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大学授業レポート~新たな学びのスタイル~

​​​武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 連載第6回

【授業レポート】プロジェクト基礎C(大学1年生対象)
まずやってみる、行動する!
1年生が「社会に新しい価値を生み出す」プロジェクトに挑む

2021年4月、武蔵野大学に日本で初めて設置された「アントレプレナーシップ学部」(以下、EMC)。多くの実務家教員による指導の下、3つの系統「マインド」「スキル」「アクション」(図1)を軸としたカリキュラムで、学生にアントレプレナーシップ(起業家精神)を育んでいる。
連載第6回では、2022年度の1年次4学期に実施された「プロジェクト基礎C」の授業をリポートする。学生が3~4人で1チームとなり、自分たちの課題意識を踏まえて、「新しい価値を生み出す」をテーマに事業計画を立てて実行するという科目だ。学生は、教員からの厳しいフィードバックを受け止め、とことん考え、試行錯誤しながら、想いを形にし、その実現に向けて行動することで、「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を生み出すマインド」と定義するアントレプレナーシップを体験的に学んでいく。

図1 アントレプレナーシップ学部のカリキュラムの構造

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お話を聞いた方

岩佐大輝
  • 岩佐大輝

    アントレプレナーシップ学部 教授
    株式会社GRA 代表取締役CEO。国内外で複数の法人のトップを務める起業家。2002年、大学在学中にITコンサルティングサービスを主業とするズノウを起業。2011年の東日本大震災後、壊滅的な被害を受けた故郷宮城県山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「東北の再創造」をライフワークとして、農業ビジネスに構造変革を起こし、1粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)など。

 
佐藤大吾
  • 佐藤大吾

    アントレプレナーシップ学部 教授
    NPO法人ドットジェイピー理事長、公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)理事長。大阪大学法学部在学中に起業、その後中退。1998年、若年投票率の向上を目的にNPO法人ドットジェイピーを設立し、議員事務所、大使館、NPOなどでのインターンシッププログラムを運営。これまでに4.5万人の学生が参加(2023.3.31時点)。2010年、イギリス発世界最大の寄付サイト「JustGiving」の日本事業「JustGiving Japan」を創業(2017年、LIFULLグループ入りを経て、2019年、トラストバンクへ事業譲渡)。国内最大の寄付サイトへ成長させるなど、日本における寄付文化創造にも尽力。

 
井上浄
  • 井上浄

    アントレプレナーシップ学部 客員教授
    株式会社リバネス 代表取締役社長CKO (Chief Knowledge Officer:最高知識責任者)。博士(薬学)、薬剤師。2002年、大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。博士課程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教、慶應義塾大学特任准教授を経て、2018 年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援等に携わる研究者であり経営者。経済産業省産業構造審議会委員、文部科学省技術専門審査員、JST SCORE-大学推進型委員会委員等も務め、多くのベンチャー企業の立ち上げにも携わり顧問を務める。

 
津吹達也
  • 津吹達也

    アントレプレナーシップ学部 教授
    電機メーカーの海外営業、デザイン系スタートアップ、IT企業の海外事業戦略等を歴任後、アロワナアドバンストアドバイザリー合同会社代表社員、株式会社トラデュケーション代表取締役。2021年より現職を兼務。グロービス経営大学院2012年卒業(MBA) 。教育領域では、立教大学産学連携プログラムの開発を非常勤講師として担当。専門は、地域社会連携、産学連携プログラムの開発、リーダーシップ・アントレプレナーシップ教育。

 
 

行動して学ぶ。実践を通じてアントレプレナーシップを醸成

 1〜3年次の必修科目「プロジェクト」は、カリキュラムの3つの系統のうち「アクション」に該当し、文字通り、学生がプロジェクトに取り組む科目だ。1年次から、自分たちの課題意識を基に事業計画を立て、実行し、振り返り、改善するというサイクルを積み重ねることで、実務のスキルを身につけるとともに、協働する力やマネジメント力などを磨いていき、アントレプレナーシップを醸成することをねらいとしている(図2)。

図2 1〜3年次の必修科目「プロジェクト」の学習目標

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 1年次3学期までに行われる「プロジェクト入門」「プロジェクト基礎A・B」では、事業を興す前段階として、徹底的に自己と向き合い、自分の軸を明確にしていく。自己紹介や他己紹介、小さなプロジェクトに取り組む中で、過去を振り返りながら、自分の強みや弱み、何がやりたくて、何をやりたくないのか、社会にどのように貢献したいのかなど、自分の内面をアウトプットする。そして、自分のアウトプットに同級生や教員からフィードバックを受けて、さらに自己を見つめ直すというプロセスを繰り返す。

