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学習者中心の授業づくりを目指して―――
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。


2019.07.25 update

東京都町田市立鶴川第二小学校では、2015年度から2018年度まで、文部科学省の研究開発学校の指定を受け、学校独自の教科「21世紀スキル科」を設置し、「メタ認知力」を育成する授業を展開してきました。この取り組みの牽引者である鶴川第二小学校前校長の後藤良秀先生に、課題意識を持ったきっかけや具体的な取り組み内容をうかがいました。


 

 

(1)課題意識:思考力を高めるために、子どもたちに考える「すべ」を与える

 私は理科教育を中心に、教員時代から思考力を重視した研究を行っていました。理科の学習では、まず、自分の予想を立て、その予想を検証する実験を行い、実験結果から考察を導き出していきます。こうした問題解決のプロセスを通じて学びを深めていくためには、子どもたちにいかに思考させるかが重要だと考えていました。

 子どもたちの思考力をさらに高めるにはどうしたらよいだろうかと考えているとき当時文科省の教科調査官で現在日本体育大学の角屋重樹教授でした。理科教育の第一人者であり、教科教育学がご専門の角屋教授から「思考を深めるには、『すべ』と呼ばれるスキルや方法があり、子どもたちがそれを繰り返し使うことで考える力が身につく」と教えていただきました。

 例えば、授業では、よく教員は子どもに「○○について考えましょう」と言いますが、それだけでは子どもはどのように考えればよいのかわかりません。そこで、教員が、考えるための「すべ」を子どもに指導することが必要なのです。AとBを比較して違いに気づかせたり、対象と既有の知識とを関係づけたりして考えるという方法です。そうした考え方の手法を具体的に教えることで、子どもの思考は深まると学びました。

 また、角屋教授からは、「考えるプロセスを評価することが大切だ」ということも教えていただきました。最初は見当違いな予想しか立てられなくても、教員は子どもがどのように論理立てて考えているのかをしっかり見取り、適切にかかわり、経験を積ませることで、子どもたちは妥当な予想が立てられるように成長していくのです。そのためにも教員は、子どもに考えさせるための状況を提供することが大切だと学びました。

 角屋教授との出会いは、私にとってパラダイム転換であり、教育観が変わり、授業内容が大きく変わっていきました。

 私が校長として赴任した町田市立鶴川第二小学校(以下、「鶴川第二小学校」)でも、そうした授業を実践することで、東京都教育委員会の「児童・生徒の学力向上を図るための調査」や文部科学省の「全国学力・学習状況調査」において、思考力を見る問題の正答率の方が知識・理解の正答率より高くなりました。ただ、考える力を鍛え、思考力が高まったのだから、知識・技能も同様に伸びるだろうと考えていたのですが、知識・技能の数値の伸びは思考力を見る問題のような伸びが見られませんでした。

 そこで、私が考えたのは、子どもたちは「まだ勉強をやらされている」と思っているのではないかということです。自ら「学びたい」と感じ、自ら学びのエンジンをかけられるようにならなければ、主体的に知識や技能の習得ができないのだと考えました。

 

(2)気付き:思考力を高めたいと「メタ認知力」に注目

 主体的に知識や技能を習得できる子どもを育てるために、私が注目したのが2013年に国立教育政策研究所が提案した「21世紀型能力」です。「21世紀型能力」は、「基礎力」・「思考力」・「実践力」の3層構造でなりたち、日本の教育の目指す「生きる力」の根幹となると捉えられています。その「21世紀型能力」の中核と位置づけられているのが「思考力」です。「思考力」は、「問題解決・発見力・創造力」「論理的・批判的思考力」「メタ認知・適応的学習力」の3つから構成されており、私はそのうちの1つである「メタ認知・適応的学習力」に注目しました。自分の学び方を振り返る「メタ認知力」を育成し、それを働かせる力である「適応的学習力」を育てることが、次の学びへの原動力を育むことにつながり、自ら学びのエンジンをかけられる子どもを育てられるのではないかと考えたのです。

