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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。


2019.03.13 update

「深い学び」につなげるために、家庭科の授業にICEモデルを取り入れることから実践が始まった。その後、SSHの取り組み、学校全体での実践へとつながっている。現在、ICEモデルの視点を入れた①考査問題②記述の足場掛けのチェックリスト③ホームプロジェクトの評価表④学校独自作成の「授業改善の工夫の見せどころシート」⑤シラバス等、様々な活用法を実施しており、二高ICEモデルと表現し、活用方法の改善を継続している。

 

1.背景

 

本校はSSH指定校(スーパーサイエンスハイスクール)で、現在4期目である。本校にとって3期目の平成23年度から、学校設定科目として「科学家庭」が設定された。他教科との連携を一層深めたり学習内容を発展させたりして、専門性の高い科学実験等へとつなげるなどの工夫に取り組みつつ、「深い学び」をもたらすためにどうしたらよいか、そしてそれを測定するにはどうしたらよいか模索していた。そうした時期に、ICEモデルとの出合いがあった。IはIdeas:基礎知識、CはConnections:つながり、EはExtensions:発展・応用を意味する。

家庭科の内容を大まかに3本柱で表現してみると、「教科の学習」「ホームプロジェクト」「学校家庭クラブ活動」に分けられる。このうち、主に知識の習得である教科の部分が「I」、学んだことを実際に体験する・実習する部分が「C」、知識や経験をもとに課題解決に取り組むのが「E」と捉えることができる。家庭という自分の足元の課題解決に取り組むのが「ホームプロジェクト」、グループで学校全体や地域へと活動を広げていくのが「学校家庭クラブ活動」。まさに「E」の課題に生徒が主体的に挑戦する場面となっている。

このように、生徒が主体的に課題解決に取り組む仕組みを家庭科は備えているが、それを「意識させて」一層深く取り組ませるための重要なツールとして、ICEモデルを活用したいと考えたのが始まりである。そこで最初に取り組んだのが、ホームプロジェクトのルーブリック評価表内にICEモデルの視点を取り入れることである。学びの質の変化をデータとして追い、取り組みが深い学びにつながるとの仮説に基づき、実践を継続している。

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2.学校・教科に導入する過程

前出のホームプロジェクト「ルーブリック評価表」の項目を「ICE」それぞれの視点で分類し、表示を記載して活用したのが平成27年度からの取り組みである。点数化し、データで追うことを考えながら、ルーブリックの作成に大変苦労して「とりあえず」実践したという感じだったが、生徒のコメントに支えられ、少しずつ改善を加え、本校の生徒に合ったものに変えながら運用を続けている。また、その前年からポスターセッションやポスターツアーという取り組みも進めており、その評価表にもICEの視点を取り入れるために自分の教科内で活用する場面を広げて行った。その背景にはこの教科の動きをSSHとして学校全体で進めていこうという学校長の判断があった。

平成28年度には熊本地震に遭遇し、通常の状態でない学習環境となった。そのような状況であればこそ、一層充実した取り組みを工夫する必要があると考えた。同時に、大学入試制度改革も見据え、ICEモデルの視点を取り入れた考査問題をすべての教科に取り入れることが、新テストへの対応にもつながると考えた。このことから、当時所属していた1年部でICEモデルの視点を取り入れた考査問題作成を提案し、実践するに至った。教科によって取り組みの難しさもあることから、先進的に取り組むことができた教科からのスタートではあったが、翌年には職員研修の1つのテーマとして取り組み、普及へと進めていった。

更に、職員への普及のため、広島県立祇園北高等学校の柞磨昭孝校長先生をお招きし、職員研修を実施した。ICEモデルの視点を取り入れる場面を、教科を超えて共通に使用できるものはないかと考えた。そこで、教科を越えて共通に使うツールとしてインストラクショナルデザイン(以下、ID)の視点を取り入れ、職員全員が短時間で記入できるフレーム、本校独自の「授業改善のための工夫の見せどころシート」(以下、見せどころシート)を作成することにつながった。このフレーム自体がIDの視点で作成されており、本校はICEモデルとIDを両輪として、授業改善の研究を進めている。

現在、「見せどころシート」を作るために参考になる記事や職員が実際に作成したものをまとめた「見せどころ設計マニュアル」を作成し、全職員で共有・活用している。

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3.実践事例

現在本校では、様々な場面で、ICEモデルの視点を取り入れた工夫を取り入れており、「二高ICEモデル」として運用している。筆者の活動を中心に、事例を紹介する。

具体的な取り組み場面は、(1)問題作成(定期考査問題、生徒の作問)、(2)講演会感想等の記述場面でのチェックリスト、(3)ホームプロジェクト等の評価表、(4)「見せどころシート」(5)シラバス等々多岐にわたっている。それぞれの活用例を示しながら活用方法を紹介する。


 

(1)問題作成

①定期考査問題

Eレベルの問題として、家庭科では「他者へ伝える・説明する」ことや「問題解決へ向けた発展的アイディア」など、視点が広がる方向を想定している。答える時間の速さや多さを求める考査スタイルとは対極に位置するともいえる出題スタイルを目指しているため、50分という考査時間を有効に使うための工夫も取り入れた方法を考えている。具体的に下記の出題例では、事前に提示した新聞記事を読んでくることを前提として、その上で考査において解答する形式とした。この記事自体が、自分で新聞記事を選ぶという課題の生徒の取り組みを基にしており、自分達の中にそのような新聞の読み方ができ、選択できる人がいるのだというメッセージを込めた。

