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大学授業レポート~新たな学びのスタイル~

​​武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 連載第8回

【授業レポート】ゼミナール(津吹達也教授担当、大学2年生3学期~)
大学2年生終業後の春休み、人生のターニングポイントとなる
カンボジアでの2つの販売プロジェクト

2021年4月、武蔵野大学に日本で初めて設置された「アントレプレナーシップ学部」(以下、EMC)。多くの実務家教員による指導の下、3つの系統「マインド」「スキル」「アクション」を軸としたカリキュラムで、「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を生み出すマインド」と定義するアントレプレナーシップ(起業家精神)を育んでいる。
実際に行動し、実現に向けて動くことを狙いとした「アクション」系統の中でも、2年次3学期から4年次まで継続される「ゼミナール」(以下、ゼミ)はEMCを象徴する科目だ。1学年60人の学部生に対して、10を超えるゼミが開講され、少人数で学生個々人のやりたいことを突き詰める。
連載第8回では、2022年度の2年次3・4学期に実施されたゼミのうち、津吹達也教授が担当する「Go! ASIA」をテーマにしたゼミ(以下、津吹ゼミ)の活動を紹介する。9人のゼミメンバーは、2023年2〜3月の1か月間、カンボジア王国(以下、カンボジア)に滞在し、自分たちで商品の企画から販売まですべてを行う2つのプロジェクトに挑戦。初めて訪れたカンボジアで、ゼロからイチを創り出す経験をした(写真1)。

写真1 1つめのプロジェクトで販売場所とした王宮前広場で、一緒に販売した王立プノンペン大学の学生と完売を祝って記念撮影。

お話を聞いた方

津吹達也
  • 津吹達也

    アントレプレナーシップ学部 教授
    電機メーカーの海外営業、デザイン系スタートアップ、IT企業の海外事業戦略等を歴任後、アロワナアドバンストアドバイザリー合同会社代表社員、株式会社トラデュケーション代表取締役。2021年より現職を兼務。グロービス経営大学院2012年卒業(MBA) 。教育領域では、立教大学産学連携プログラムの開発を非常勤講師として担当。専門は、地域社会連携、産学連携プログラムの開発、リーダーシップ・アントレプレナーシップ教育。

 
カンボジア・プロジェクトに参加したゼミメンバー
  • カンボジア・プロジェクトに参加したゼミメンバー

    後列左から 前川大空、野村一倖、佐々木華彩、同行したティーチング・アシスタント(以下、TA)の藤田颯斗、丸山智則、津吹教授
    前列左から 薛子慧、山口奈々、白石絢、畑野瑞季、平松沙彩

 
森山たつを
  • 森山たつを

    プロジェクト・コーディネーター
    株式会社スパイスアップ・アカデミア代表取締役社長
    海外で働く体験ができる実践型インターンシッププログラム「サムライカレープロジェクト」の総責任者。早稲田大学理工学部卒業後、日本オラクル株式会社、日産自動車株式会社などに15年勤務の後、日本人の海外就職に関する調査・研究を行う「海外就職研究家」として独立。2014年に「サムライカレープロジェクト」をスタート。現在、カンボジアとタイで同プロジェクトを展開。

 

「世界の今」を肌で感じ、将来を具体化するきっかけに

 EMCでは、ゼミを2年次3学期から4年次までの必修科目としている。2022年度は、「スタートアップ」「ソーシャルビジネス」「地域活性化と事業づくり」などのテーマで、13のゼミが開講された。2年生が1期生であるため、2022年度は、どのゼミも2年生のみの活動だった。

 テーマを「Go! ASIA」とした津吹ゼミでは、主に東南アジアにおける日本発のスタートアップや市場参入の事例を題材として学び、春季休業中の2月から1か月間、カンボジアに滞在し、商品販売のプロジェクトに取り組んだ。その活動とした背景には、津吹達也教授の経験に基づく想いがあった。
 津吹教授は、大学新卒採用で入社した電機メーカーで海外営業を担当し、インドネシア・ジャカルタに駐在した後、香港で現地法人の立ち上げに参画した。数年後に転職し、2017〜19年には、カンボジア・プノンペンで教育事業の立ち上げ・運営に取り組んだ。そうした海外で働き、事業を立ち上げた経験から、ゼミメンバーに早い段階で、海外の文化や社会、そして海外で働く面白さや難しさを肌で感じてほしいと考えた。
 「アジア諸国は今、著しく経済発展をしています。日本と地理的に近いアジア諸国のそうした状況を知らずして、日々の暮らしも経済活動も成り立たないと考えています。これからの時代を担うアントレプレナーに、いち早く、自分の目で『世界の今』を見て、将来、自分が何をしたいのか、その実現に向けて何をすればよいかを考えるきっかけにしてほしいという想いがありました」(津吹教授)

