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大学授業レポート~新たな学びのスタイル~

大学を取り巻く環境が変化する中で、大学も様々な授業の工夫を試みている。今回は金沢工業大学情報フロンティア学部心理科学科2年生の授業を取材した。

「オープンサイエンス」×「企業連携」×「ジグソー法」でSociety5.0のデータサイエンスを学ぶ(前編)

金沢工業大学 情報フロンティア学部心理科学科

金沢工業大学情報フロンティア学部心理科学科の石黒千晶助教は、2年次の選択科目で、企業から提供された清涼飲料水に関するパネルデータを、統計解析向けのプログラミング言語「R」を用いて分析し、学生に受け入れられる飲料を提案する問題解決型学習を行った。2年次の段階でパネルデータの分析を通じて実践的な分析の手法や観点を学ぶことによって、3年次、4年次での学びをより深いものにしてほしいというねらいがある。
前編では、本科目の展開と、学生の様子をリポートする。

(本記事は前編。後編はこちらです。

金沢工業大学 情報フロンティア学部心理科学科

大学2年生が、企業が収集したパネルデータを分析

 石黒助教が担当する「心理学データ解析応用」は、2年次後学期の選択科目だ。科目名のとおり、心理学の研究で用いられる統計手法と分析に使うソフトウェアの使用方法を実習の中で学ぶ科目だが、2021年度は、より実社会に即した資質・能力を育成するという心理科学科のカリキュラム改革の方針を踏まえ、例年以上に実践的な実習を取り入れて、データサイエンスで活用される分析手法を学べる授業にした。
 1〜5週目は、前年度と同様に、分析手法を学ぶ講義・演習を実施。6〜15週目は、それらの分析手法を応用する実習として、問題解決型学習(以下、PBL)を設定した。マーケティングリサーチの大手企業、株式会社インテージテクノスフィアから、実際にマーケティングで利用するために収集した清涼飲料水に関するデータを提供してもらい、データ分析と実地調査をした上で、企業から出された課題に提案するという実習だ。

石黒千晶助教
  • 石黒千晶

    東京大学教育学部総合教育科学科卒業。同大学大学院学際情報学府文化人間情報学専攻修士課程修了。同大学院教育学研究科心身発達科学専修博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(DC2)、玉川大学脳科学研究所研究員を経て、2019年、金沢工業大学助教に就任。

 

  • 「心理学データ解析応用」の概要

◎履修者(選択履修科目) 心理科学科2年生 47人

◎単元計画

単元計画

▲ 画像をクリックすると拡大します。

※授業計画を基に、学生の状況を踏まえて適宜変更しながら、授業を進めている。
※金沢工業大学では、コロナウイルスの感染拡大を防止するため、隔週でオンライン授業としている。

◎企業から出された課題
学生の視点で京浜エリアの学生に受け入れられる飲料を提案。データを組み合わせてマーケティングの4Pを練る。
マーケティングの4P……プロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(流通)、プロモーション(販売促進)

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「分析班」と「調査班」の全10班で、データ分析を突き詰める

 石黒助教は、今回の授業で行うPBLにジグソー法を取り入れた。学生47人は、6つの「分析班」と、4つの「調査班」に分かれ、エキスパート活動としてそれぞれ与えられた課題に取り組む。そして、ジグソー活動で各班の結果を全体発表で共有した。その後、中間発表では学生全員が企業へ提案したい内容を発表した。
 エキスパート活動やジグソー活動はチームで行うとともに、チームでの活動の結果を基に、個人で考察を深める課題も付随させた。個人でアウトプットすることで、各自が活動に主体的に参加し、学びを深められるようにするためだ。

◎活動の進め方

活動の進め方

▲ 画像をクリックすると拡大します。

 「分析班」は、企業から提供された膨大なパネルデータを、6つのテーマに分けて分析した。
 パネルデータとは、同じ調査対象者から、同じ項目の情報(データ)を継続的に収集した調査データのことだ。今回は、データ提供企業が独自に収集した、京浜エリアのモニター700人の購買履歴、ウェブサイトやテレビ、雑誌などでのCMの接触、さらにモニターの属性(年齢、性別、職業、年収など)などのデータと、京浜エリアにあるスーパーやコンビニエンスストアなどの小売店から収集したPOSデータ(購入の商品名、価格、日時、店舗、個数など)が分析対象となった。
 企業のデータは、「ブランド・月ごとの購買飲料の個数・金額」「モニターのアプリ接触」「モニターの飲料購買の時間帯やルート」など、6つのデータファイルに分かれており、班ごとにメインで分析するデータファイルを1つずつ指示された。そこで、石黒助教は、それぞれのデータに合った問いの例、例えば「ブランドごとの販売金額・月ごとの販売金額」「学生がよく使うアプリと飲料購入に関係するアプリの接触」「学生の購買飲料の特徴と購買ルート」などを設定。一方で、メインで分析するデータと他のデータを結合させれば、より発展的な分析ができることと、その手法を説明した。

