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大学授業レポート~新たな学びのスタイル~

「レゴ®シリアスプレイ®」メソッドを活用して、
社会の見方を再構築し、自分と社会とのかかわりを探究する 後編

九州産業大学商学部

九州産業大学商学部

九州産業大学商学部の聞間(ききま)理教授は、担当するゼミで「レゴ®シリアスプレイ®」メソッドを取り入れた2日間にわたるワークショップを行い、学生が社会への見方を広げ、自身と社会との関係を考えていく場を設けている。
前編では、「2021年の社会システム」を制作し、そのシステムの中での自分のあり方を考えて、発表するところまでを紹介した。後編では、「2030年の社会システム」の制作と、そのシステムに自分がどうかかわっていくのかを考えた活動をリポートするとともに、聞間教授にワークショップを振り返ってもらった。

(本記事は後編。前編はこちらです。

未来の社会問題と社会活動を結びつけ、「2030年の社会システム」を制作

 ワークショップ2日目の午後は、「2030年の社会システム」の制作を行った。「2021年の社会システム」から「2030年の社会システム」へと時間軸を進めることが狙いである。聞間教授は1日目に制作した2021年に重要だと考えられる社会システムに、新たに見いだした社会問題や社会活動があれば、ブロックで作品を追加制作して加えてもよいと呼びかけた。そして、2021年から変更があると考えられる社会システムを、大きな影響がある場合は「太いチューブ」、影響が小さい場合は「細いチューブ」でつなぎ直した。

 あるグループは、「時代の変化が加速すれば、考え方が古くなる速度も速まるよね。つまり、取り残される人が増えるという問題が出てくるのでは?」と新たな社会問題を加えた。

 また、「2030年をイメージした時、科学技術の進化しか思い描いていなかったけれど、それだけでよいのだろうか?」といった疑問が出されたグループもあった。

 さらに、自分のあり方・生き方と関連づけた意見も出されるようになった。
 「科学技術の進化で働かなくてもよい社会になったら、働く人の悩みはだいぶ解消されそうだよね」と発言したメンバーに、「いや、私はずっと働いていたいし、考えていたいから、逆に苦しくなりそうだな」と自分の考えを発言するメンバーもいた。

 聞間教授は、2021年から2030年へ視点をさらに発展させるように問いかけた。
 「そもそも科学技術が進化する源泉はどこにあるのだろう?」
 「科学技術の進化は、貧富の差にどのように関係すると思いますか?」

 このように様々な視点から議論し、最後に「2021年の社会システム」と同じように、次の3点を考え、ホワイトボードに記入。1グループ10〜15分間で発表した。
 ①一言で言うと〇〇社会
 ②コアな要素とメインの流れ
 ③どのようなことが起こりそう? その時私は?

 「2021年の社会システム」を「アイデア社会」と発表したグループは、2030年を「モノだけ新しい社会」と表し、次のように発表した。

 科学技術の進化によって新しいモノが開発されても、根本的なシステムは変わらないと考えました。「貧富の差」の問題は解決されず、生活困窮者がさらに増え、自殺者も増加するのではないでしょうか。また、科学技術の進化や規制緩和によって、黒(不便や不自由)から白(便利や自由)へとどんどん進んでいくけれども、ほどなくして「本当に白(便利や自由)がよかったのか?」という問いにぶつかります。そこで、結果的には真っ白にはならず、グレーに揺り戻しが起こるのです。
 アイデアによって生まれた新しい技術で、便利になる人がいる一方で、被害を受ける人もいます。新薬であれば副作用が起こり得るのと同じです。新しいモノと、過渡期のために解決できていない問題が混在する状態が生まれるでしょう。

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2030年の社会に、未来の自分はどうかかわるのか?