 そうした過程を経て、1年次最後の4学期に今回取材した「プロジェクト基礎C」が行われる。3~4人1チームとなり、「新しい価値を生み出す」というテーマの下、自分たちで企画を立ててプロジェクトに取り組む科目だ。
 担当教員は、岩佐大輝教授、佐藤大吾教授、井上浄客員教授、津吹達也教授の4人。いずれも自ら起業した、第一線で活躍するアントレプレナーだ。

■「プロジェクト基礎C」の概要
◎履修者(必修科目):アントレプレナーシップ学部1年生 58人
◎単元計画(1年次4学期に集中講座で実施)

※Day1・Day3は9時〜15時50分、Day2は9〜12時。
※この日程の間は、チームで活動。

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授業は3日間。授業外の活動が学びのメインステージ

 授業は、1日目にチームづくり(写真1)、3週間後の2日目にオンラインによる中間発表、その2週間後の3日目に最終発表が行われた。授業自体は3日間だが、チーム結成から約1か月間で、計画を立て、実行し、発表までを行うため、授業時間外での活動が必須、というより、それが学びのメインとなる。
 メインのファシリテーターを務めた岩佐教授は、1日目の授業で学生に次のように伝えた。
 「この科目を飛び越えて、世の中の人をどう巻き込んで、新しい価値を創っていくか。そうした高い視座でプロジェクトを考えてください。昨年度は、ここでのプロジェクトをきっかけに、実際に起業し、人生が一変した1期生もいます。ここは、皆さんの将来の起業に向けた練習の場であり、真剣勝負の場です。これまで教員のフィードバックは優しいものでしたが、今日からは、皆さんの考えや行動がビジネスとして通用するかしないか、現実的に見て、フィードバックしていきます」

写真1 1日目のチームづくりでは、まず自分が実現したいことを一人ひとりが発表。「不登校の子どもを支援したい」「大人版キッザニアの実現」「旅と人が集まる空間づくり」など、それぞれが想いをアピールした。
写真1 1日目のチームづくりでは、まず自分が実現したいことを一人ひとりが発表。「不登校の子どもを支援したい」「大人版キッザニアの実現」「旅と人が集まる空間づくり」など、それぞれが想いをアピールした。

 チームは17チームが結成された(写真2)。各チームからは、
・朝の健康をサポートするために、睡眠の質が向上するサービスを提供する
・EMCの野球部を創設し、気軽にスポーツができる場を提供する
・劣悪な環境にいて、就職がうまくいかない人を支援する
・障害者が創作する芸術作品を展示する場をつくる
など、様々なテーマが挙げられた。

写真2 チームづくりでは、個人ごとの発表内容を基に、想いの方向性が同じ学生同士が集まったり、自分の想いを伝えて一緒にやろうと声をかけたりして、チームを組む仲間を募り、チームの立ち上げを経験した。
写真2 チームづくりでは、個人ごとの発表内容を基に、想いの方向性が同じ学生同士が集まったり、自分の想いを伝えて一緒にやろうと声をかけたりして、チームを組む仲間を募り、チームの立ち上げを経験した。
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考えるだけでは意味はない、行動にこそ価値がある

 授業で学生が徹底して求められたのは、「行動する」ことだ。各チームが検討してきたことをプレゼンテーションする中間発表や最終発表でのフィードバックも含めて、教員は、学生に繰り返し次のことを伝えた。
 「アイデアを思いつく人は1億人いますが、その中で具体的に考える人は1万人、さらにそれを行動に移す人は100人、行動を続ける人は1人です。考えても、大半の人は行動しないのです」(岩佐教授)
 「計画を立てたら、行動する。そこにリソースや資金が集まってきます」(岩佐教授)
 「行動することでしか学べないことはたくさんあります。だからこそ、EMCでは実践を大事にしています。皆さんも行動してほしい」(津吹教授)
 そうしたメッセージもあり、どのチームも、最終発表日までに、アプリを開発したり、イベントを行ったり、SNSで情報発信をしたりと、自分たちなりに考えた新しい価値の創出に向けて行動していた。事業に至らなかったチームでも、事業計画の立案のために、机上での検討だけでなく、アンケートや実験など、実際に行動していた。