 そこで、「メタ認知力」を育成する授業の研究を行いたいと考え、文部科学省の研究開発学校に応募し、2015年度から2018年度まで指定を受け、研究開発に取り組みました。

 

(3)取り組み:思考力の育成を目指す「21世紀スキル科」を新設

 「メタ認知力」を育成して思考力を鍛えるために、鶴川第二小学校では「21世紀スキル科」という独自教科を新設しました。これまでに取り組んでいた思考を深める「思考のすべ」を活用させながら、「21世紀スキル科」では、自分自身や他者とかかわりながら「メタ認知力」を育成することを目的としました。

 独自教科としたのは、教員が教科指導をしながら「メタ認知力」の育成に取り組むのは難しいと考えたからです。まずは、「メタ認知力」をどのように育成するのか、そのための学び方や指導法を開発するため、教科学習とは別の時間を設けることにしました。

 具体的には、1・2年生では「生活」の35時間、3〜6年生は「総合的な学習の時間」の50時間を新教科「21世紀スキル科」にあてました。文部科学省の研究開発学校で特別に認められている教育課程編成「21世紀スキル科」の内容は、「自分づくり型」と「協働プロジェクト型」の2つの内容で構成しました。具体的には以下の通りです。

〈21世紀スキル科の概要〉※鶴川第二小学校 平成30年度研究開発実施報告書を基に編集部で作成。

・ 自分づくり型(6年生の場合…14時間)
 子どもが「なりたい自分を見つける時間」と位置づけ、目標の実現に向かって育成すべき思考力及び人間形成力の目標を立て実践し、自ら評価・改善する。また、メタ認知力を育成するためのモニタリングとプランニングの手法を身につける。その手法として自分を見つめる「トピックタイプ」と実際に行事などでその手法を実践する「目標設定評価タイプ」の2つの取り組みを行う。

★ トピックタイプ/「なりたい自分を見つける」ために、自分を見つめたり(モニタリング)、そのための手法を考えたり(プランニング)といった活動を行う。

★ 目標設定評価タイプ/運動会や林間学校などの活動を対象とし、目標や計画を立てる(プランニング)、その振り返りや調整をする(モニタリング)を行うなど子ども自らがPDCAサイクルを回しながら取り組む。


・ 協働プロジェクト型(6年生の場合…36時間)
 他者とかかわりながらこれまで学んだり経験したりした対象について、子どもが主体的・協働的に目標を実現する学習を行う。その学習過程においてメタ認知力を働かせながら教科等で身につけた知識・技能、学び方(ICT活用含む)、汎用的能力(思考のすべ)を活用して、思考力(主に適応的学習力)と人間形成力(主体性・協調性)を育成する。

★2018年度6年生の場合「私らしくあなたらしく〜MY LIFE PLANNING」というテーマで、自分の将来を見つめるような内容に取り組んだ。


 

(4)授業づくりの工夫:教育以外の分野の手法を取り入れた

 4年間の研究開発期間において特に苦労した点は、「メタ認知力」の育成をどのような手法で学校教育に取り入れるかということです。教育においての実践例は少ないため、教育以外の分野からヒントを集めていきました。例えば、スポーツ選手のメンタルトレーニングや、心理カウンセラーのカウンセリング手法、企業の社員教育やプロジェクト推進の手法などです。また、海外の教育手法なども勉強しました。例えば、オランダで開発された教育法であるエデュスクラムなどです。それらを参考に、先ほどの授業の枠組みを形づくっていきました。

