*みなさまの声をお聞かせください!*

学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。


2019.04.09 update

「主体的な学び」を生徒一人ひとりに促すために、単元設計においては、「ICEルーブリック」と「自己目標の設定」のセットを「形成的評価(大福帳)」と組み合わせることで、生徒には「自己調整学習」、教師には「指導と評価の一体化」が生み出されるようにしています。また、各授業時間の中では、「ICEモデル」を軸に「見通し」→「方略」→「振り返り」の学習サイクルを生徒一人ひとりが回していけるようデザインしています。


 

 

(1)評価問題

 私は協同学習から始まり、反転学習やジグソーといった手法やアクティブ・ラーニング(以下、AL)の概念を積極的に自分の授業の中に取り入れてきました。それは教室にいる生徒一人ひとりが学ぶ喜びを実感できる授業を目指すための試行錯誤でした。そうした中、ある研究授業のために、自分の授業をビデオ撮影することになりました。この時の授業展開は、知識構成型ジグソー法を取り入れたものでした。生徒たちがジグソー活動をグループで行っているビデオ映像を見て、私は大変驚きました。その映像の中で生徒たちは、私が予想もしていなかったことに気がつき、疑問をもち、話し合っていたのです。私は感動するとともに動揺もしました。私の授業はこの生徒たちの発見や問いを生かせているのか、もしかしたら潰してしまっているのではないか、また、話し合いは活発だが果たして授業のねらいは達成できているのか、「活動あって学びなし」になってしまっているのではないかと不安になったのです。そこで、授業のねらいを生徒一人ひとりが達成できているのかをどう見とればよいのか、また対話的な学びの中で生まれた学びの広がりをどう評価すればよいのかといった問題と向き合うことになりました。


 

(2)学校・教科に導入する過程

 これまでの観点別評価やルーブリックでは、評価場面が限定されてしまうことに課題を感じていました。例えばグループ学習を評価しようとした際、観点別評価にしろ、ルーブリックにしろ、評価基準として設定した記述語が出ているかどうか聞き取ろうと、そこだけに集中してしまい、学習者の全体的な変容を捉えそこねているように感じていました。また、学習者の気付きや変化は授業の様々な場面で起こります。すると、評価場面を限定してしまっては、そうした一人ひとりの変化を見逃しかねません。ALを実践されている先生方とお話をしても、やはりこの評価問題に苦労されているようでした。


 

(3)ICEモデルとの出合い

 こうした問題意識を持ったなか、平成29年3月に地元の徳山大学で開催されたアクティブ・ラーニング勉強会で広島県立祇園北高等学校の柞磨昭孝校長にお会いしたのです。柞磨校長は「広島県におけるALの導入・展開について」というタイトルでお話をされ、その中で主体的な学びの実現に向け具体的な授業改善手法として「ICEモデル」の実践について触れられました。量的な評価である従来のルーブリックに対し、「ICEモデル」のルーブリック(以下、ICEルーブリック)は質的な評価であり、教師生徒が共有可能で、生徒自身の学びのプロセスを把握できることを教えて頂きました。また、平成30年の11月には祇園北高校にお邪魔し、改めて柞磨校長からお話を伺うとともに、祇園北高校の先生方の授業実践を見学させていただきました。このようにして出合った「ICEモデル」の理論と実践の中に、私自身が抱える評価問題の解決の糸口を見出せたように感じました。


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(4)ICEモデルとの出合い

 まず、授業デザインの視点としての素晴らしさです。授業案を構想する際、これまでは、導入ではここを教えて、展開ではこの部分を話し合わせてといった具合に時系列で考えてきました。ところが「ICEモデル」では基礎知識(Ideas)、つながり(Connections)、応用(Extensions)といったフレームで授業をとらえます。実際にはE(応用)の状態、つまり生徒に単元を通してどのように変容してもらいたいのかといった地点から逆向き設計をし、そのために何の知識(I)をどのように結びつけ(C)ていくかといった形で授業デザインをしていきます。また、これらのフレームは「学力の3要素」とも関連づけることができるかと思います。「知識・技能」は「基礎知識(Ideas)」フレームと、「思考力・判断力・表現力」は「つながり(Connections)」フレームと、そして「主体的に学習に取り組む態度」は「応用(Extensions)」フレームとリンクして考えることができます。そして、これらのフレームを、発問といった形で授業の中に落とし込み、具体化させていきます。

 次に評価規準・基準としての明瞭さと柔軟さです。従来のルーブリックもパフォーマンス評価のツールとして大変有効でしょうが、やはりその作成の煩雑さや、使用場面が限定されるという点で日々の授業で活用することに困難さを感じていました。しかし、ICEルーブリックは大変シンプルです。また、各フレームには生徒の学びの過程や学びの性質が示されているため、現実の学習場面に応じて、その学びを成立させている要素や情報を多角的に把握することができます。したがって評価基準となる記述語の計量的な測定にとらわれる必要がなくなるのです。