 各チームの発表後には、教員がそれぞれフィードバックをしたが、その際、行動したことがあれば必ず取り上げて褒めた。
 「自分たちで実験をして、データを収集したのはいいですね。論文を調べて、既存のデータを手に入れたのも、正しい手法です」(井上客員教授)
 「サークルの情報を調べて、実際に外国人が集まっているフットサルのサークルに参加して、それだけでは外国人と日本人が出会う場になっていないと分かったのは、いい気づきになりましたね」(佐藤教授)
 「アプリのプロトタイプを開発したのは,ビジネスとしてかなり進められたよね。スピード感が感じられます」(岩佐教授)

 また、行動できていない点についても、率直に指摘した。
 「前回アドバイスしたことは調べましたか? 今の発表内容には、それが感じられませんでしたが」(佐藤教授)
 「イベントの計画自体はよいと思いますが、その程度の規模であれば、既に実践していてもよいと思います」(佐藤教授)

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「それは新しい価値なのか?」を繰り返し問いかける

 もう1つ、学生が求められたのは、チームのプロジェクトが「新しい価値」につながっているかどうかだ。フィードバックでは、どのチームも次のように問いかけられた。
 「で、そのプロジェクトの新しい価値は何?」(井上客員教授)
 「それが新しい価値と言っているけれど、本当にそうなの? 調べてみた?」(佐藤教授)
 「普通の活動としてはいいけれど、この科目のアウトプットとしては物足りない」(岩佐教授)
 問いかけに答えられたチームには、学生がさらに突き詰めて考えられるよう、教員は質問を重ねていった。答えに詰まったチームには、類似するサービスや商品を挙げて、それと何が違うのかを問いかけたり、新しい価値を考えるヒントとなるよう既存の事業と差別化になるポイントをアドバイスしたりした。
 そして、ビジネスとして事業化を視野に入れたプロジェクトが、この科目で求められていることであり、問題をどうやって解決するのか、今まで世の中になかった何が達成されるのか、といったアウトプット・アウトカムをしっかり考えて提示することが重要だと伝えた。

 すると、ある学生は、中間発表での振り返りで、「自分たちのアイデアは新しいと、チーム内で盛り上がっても、調べてみたら既に実在していたりする。分かってはいたけれど、新しい価値を生み出すのは、そう簡単ではないことを実感しました」と語った。

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他チームのプレゼンにコメントし、聴く力と批判的な視点を養う

 プレゼンテーションの方法にも、教員のフィードバックは及んだ。将来、起業した際に投資家から出資を得るためには、魅力的であり説得力のあるプレゼンテーションが求められる。同科目は、その練習の場でもあるからだ。
 「プレゼンから、何がなんでも目標を達成したいというチームの想いが伝わってきました」(岩佐教授)
 「スライドに書かれている内容を読み上げるだけでは、格好悪いし、何より想いが伝わってきません。どのように話すか、事前に自分でストーリーを考えておかないと、不具合でスライドが止まった時に話を続けられず、それだけでプレゼンが台無しになってしまいます」(井上客員教授)
 「会場に話を振るのはいいけれど、仕込んでおいたの? 仕込んでいないのなら、返答次第でプレゼンの展開が想定外に進むので、よほどの自信がなければ避けた方がよいです」(佐藤教授)
 「前に立った時に、雰囲気をつくってほしい。立っただけで、その場がざわつくような。それをここで練習してください」(井上客員教授)
 「プレゼンでは、先に目的を示した方がいい。思考のプロセスを追って説明する方法では、聞いている側が疲れます。メッセージファーストにしましょう」(岩佐教授)
 学生は、厳しいフィードバックを受け、みんなの前で恥をかく経験を積み、その経験を振り返ることで学び、人を引きつけるプレゼンテーションを身につけていく。

 教員だけでなく、学生も全チームにフィードバックを行った。他者のプレゼンテーションを批判的な目で見ることで、優れている点は自分にも取り入れ、悪い点は自分の教訓にできるからだ。実際、学生は、プレゼンテーションのよかった点、事業内容の気になった点などを、クラウド上のコメント欄に率直に入力していた。
 「社会的意義について、説明が弱いように感じた。何を提供するのかをもっと明確にしてほしい」
 「実際にお店に行ったり、フットサルに参加したりした上で、自分たちが感じた率直な問題が述べられていて分かりやすかった」
 「実物を使うことで印象に残るプレゼンになっていた。既存の企業の活動と比較して、独自性を際立たせるとよいのではないか」

写真3 学生は、発表しているそばから、クラウド上のコメント欄に入力していった。「他チームでも、よい点は盗んで、自分に生かすという気概で聞きましょう」と、教員は聴く姿勢もアドバイスした。
写真3 学生は、発表しているそばから、クラウド上のコメント欄に入力していった。「他チームでも、よい点は盗んで、自分に生かすという気概で聞きましょう」と、教員は聴く姿勢もアドバイスした。
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教員のフィードバックを受け止め、考えを深め、視座を上げる

