21世紀、社会環境や仕事のあり方も大きく変貌しつつある中、多くの人が「教育も変わらなければならない」と感じている。だが、いざ自分の手で教育を変えようと思っても、どこから手をつけ、どのように変えていくのかという糸口がつかめない。この連載では教育の新しい地平を切り拓いた先駆者への取材を通し、「変化(シフト)」はどうやって起きたのかを探っていく。

連載第1回では千葉県の1人の高校生を取りあげたい。今更言うまでもないが、教育環境を21世紀型へシフトすることは教員の力だけではできない。国や自治体の協力も必要なら、保護者の積極的な関与も重要だ。また、周辺コミュニティなど学校を取り巻く環境も重要だろう。だが、何と言っても学業の主役たる「生徒」自身こそが最重要プレイヤーであることを忘れてはならない。なぜなら、生徒そのものが「変化(シフト)」を起こす触媒となることもあるからだ。

【取材・執筆】 ジャーナリスト・林 信行
【企画・編集協力】   青笹剛士(百人組)

 

 ひとりの中学生が教育者に変化をもたらした

本連載の第1回目で取材したのは、現在、千葉県立千葉高校1年生の山本恭輔さん('98年生まれ)だ。中学生時代から数千人を招いた企業イベントなどで講演を行っていた山本さん。特に「TEDx Osaka 2012」の英語のプレゼンテーションではトリを務め、スタンディングオベーションの大喝采を受けるなど評判をよんだ。ちなみに、「TEDx Osaka」は、世界的に優れたアイデアをプレゼンテーションする大会を主催する、米国を本拠地としたグループ「TED」からライセンスを受けた非営利団体である。また、「少年の主張 2012 全国大会」では、最優秀の「内閣総理大臣賞」を受賞し、森田健作千葉県知事を表敬訪問するなど、しばしばテレビや新聞を賑わしていただけに、知っている人も多いかもしれない。ご存知ない方は、彼の講演動画をぜひ見てみてほしい。必ず心動かされるはずだ。

 

山本さんは「トイ・ストーリー」を制作したことで一躍有名となった米国の「ピクサー・アニメーション・スタジオ」のコンピュータ・アニメーションに憧れて幼少期を過ごし、将来はデジタル技術を使って社会貢献をしたいという夢を胸に抱いて育った。中学を卒業するまでに、既に多くの社会貢献を果たしてきた彼だが、中でも教育関係者にとって重要な貢献は、「全国のICT教育の先駆者をつなぐきっかけをつくった」ことだろう。

教育イベントで先生たちに囲まれ記念撮影

2008年のiPhone発売、そして2010年のiPad発売以後、これをきっかけに教育を変えようと新しい取り組みをした教育者が全国に登場し始めた。だが、その多くは一教員の個人的な取り組み、あるいは1校単位での実験的取り組みであって、「○○高校がiPadを導入」と珍しがる記事は出ても、実際にそれをどのように活用しているかという情報はあまり共有されていなかった。そんな中、2012年、まだ中学3年生だった山本恭輔さんがiPadを活用している学校や塾を自ら取材し「教育現場iPad活用ガイド ~導入事例紹介~」という電子書籍を自ら執筆、編集、レイアウトもした上で出版した。この出来事がきっかけとなり、iPadで教育を変えようともくろむ全国の教育者の間に横のつながりが生まれ、さまざまなイベントが開催されるようになった。

 

山本さんは、こうしたイベントの多くに関わっており、イベントで登壇する教職員達の多くも山本さんという触媒を通して、活動を活性化させたのだ。イベントで知り合った先生同士が情報交換をしたり、先生自らがイベントで情報を発信したり、逆に他の先生の教育方法を学んだりした。こうして先生や生徒の親の間でiPad活用のノウハウが共有され始め、新しい導入事例につながり始めている。まさに1人の中学生を触媒に「教育環境のシフト」が起こり始めたのだ。現在、山本さんは学生の側から教育をシフトしていこうという心意気で教育の研究もしている。

 

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