学習活動が重視されます。なぜその教科を学ぶのか、その教科の学習を通してどういった力が身につくのかなど、学びの本質的な意義に迫る問いが位置づきます。そういった問いは、生徒が学びを通してアイデンティティを成長させ、よりよい社会づくりにどのように参画していくのかにつながるもの(super extensions)で、ICEモデルの特長だといえます。

評価の面からみると、Iでは知識・理解・技能を正確に効率よく習得することが重視されるのに対し、Eでは、質や創造性などが重視されます。領域によって力点の置き方が異なるということです。ここではICEルーブリックについては詳述しませんが、参考として表2に理科(化学基礎)の年間計画のルーブリックを示します。ICEルーブリックの記述では、何が不足しているか、何ができないかなどネガティブな面でなく、エビデンスに基づいたポジティブな表現を用います。また、量よりも質を、振る舞いよりも認知的な変化の過程を取り上げます。ICEルーブリックは質的な評価であり、量的な評価に比べると、内容よりも学習のプロセスに焦点を当てたものになります。

表2.化学基礎のルーブリック
(広島県立尾道北高等学校 下高呂元成教諭作成)

化学基礎のルーブリック
※上記画像をクリックすると拡大します。
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著者紹介

柞磨昭孝 たるまあきのり

柞磨 昭孝 たるまあきのり  プロフィール

■経歴

1983年広島大学大学院理学研究科修了、同年、広島県立広島井口高校教論、1993年広島県立教育センター指導主事、1997年広島県教育委員会指導課指導主事、2002年広島県立広島国泰寺高等学校 SSH研究主任、2004年広島県エキスパート教員認証、2006年広島県教育奨励賞、2007年文部科学大臣優秀教員表彰。2008年広島県立廿日市高等学校定時制課程教頭、2011年同校全日制課程教頭。2014年広島県立安芸高等学校校長を経て、2016年から現職(広島県立祇園北高等学校校長)。

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