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連載第3回では、入院を余儀なくされている子どもとその家族の Quality of Life(生活の質)向上のために、「教育の新しいカタチ」を模索している事例を紹介する。前編は、日本で唯一の小児がん治療専門施設「チャイルド・ケモ・ハウス」の教育への挑戦を取り上げた。後編では、チャイルド・ケモ・ハウスを舞台に、医療施設をデザインの力で変えようと奮闘するひとりの女性にフォーカスして、未来の教育へのヒントを探す。

【取材・執筆】 ジャーナリスト・林 信行
【企画・編集協力】   青笹剛士(百人組)

 

 大切だけど、学校では習わないことを教えたい

於保可那子氏

於保可那子(おほかなこ)氏は、専門校で服飾デザインを教えて6年目になるデザイナー。普段の仕事は社会人一歩手前の学生たちに教えること。その彼女がチャイルド・ケモ・ハウスで難病の子どもたちを相手に教鞭を取ることになった。

彼女が、チャイルド・ケモ・ハウスの楠木院長と話して考えたのは、「どうせやるなら普通の学校では習わないことを教えたい」ということ。そこから、彼女自身の本業でもある「デザイン」を教えようということになった。

授業の名前は「はじまりのプロダクト」。多くの小学生はそもそも「プロダクト」という言葉自体を初めて耳にするが、そのように名付けた理由は、「子どもたちにちょっと背伸びをさせてあげたい」という於保氏の思いがあるからだ。授業は1回40分で収まるようにつくり、毎回、例えば「腕時計」や「ジャケット」などのテーマを掲げて生徒たちに製品をつくってもらう。

この授業では、生徒に実際に工作をさせているわけではない。彼女が自ら教材として自作した切り絵のパーツを使って、生徒たちの意見を聞きながら1つの製品をつくっていく。

例えば「腕時計」がテーマの授業では、実際の腕時計とほぼ同じサイズに切り抜いた腕時計の絵、4種類の文字盤、4種類のアームバンド、4種類の針の切り絵を用意する。

生徒たちはE-Lecture(遠隔授業システム)の4択ボタンから好きな切り絵を選び、その結果が集計される。こうして人気のあるパーツを採用して製品を完成に近づけていく。最後に、彼女が完成した製品を授業の配信に使っているiPadの内蔵カメラに向かって掲げてみせる。

これが「デザイン選挙」とよばれる「はじまりのプロダクト」の目玉コーナーの流れだ。

 

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