 「21世紀スキル科」の授業を進める上で重視していることが2つあります。1つめは、「プランニング」です。従来型の教育でも、授業やテスト、行事などの振り返りで自分の行動を振り返る「モニタリング」は行っていると思います。例えば、テストの丸付けをして、間違えた問題を修正するといったことです。ただそれには、次にどのように行動したらよいか計画する「プランニング」が含まれていないことがよくあります。そこで「21世紀スキル科」では、次にどうしたらよいか考えさせ、反省を踏まえて改善を図って行動させる場面を複数回設けました。

 「自分づくり型」では、自分探しの手法として「モニタリング」や「プランニング」を活用していきます。その後、その手法を運動会や学習発表会、林間学校で実践させ、習慣化させていくのです。ときには失敗してしまうこともあるのでしょう。ただ、反省をもとに改善を行い、次の活動に取り組ませるのが、この授業のねらいです。そうして獲得できたものが、子どもたちにとっての能力なのです。

 2つめは、子どもたちが主体的に取り組めるようなテーマを設定したことです。「協働プロジェクト型」は、各学年でテーマを決めて協働で活動させていますが、自分や地域など身近なものとしました。環境問題などの大きなテーマでは、子どもたちの考えだけで問題解決は十分にできないため、どうしても教員主体になりがちです。自分たちが見ている地域や自然、人とのかかわりの中からテーマをみつけさせ、思いや願いをもって目標の実現に取り組むことで、目標を実現することを経験してもらいました。

 

(5)成果と課題:教科学習のなかでどのように「メタ認知力」を育成するか

 研究の成果を図るため、児童と保護者、教員にアンケートを行い、取り組みの効果を検証しました。児童アンケートからは、学習の前と後で、思考力と主体性が高まったことが分かりました。特に「今、していることは、計画に沿っているのか、考えながらやっている」という質問項目の数値が伸びました。保護者や教員のアンケートの自由回答からは、自己有用感が高まっているという点が挙げられていました。

 現在、鶴川第二小学校では、研究成果を教科学者に転用して他校でも活用してもらえるよう、「メタ認知力」を教科学習で育成する、研究を続けています。

 教科学習で「メタ認知力」の育成を行う際、私が重要だと考えているのが、学習のどの場面で子どもたちに「モニタリング」や「プランニング」などメタ認知を働かせるような学びをさせるか、その授業構成を考えることです。例えば、「ここで比較を使うと子どもの見いだす力が伸びるだろう」といった見通しを持った上で、授業を設計することが大切です。メタ認知を働かせる学びを各教科でどのように実践するか教科等横断で共有できるとさらによいと思います。例えば、国語の説明文の読解とこの算数の解法は似ているなと子どもたちが思い、それを活用できるのが理想です。それが教科等横断的なカリキュラムマネジメントにつながるのではないでしょうか。そうした汎用的な研究につなげられるよう、私自身も研究 していきたいと考えています。


著者紹介


後藤 良秀 ごとう よしひで  プロフィール

■経歴

 1982年東京学芸大学卒業後、東京都公立小学校教諭を16年間、1998年東京都北区教育委員会指導主事、2003年東京都教育庁指導部指導企画課指導主事、2006年東京都羽村市教育委員会学校教育部参事兼指導室長、2009年東京都教育庁人事部職員課主任管理主事として教育行政13年間を経て、2011年東京都町田市立鶴川第二小学校長を8年間務め、退職。2019年から現職(ベネッセ教育総合研究所顧問、町田市教育委員会委員)。

 校長職時代には、2012年東京都教職員研修センター教科基礎調査研究理科主査、国立教育政策研究所教育課程研究指定校(思考のすべ)、2014年東京都理数会議委員、2015年中央教育審議会教育課程部会理科ワーキング専門委員、文部科学省研究開発学校(21世紀スキル科)、2016年文部科学省カリキュラムマネジメントの在り方検討会議協力者等、理科教育や教育課程の研究や施策に携わる。また、全国連合小学校長会副会長、関東甲信越地区小学校長連絡協議会会長、東京都公立小学校長会副会長、東京都町田市公立小学校長会会長等の校長会の役職を務める。

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