 最後に、生徒との共有が可能であるという点です。わずか3つのフレームでできた大変シンプルな構造をしたICEルーブリックは、生徒でも十分理解が可能で、視覚的・直感的に把握することができます。後に詳述しますが、評価を生徒と共有するということは、生徒自身が自分の学習を評価することを可能にします。この学習としての評価(Assessment as learning)は、ALにおいて非常に重要な部分であると私は考えており、それを可能にするのがICEルーブリックだったのです。


 

(5)主体的な学びと自己調整学習

 主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善において、重要なのはいかに生徒の「主体的な学び」を促すかです。もちろん「主体的な学び」は、単体で語られるべきものではなく、「対話的な学び」、「深い学び」とセットで考えるべきものではありますが、まずはこの「主体的な学び」の視点から考えていきたいと思います。

 「主体的な学び」は、新学習指導要領解説編に「生徒が学ぶことに興味や関心をもち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」ことと示されています。この見通しを立てたり、振り返ったりする学習活動を行うためには、学習に関する自己調整にかかわるスキル、すなわち「自己調整学習」が極めて重要だと考えています。そこで「自己調整学習」がもつ「予見」→「遂行」→「自己省察」※という理論的な枠組みをもとに「見通し」→「方略」→「振り返り」という学習サイクルを設定しました(表1)。

 この「見通し」→「方略」→「振り返り」という学習サイクルの中心軸となるものが「ICEモデル」なのです。

※L.B.ニルソン「学生を自己調整学習者に育てる ・アクティブ・ラーニングのその先へ」

表1 「見通し」→「方略」→「振り返り」学習サイクル


「見通し」→「方略」→「振り返り」学習サイクル
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(6)見通し-「ICEルーブリックの共有」と「自己目標の設定」-

 まず、「見通し」の中心に生徒との「ICEルーブリックの共有」を据えました。具体的には、A4用紙1枚にICEルーブリックをまとめ、生徒全員に配布します(表2)。そして、毎授業の導入時に本時のめあてとして全員で共有します。ICEの全てのフレームを網羅する時もあれば、今日はIとCまでという時、こちらの要素についてはIまでだが、こちらの要素はEまでといった時もあります。このことによって生徒は、本時の授業のめあてが何であるのかを強く意識します。

 さらに私は単元の導入時に生徒一人ひとりに「自己目標」を設定させています。「読む」能力を身につける授業ならば、「どういうことを読み取りたいのか」、もしくは「どこらへんを読みこなしたいのか」といった自己目標を立てさせます。これは、「読む」という行為には、その目的がテキストの外部にある場合と、その行為自体が自己目的である場合があると考え、テキストとどう向き合うのかを一人ひとりに委ねているからです。「自己目標の設定」を通して、学ぶ対象世界と自分がどう関わっていくのかを考えることは、学びをオーセンティックなものにしていくためにも外すことのできないステップだと考えています。

 「自己目標の設定」とICEルーブリックの共有を行うことで、生徒一人ひとりが単元の学習内容を自分事とするとともに、授業のめあてに対して既知の知識・技能をどう組み合わせていくかといった自己スキーマを活性化させ、「見通し」を持つことができます。


表2 ICEルーブリック(5月配布)


ICEルーブリック(5月配布)
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※赤太字がルーブリックの「要素」


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(7)方略-「学習のてびき」と「授業内個別添削」-

 次に「方略」についてです。「読み」の授業において、読む「方略」とは、生徒一人ひとりが自らの読みの目標を果たすために、行動を意識的に選びとるプロセスをさします。例えば、評論文であるなら「キーワードを見つける」であったり、「対比関係を把握する」であったりします。こうした「方略」をICEルーブリックの要素(表2、表3赤太字)として提示します。表2と表3を比較すると、5月に配布した表2のICEルーブリックの要素は、テキストリーディングの「方略」であるのに対して、12月に配布した表3の要素は、テキスト評価や非連続テキストへの関連づけについての「方略」になっています。学習段階に応じて「方略」を発展・応用させていけるよう体系的に配置しています。

表3 ICEルーブリック(12月配布)


ICEルーブリック(12月配布)
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 また、この「方略」が生徒一人ひとりに意識され身につくよう、2つの工夫をしています。

 まず、大村はま先生が実践された「学習のてびき」の導入です。ご存じのように「学習のてびき」とは、生徒の発言スタイルや様々な表現を用いて、生徒にテキストを読む視点を示したり、多様な読みが生まれるよう複数の手がかりを示したりするものです。私は、「方略」を基軸にICEモデルのフレームに従って、この「学習のてびき」を構成・作成しています。てびきの本質的な内容は導入時の「見通し」段階でICEルーブリックとして提示されているため、生徒は「学習のてびき」を通して改めて「方略」を意識し、テキストに向き合うことができます。