また、出題例【D】(4)には、ICEモデルの視点で作成したチェックリストを示し、どのような質の思考・工夫を問われているのかを理解しやすくするための「足場掛け」を行っている。

表1.定期考査問題出題例


問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。


②生徒の作問

 

本校家庭科の授業改善の取組では、授業方法の工夫も様々に実施している。その1つとして、生徒が授業内容をもとに作問する場面がある。簡単な家庭科の問題で表現すると、調理の際の切り方の写真を見せ「この切り方の名称は?」と尋ねるのが「Iの問題」。「この切り方をする食材は他に何がありますか?」とか「この切り方をするのはなぜですか?」と尋ねるのが「Cの問題」。「この切り方の食材が入った料理を、友だちに説明しなさい。」が「Eの問題」と捉えることができる。この授業の取組では、「Cの問題」の作成を目指すことに取り組んでいる。


 

(2)講演会感想等の記述場面でのチェックリスト

本校では、家庭クラブ活動やSSHをはじめとする講演会、LHR等において、気付きや感想を記述する場面が多い。生徒の思考を一層深いところへ主体的に導くためには、教師がその場面に応じた足場掛けを準備することが必要であり、生徒の意識を高めることにつながる。その足場掛けとしてICEモデルの視点のチェックリストを作成する取り組みを行っている。本校ではこの仕組みを、eポートフォリオ作成にもつながる取り組みとして位置付けている。

①家庭科の授業での活用


【食生活領域】
「環境負荷の少ない食生活」を実行していくために、あなたにできることは何ですか?

表2.郷土の野菜を使った調理実習を終えての気付きのチェックリスト


問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。

【衣生活領域】

表3.家庭課題「セーターの手洗い」について気付きのチェックリスト


問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。

②家庭クラブ活動での活用

表4.家庭クラブ活動の講演会を終えての気づきのチェックリスト


問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。

③LHRでの活用

表5.LHRでの「学び方の支援に関する取組み」を終えて記述のチェックリスト


問いの構成

(鈴木克明著「学習設計マニュアル」を使用し、学び方・タイムマネジメント等の取り組みを計3回実施)

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(3)ホームプロジェクトでの評価表

ホームプロジェクト発表会の進め方として、次のような手順を取っている。①ホームプロジェクトのチェックリストを基に自己評価 ②グループに分かれて冊子の相互回覧 ③グループ内での口頭発表・相互評価、④再自己評価(記述)、⑤記述内容を回覧し、シェアする。

下記にグループ内での相互評価に使用する評価表を示しているが、評価項目をICEで分類して表記し、それぞれどこに該当するのかをマーカーで塗る形で評価するという使い方をしている。塗るだけで評価が終わるので、簡単で取り組みやすい。合格・不合格という区切りにしているのは、段階を付けることで「このくらいでもよいのだという誤ったメッセージを伝えないように(ヒドゥンカリキュラムにならないように)するためである。

問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。

 

(4)「授業改善のために工夫の見せどころシート」での位置づけ

下記のようなフレームを作成し、「3方法・内容」「4教員の評価の方法」「7生徒の自己評価」の欄に具体的に記述するスタイルとしている。

問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。

 

(5)シラバス

年間指導計画の「問い(C/Eの問い・社会とのつながり・家庭生活での応用と表記)」の欄を設け、その単元を通して思考する問いを列記している。
【家族領域】 「持続可能な生活」へとつなげるために必要なことは?
【衣生活領域】持続可能な衣生活へ向けて、環境や社会への影響に配慮した消費とは?
【保育領域】 社会の一員として、子どもと関わり育んでいくために、今のあなたがすべきことは?
【高齢者領域】地域社会の一員として、今のあなたができることは?
【食生活領域】持続可能な食生活のために、あなたが今できることは?
       食を通して異文化を見つめたら?
       食文化を伝承するためには?
【消費経済領域】消費者市民社会を実現していくために、あなたが今できることは?
【ホームプロジェクト】家族の生活を一層よくするためには?
【全体を通して】授業によってどのような力が付いたと実感しているか?
この取り組みも、教科の特性を生かしてそれぞれの教科で取り組みの工夫を継続している途中である。

本校の授業改善の取り組みを図示すると、下記のように表現できる。本校の取り組みの中心にICEモデルが位置していることを読み取っていただけるのではないだろうか。これらの取組が、本校の生徒にフィットしたオーダーメイドの授業へとつながっていくことを目指し、今後も研究を継続していきたい。

問いの構成
※上記画像をクリックすると拡大します。
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著者紹介

田尻美千子 たじりみちこ

田尻 美千子 たじりみちこ  プロフィール

■やっていること

教職歴26年。同高に赴任して9年目。校務分掌はSSH部、授業開発部。担当教科は家庭科。平成28・29年度国立教育政策研究所教育課程研究センター関係指定校事業の家庭【共通科目】の指定を受けた。現在再び同指定を受け、実践を継続している。ICEモデルに出合い、翻訳者の帝京大学土持ゲーリー法一教授を通して広島県立祇園北高等学校の柞磨昭孝校長の御紹介を受け、多くの実践について研究している。ICEモデルと同時にインストラクショナルデザインにも興味をもっており、2つを両輪とした授業改善の工夫を積み重ねている。また、ICEモデルの視点を入れたチェックリストを、eラーニングで投稿させる場面で活用するなどの工夫も取り入れている。

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