 2日間の活動のまとめとして、「2030年の社会システム」に1日目に制作した「2030年の未来の私のコアモデル」を配置し、自分がこれからの社会とどのようにつながっていくかを考えた。
 ある学生は、1人で黙々と配置を考えた後に、自らこう切り出した。
 「私は、情報を発信する仕事に就きたいと思っています。だから、断片的な情報しか世に出ていないという社会問題の解決を目指して、自分自身がもっと体系的・多角的で、みんなが分かりやすい情報を伝えられるメディアを構想したいし、その仕組みをつくる人をサポートしたいです」
 そのコメントに対して、ほかのメンバーから、「どうすれば、正しくて網羅的な情報にアクセスできると思う?」と質問が出されると、学生は「加工された情報ではなく、一次ソースにあたることが必要だから、取材力を強化していきたい」と答えていた。

また、「今回制作した社会システムとはあまり関係ありませんが、私は食品開発の仕事に就き、そこから社会に貢献していきたい」と語ったメンバーに、「その仕事は2030年にはどう変化すると思う?」と、未来に目を転じさせるような問いかけがあった。すると、「将来的には代替肉などが一般的に流通するようになり、食の市場は変化すると思う。持続可能な社会をつくるために、どのように食品の仕事をしていくか考えたい」と、未来の自分に目を向けていた。

 最後に、「2030年の未来の私のコアモデル」の作品を撮影し、自分と社会とのかかわりをまとめて提出する課題が出された。改めて自身の考えを言語化することで、社会と自分の関係性を振り返る機会とし、その内容をワークショップの成果として、参加者全体で共有するためだ。

 こうして2日間にわたるワークショップが終了した。

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学生に学び続ける力を育むLSPワークショップ

 聞間教授に今回のワークショップを振り返り、その狙いをお聞きした。

  • 聞間理

    九州産業大学商学部教授
    専門は経営組織論。“個を活かす組織”をテーマとする中で「レゴ®︎シリアスプレイ®︎」(LSP)メソッドに出会う。その後、LSP開発者のロバート・ラスムセンによるトレーニングを受け、経営学教育への応用に取り組む。その他、企業課題の解決や、社会人のリカレント教育などにも幅広く同メソッドを活用している。

 学生は、「レゴ®シリアスプレイ®」(以下、LSP)メソッドを通じて、他者との共通点を見いだす一方で、自分だけが見えている世界があることに気づいていく。その世界を誰にも理解してもらえないことは非常にもどかしいが、そうした経験が社会に出た時の糧になると、聞間教授は指摘する。

 「あるグループでは、1つの物事に対して、Aさんは『格差を是正する』と捉え、Bさんは『格差を広げる』といった視点を示して、意見が食い違っていました。それは時間内に解決しませんでしたが、それでよいと考えています。そのモヤモヤが彼らの中に残り続ければ、それを解消しようと学び、考え続けるからです」(聞間教授)

 前編の冒頭に取り上げた学生が書籍を紹介する活動は、ワークショップの実施後、ワークショップで取り上げられた社会問題の解決のヒントとなるような書籍を選ぶようになるという。ワークショップで社会システムを考えたことをきっかけに、学びが広がっていくのだ。

 ワークショップで得た学びは、大学4年間だけでなく、社会に出てからも影響を与え続けていくと、聞間教授は考えている。

 「今回のワークショップでは、自分が社会問題の解決に直接結びつかない仕事を選ぼうとしていることに気づいた学生がいました。そのように、LSPは、自分が見える世界とは異なる世界が常に存在しているという複眼的思考を育てる学びなのです」(聞間教授)

 社会問題を深く認識すれば、ボランティア活動など、具体的に自分にできることや活動を考えられるようになる。LSPは、学びのアウトプットの場であると同時に、学生自身の学びのモチベーションを発掘する機会にもなっている。

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(編集後記)

 「社会の諸問題は、どのようにつながっていると思うか」「あなたはどういった社会とのかかわりがあるか」。そうしたことを急に問いかけられても、多くの人が答えに窮してしまうだろう。今回の取材を通じて、LSPは、「見えるかたち」でそうした答えに迫っていくことができると感じた。
 聞間教授の言葉通り、学生たちの中にはたくさんのモヤモヤが残っていることだろう。それが「問い」となっていくことで、少しずつ自分や社会への眼差しに変容が起きていくのかもしれない。1年後、3年後、そして10年後に、彼らがその問いとどう向き合っているのか。再び尋ねてみたいと思った。

取材日:2021年11月6日、7日

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