 もう一つは「授業内個別添削」です。例えば授業内で問題に取り組ませる際に、生徒が個別に添削を受けられる時間を設けます。もちろん机間巡視でもよいのですが、中にはじっくり考えたい生徒や思考が中断されるのを嫌う生徒もいるかもしれません。そこで複数の課題や段階的な課題を用意し、質問でも添削でも構わないので自分の好きなタイミングで来るよう伝えます。このことで添削を受けない(受けられない)生徒が劣等感をもつことがないよう配慮しています。また、机間巡視した上で気になる生徒はこちらから声をかけ、きりのいいところで個別添削を受けるよう促します。この「授業内個別添削」では、どのように考えたのか、なぜそのように考えたのかを生徒に問うことで、ICEのつながりを思考の過程として、つまり「方略」としてしっかりと生徒が意識できるように支援していきます。

 以上の「方略」についての取り組みは、生徒一人ひとりの学習状況の違いにできる限り個別対応をすることで、生徒一人ひとりが自分の力でテキストに向き合える力を育成することを目指しています。

 

(8)振り返り-「大福帳」-

 最後に「振り返り」についてです。「振り返り」は、教師の視点から捉えれば「形成的評価」となり、生徒の視点から捉えれば自己評価となります。具体的には早稲田大学人間科学学術院の向後千春教授がテンプレートをHP上で公開している「大福帳」という振り返りシートを活用しています。この「大福帳」に、「見通し」段階で立てた「自己目標」記入欄と「ICEルーブリック」のキーワードを記入する欄、定期考査時に単元の総括的な振り返りを記す欄を加え、カスタマイズして使用しています(表4)。毎時間、この「大福帳」に2~3分で振り返りを書かせ、回収、チェックをし、気になる振り返りについてはコメントを返しています。記述内容は、授業の感想や困り感、質問、重要事項のまとめなど基本的には自由に何でも書いていいとし、「振り返り」疲れが起きないようにしています。また、ワンペーパーに毎時間書きとめていくため、個人の学習の変容が一目で分かる縦断的個人内評価となります。こうした優れた一覧性と、管理の容易さが「大福帳」の魅力だといえます。

 実際に、この一年間「大福帳」を運用して気がついたことは、たとえ自由記述にしていても、生徒は授業のめあてに即した内容を書いてくるということです。その理由は、「見通し」段階で提示するICEルーブリックにあると考えています。ICEルーブリックの持つ学習フレームを足掛かりに、生徒は学びを振り返り、統合したり、関連づけたり、精緻化したりすることができるのです。こうした「振り返り」を繰り返していくことで、生徒一人ひとりが学習としての評価(Assessment as learning)を身につけることができます。つまり、生徒自身がメタ的な視点で、ICEの学習フレームと現在の自分の学習状況を比較し、自身の学びを評価することができるようになるのです。これが次の「見通し」につながることで、まさに「自己調整学習」が、この学習サイクルの中で動き出すのではないかと考えています。

 さらに、教師にとっては、学習の認知面だけでなく情意領域も含め、次の授業改善に生かすことができる資料(Assessment for learning)として、また、コメントを介してマインドセットや肯定的評価を行ったり、課題を焦点化したりするなど「指導と評価の一体化」を実現する指導ツールとして様々な活用が可能です。

表4 大福帳のカスタマイズ


大福帳のカスタマイズ
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(9)まとめ

 単元設計においては、「ICEルーブリック」と「自己目標の設定」のセットを「形成的評価」と組み合わせることで、生徒には「自己調整学習」が、教師には「指導と評価の一体化」が生み出されます(表5)。また、各授業時間の中では、「見通し」→「方略」→「振り返り」の学習サイクルを生徒一人ひとりが回していくことで、「主体的・対話的で深い学び」が促進されていくのだと考えています(表6)。

 今後の課題としては、ICEモデルの「E」にどのようにたどりつかせるかです。今まで私が述べてきた考えのすべての主語は「生徒一人ひとり」です。この「一人ひとり」という視点が、「個別化」ではなく「孤立化」になってはいけません。「E」フレームは他者とのつながりという観点を含んでいます。一人ひとりの学びが他者と出会うことで教師の想定を超えて広がっていくことが望まれていると考えています。またそこが従来の評価システムとは違った「ICEルーブリック」の魅力なのだとも考えています。生徒一人ひとりが方略をもって対象世界とつながり、その上で一人ひとりの違いが個性として生かされる、そんな授業作りや問いの構造化を今後も考えていきたいと思っています。

表5 単元設計


単元設計
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表6 授業設計


授業設計
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著者紹介

星野元幸

星野 元幸 ほしの もとゆき  プロフィール

■やっていること

 2004年静岡県立下田南高等学校南伊豆分校、2007年静岡県立清水東高等学校、2008年山口県立萩商工高等学校、2013年山口県立徳山高等学校、2018年度山口県優秀教員表彰、1年次主任、進路課、国語科。

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