 学生は、どのような課題意識の下、新しい価値を生み出そうとプロジェクトを企画して行動し、教員のフィードバックを受けてどう改善していったのか。あるチームの変遷をたどってみよう。

 「天空の城」と名づけられたチームは、「お互いが尊重できる空間をつくりたい」という想いを持つ3人で結成された。1日目のチーム結成時には、自分の夢を語り合い、それに横やりを入れることなく、協力したり、応援したりして、それが新しい夢につながる「村」をつくることが目標だと語り、その最初の一歩として、自分たちが住む寮(*1)がそうした場になるよう、活動期間にちょうど正月があるため、自分の夢や志を書いて共有する「書き初め大会」の実施を事業として掲げた。
 その発表に対して、津吹教授は、「寮がどういう状態だったら、自分たちが理想とする場になるのか。まずそれを言語化して形にすることで、単なるイベントに終わらずに、プロジェクトが立体的になるのではないでしょうか」とアドバイスをした。

*1 EMCでは、1年生全員が1年間、寮生活を送る。

 年末年始をはさんで行われた2日目の中間発表では、1日目のフィードバックを受けて、3週間の期間を使いチームで検討し、理想の村のかたちを「やりたいことをやって突き進む人たちのコミュニティをつくり、そのパワーを世界に伝播させたい」と定義。自分の夢や志を書き初めにしたためて、それを寮内で掲示し、応援メッセージなどを付せんに書き合う「書き初め夢バトル」を次週開催すると発表した。
 すると、井上客員教授は、「書き初めは面白そうだが、仲間内の活動にとどまっていて、新規性が感じられません。何かをかけ算して、外に発信すればいいのにと思います。誰かから、『楽しかった』『ありがとう』と言ってもらえる活動に昇華させてほしい」とコメント。佐藤教授は、「新しい価値は何か、ズバッと言ってほしい。書き初めも、それにコメントすることも、小学生でもやっていることではありませんか」と言い、岩佐教授は「やることが幼稚だが、それが本当にやりたいことですか」とフィードバックした。

 そして、2週間後の3日目の最終発表では、チームは開口一番、「前回のフィードバックで幼稚と言われて、めちゃくちゃ悔しかったです」と心情を吐露。「でも、村をつくりたいという想いは変わりません。本気で夢を語る人を増やそうと言っているのに、自分たちがそれをできていないので、私たちがやる意味を徹底的に話し合った」と、中間発表のフィードバックを踏まえて企画を立て直したと説明した。そして、欠点は特長、強みになると捉えて、「EMC生を童心に返すこと」を新しい価値として提供すると宣言し、1週間後に「EMC祭」を開催すると発表。既に実施した書き初めのほかに、餅つきと福男選び(*2)を行うと述べ、参加を呼びかけた(写真4)。

*2 兵庫県の西宮神社で行われる、参拝一番乗りを競う伝統行事。

 岩佐教授は、「プレゼンからエネルギーを感じました。童心に返すのはいい機会になると思いますが、その次にどんなアウトカムが生まれるのかまで提示できると、もっとよかったですね」と指摘した。
 佐藤教授は、前回のフィードバックを踏まえて考え直した点を評価し、「書き初めを何のためにするのか、誰を幸せにするのかを考えたことで視座が高くなりました」とコメント。ただし、「同じような課題を抱えている人にサービスを提供する場合はどうなるのかの提案もあると、もっとよかったと思います」と改善点を伝えた。
 また、井上客員教授は、自社が「ワクワク」の研究をしていると語り、「30歳や40歳になった時にワクワク度はどうなっているのか、そこで童心に返ると何が起こるのかまでを考えると、『幼稚』の意味が見えてくるのではないか。そうした考え方も参考にしてほしい」とアドバイスした。
 教員のフィードバックを受けて、チームのメンバーは、「幼稚と言われたことをどう解決すればよいのかで頭がいっぱいでした。童心に返すこと、ワクワクを伝播させることをどこまで広げられるのか考えていきます」と、今後の抱負を語った。

写真4 最終発表では、1日目のプレゼンテーションの指摘を受けて、どのチームもスライドを見ずに、自分の言葉で想いや事業内容を語っていた。
写真4 最終発表では、1日目のプレゼンテーションの指摘を受けて、どのチームもスライドを見ずに、自分の言葉で想いや事業内容を語っていた。
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行動して学んだからこそ、今後の学びが変わる