 各班は、購買行動やメディアの接触率など、企業への提案を想定し、それに関連しそうな観点について、統計解析向けのプログラミング言語「R」(以下、R言語)を用いてデータを分析しながら検討した。
 例えば、「広告への接触を考えたときに、なぜ7月だけが視聴率が下がっているのか?」「そもそも今回のデータのモニターはどのような属性なのか?」「この月はどんな行動をしやすいのだろうか?」などの仮説を立て、それを実際にどのデータをかけ合わせて分析すればよいかも議論していた。メンバー内で互いに教え合い、それでもわからない場合には石黒助教に確認しながら分析を進めていた。分析を進める中で、出てきた結果をメンバー内で検討して解釈することで、当初の仮説から新しい観点が生まれ、その観点を踏まえてすぐに分析を実施するなど、授業内で議論がさらに深まっていった。

授業の様子
分析班はR言語を使って、その場でデータ分析を実施しながら議論を深めている。「重回帰分析は必要ですか?」という学生からの質問に、石黒助教は「気になったことは実行していきましょう」と促した。
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仮説を立てて調査内容を決め、学内の学生の購買動向を探る

 4つの「調査班」は、パネルデータとは別の観点でのデータを加えるために、独自の調査を行った。「文献調査」「学内で可能な調査や実験」など、これまでのカリキュラムで学んだ手法を活用してできる調査を班内で検討した。
 調査2班が行ったのは、学内の自動販売機での聞き取り調査だ。7週目の授業で、数ある自動販売機の中から調査を行う場所や質問の内容を検討。8週目の授業で、学内4か所の自動販売機に1時間張り込み、購入した人に随時協力を依頼した。

自動販売機での調査
学食内に設置された自動販売機で飲料を購入した人に声をかけて、購入した飲料のブランド、購入の理由などを調査した。

 調査場所は、学食内、学内のコンビニエンスストアの横、自習室内2か所にそれぞれ設置されている自動販売機とし、調査項目は、購入した商品名、購入理由、この場所での購入頻度、学内でほかによく購入場所の4項目とした。
 「メンバ−で話し合い、学食と自習室とでは購入する商品が違うのではないかといった仮説を立てて、調査場所を決めました。また、質問数が多いと答えにくいので、4項目に絞りました」(調査2班の学生)
 調査中はSNSでやり取りし、調査状況を確認。コンビニエンスストアで調査していたメンバーは、「性別も記録した方がいい」とメッセージを送った。
 「質問しているうちに、性別によって購入商品に違いがあるのではないかと気づいたので、調査項目に加えた方がよいと考えました」(調査2班の学生)

 1時間で聞き取り調査できたのは計8人で、自習室での購入者はゼロだった。
 「自習室で購入するのではなく、価格の安いコンビニで購入してから自習室に行くのかもしれない」
 「学食には無料のお水やお茶があるから、それを利用する人も多いかもしれない」
 「調査場所によって質問を変えてもよかったかもしれない」
 調査後の報告では、それぞれの気づきを出し合った。

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学生が自らの問題意識に基づいてチームづくり

 授業の最後にはすべての班が今回の授業内でわかったこと、面白いと思った観点について授業内で簡単に共有。そして、班内での議論を踏まえて、学生個々が次回までにワークシートに基づいて今回の分析結果をまとめるという課題が提示された。課題のレポートはMarkdown形式の分析コードも含めて提出させて、すべて授業のクラウドファイルに共有された。

Markdown形式…文章を記述するための記法(マークアップ言語)の一つ。

 次の9週目の授業では、エキスパート活動を行った10班から1人ずつ集まった別のグループでジグソー活動を行った。ジグソー活動では、エキスパート活動での分析結果を1人ずつ報告。ジグソー活動のグループでは元の班の分析結果を知っているのは1人だけなので、クラウドファイルに共有された分析結果を示しながら、各学生がエキスパート活動で得られた分析結果を自分の言葉で説明した。全10班の分析結果が集まったので、商品別に時期による販売傾向とその特徴が表れた要因、CMの視聴と購買動向など、様々な観点の分析結果を集めて議論することができた。

 その後は中間発表をはさんで、チーム活動に進んだ。10週目に行われた中間発表では、エキスパート・ジグソー活動ですべての班の分析結果を概観した上で、学生一人ひとりがどのような方向性で提案を検討していきたいかを表明。中間発表はポスター形式で行い、前半と後半セッションで学生は発表者と聞き手に分かれ、事前に配布された全員分の発表資料を見てから、気になった発表を自由に聞きに行った。そして、互いに「自分はチームに入ったらどんな貢献ができるか」も話し合った。
 中間発表の最後には、石黒助教からの「2~10人のチームに分かれてください」という指示の下、学生が自らチームを編成した。最終的には、そのチームで企業への提案をまとめるという流れだ。エキスパート・ジグソー活動では石黒助教が班を決めたが、最後のチーム編成は学生に任せた理由を、石黒助教は次のように説明する。
 「エキスパート・ジグソー活動での結果や各班の報告を聞いて、自分はどのデータを、どういう観点で活用して、アイデアを出していきたいかという思いが、学生それぞれにあると考えました。それを生かすためにも、思いが似ているメンバーが集まった方が、新しいアイデアが生まれやすいのではないかと仮説を立て、最後のチームづくりは学生に任せました」

 その結果、7つのチームが結成。その後、3週にわたってチーム活動でアイデアを練り上げるフェーズに入った。企業への提案をまとめて、15週目には企業への提案が行われた。

後編に続く)取材日:2021年11月22日

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