 3日目の最終発表がすべて終わると、最後に教員が1人ずつメッセージを送った。

 津吹教授「いくら高いスキルを持っていても、実行しなければ、価値はゼロです。逆に、スキルは低くても、実行は二乗で加わるので、行動すればするほど価値は上がっていきます。プロジェクトで学んでほしかったのは、実行こそに価値があることです。それは簡単なようでできず、やった人にしか分かりません。実行した皆さんは、その意味がようやく分かってきたと思います。1164日。これは、皆さんの卒業式までの日数です。残りの日々をどう過ごすか。皆さん次第です」

 井上客員教授「私のEMCでの目標は、私と一緒に世界を変えていく地球貢献型リーダーを育てることです。今、皆さんはそのリーダーになるための筋トレをしているのであり、プロジェクトを1つずつ主体的に進めていく、その積み重ねが極めて重要です。しっかり調べて、たくさん悩み、実行してください。相談も受け付けます」

 佐藤教授「新しい価値の重要性を何度も伝えましたが、大きなビジョンを掲げなくても、最初は自分目線で始めていいのです。自分事であれば、アイデアも浮かびやすく、主体的に取り組んで、実現の可能性も高いでしょう。ただし、私利私欲のみでは周りはついてきません。EMCに野球サークルをつくりたい、ファッションを軸に交流の場をつくりたい。そうした自分のやりたいことが、世の中をどう変えることにつながるのか。それを考えてみてください」

 岩佐教授「何度も伝えますが、行動こそが価値を生みます。自分の考えは積極的に発信して他者から意見をもらい、自分とは異なる価値観、強み、境遇にある人たちと出会える場所に出かけましょう。刺激を受けて、非連続的な日常をつくっていくことが、本当に面白いものを生み出します。PDCAサイクルを回している間に、社会はどんどん変わっていきます。行動しながらCもAもしないと取り残されます。No Action, No Futureです」

 振り返りとして、数人の学生が発言した。
 「春休みに日本一周をする計画を立てています。いろいろな人とたくさん出会って、様々な価値観を吸収して、考え方を一段上げられるよう頑張ります。応援してください」
 「今日のプレゼンには自信を持って臨みましたが、先生方にフィードバックをいただいて、自分たちにはまだまだできることがあったのだと、悔しい気持ちでいっぱいです。今日を通過点として、とことん考えて、行動し続けたいと思います」

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授業は終わった。しかし、プロジェクトは続く

 これで「プロジェクト基礎C」の授業は終わったが、動き出したプロジェクトは続いていく。自分たちの大学選びの経験から、高校生が後悔しない進路選択をできるよう、自分探しを支援するサービスを新しい価値として提案したチームは、高校生向けに自己理解の仕方を解説する動画を制作し、メンバーのうち1人の母校に送ったところ、ぜひ学年単位でワークショップをしてほしいという依頼を受けた。現在、実施に向けて日程調整中だ。その他にも、複数の高校と実施に向けたやり取りをしている。その中で、チームの発表を聞いた同級生が自分の母校に提案したところ、進路に悩む高校2年生5人を対象に、50分間のワークショップを実施することとなった。
 チームは、授業で温めていたワークショップを具体化。自分たちがEMCで受けた「キャリアデザイン」「クリティカル・シンキング」の授業内容を基に、自己理解を深めるワークを作成した。高校生が楽しめるように、かつ、自分たちが伝えたいことを盛り込むとともに、活動の展開や時間配分などを何度も話し合い、当日のリハーサルを重ねた。その結果、高校生たちは興味津々でワークに取り組み、「自分のことを知る機会になった」という声が寄せられた。メンバーはワークショップを次のように振り返った。
 「50分間でも、参加した高校生が、『本が好き』から『こういう作者の、こんなところが好き』と言語化できていました。その姿に手応えを感じました」
 「高校生に分かりやすいように、ワークの手順や趣旨を伝えるのが難しかったです。言葉の選び方一つをとっても、何度も考えました。教わる側から教える側になったことで気づいたことがたくさんありました」
 高校側にも好評で、2023年度は学年単位で実施する予定だ。
 「授業をきっかけに始めた活動が、ここまで発展するとは思いもしませんでした。授業外の活動にはなりますが、高校生の進路選択を支援していきます」と決意を語った。

取材日:2022年12月18日、2023月1日7日、21日

連載第7回は、2022年度の2年次後期に行われた「プロジェクト応用B」の最終発表を中心に、学生の取り組みをリポートする。

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