 カンボジアから帰国して1か月半後、3年生になって初めて行われた津吹ゼミでは、ゼミメンバーが一人ひとり、春季休業中の活動と今後の目標、活動予定を発表した。
 「卒業後は就職して経験を積んでから起業しようと考えていました。しかし、カンボジアでアジアの成長スピードを目の当たりにし、その時間がもったいないと思うようになりました。卒業後すぐに起業して、流れに乗りたい。でも、自分が何をしたいのかごちゃごちゃしているので、3年生の秋から休学し、海外で経験を積んで、自分の想いを明確にしたいと考えています」(野村一倖さん)
 「カンボジアの後、EMCの選抜型海外研修でアメリカのスタートアップの現状を視察しました。その2つの経験を通じて、海外で働くというビジョンが明確になりました。3年生では海外インターンシップをしようと、春休み中に企業研究をして、複数の候補に応募し、結果待ちです」(白石絢さん)

 ゼミメンバーは、バックキャスティングですべきことを考えて実行し、着実に前に進んでいる。カンボジアでどのような経験をしたのか。その活動を見ていこう。

■「津吹ゼミ」概要
◎履修者(必修科目):アントレプレナーシップ学部2年生 11人
◎カリキュラム(2年次3・4学期に実施)
 毎週水曜日、2コマ連続(200分)※授業外でも活動。

■「カンボジア・プロジェクト」概要
◎日程 2023年2月2日〜3月4日(31日間)
◎参加者 ゼミメンバー9人、津吹教授、TAの藤田颯斗さん
◎スケジュール

注)Phnom Penh Center for Independent Living(プノンペン障害者自立支援センター)

▲ 画像をクリックすると拡大します。

◎宿泊 コンドミニアムでの合宿形式
◎活動内容
・1stプロジェクト 屋台販売
 ゼミメンバーが商品の企画から、仕入れ、製造、宣伝、販売までを行うプロジェクト。イオンモール・センソックシティ内のプールサイドと、王宮前広場の2か所で、2日間、クレープとたこ焼き、かき氷、綿あめを販売した。
・2ndプロジェクト キズナ・フェスティバル出店
 カンボジア日本人材開発センター主催による日本とカンボジアの交流祭典「キズナ・フェスティバル」に出店するプロジェクト。ゼミメンバーが企画から販売を行い、3日間出店。書道アート(名前を漢字やひらがなで色紙に書く)、ゲーム(輪投げ、くじ引き)、食品(ドライフルーツ、クッキー、フライドポテト)の3つのブースを設けた。
・現地で活動する日本人起業家訪問
 プノンペンでビジネスを行う8業種10人を訪問し、海外での仕事やキャリアについて話を聞いた。
※プログラムは、「サムライカレープロジェクト」を基に、コーディネーターの森山たつをさんがアレンジ。食品販売の許可などは、森山さんを通じて得た。
※プロジェクトの様子は、noteでも発信。

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[カンボジア渡航前の活動]
活動を充実させたい! クラウドファンディングで資金集め

 2022年9月のゼミ発足から、2023年2月の渡航までの約5か月間、ゼミメンバーは準備に取り組んだ。まず、カンボジアやバングラデシュなど、アジアで働いた経験のあるゲスト3人を招き、海外で働くに至った経緯、仕事の内容、現地での生活、キャリアのビジョンなどについて聞いた。並行して、カンボジアでのプロジェクトをどんなものにしたいかを話し合った。
 その過程で、プノンペン障害者自立支援センター(PPCIL)と連携することとなり、PPCILが製造しているドライフルーツとクッキーをプロジェクトで販売すること、プロジェクトの売上を寄付することを決めた。さらに、クラウドファンディングで、現地の活動資金を集めることにした。渡航費などは参加者の自己負担だが、円安の中、少しでも活動資金を上乗せできれば、活動が充実し、PPCILへの支援も厚くなると考えたからだ。
 「売上の寄付という一時的な支援だけではなく、持続可能なビジネスとなるようPPCILを支援するにはどうすればよいか話し合う中で、プロジェクト用にキッチンカーを購入し、終了後に寄贈すれば、PPCILがその後の販売活動に活用できるというアイデアが出ました。キッチンカーの購入資金のためにも、クラウドファンディングに挑戦しました」(平松沙彩さん)
 クラウドファンディングに詳しい教員に、支援金額や返礼品の設定、PRなどの仕方を聞き、ゼミで話し合って目標額や返礼品を設定。プロジェクトの紹介ページの作成、支援を募るためのSNSでの情報発信などを分担した。作業は山積みであったため、平石郁生教授に相談、交渉し、2年生の必修科目「プロジェクト応用B」の活動として行った。

 クラウドファンディングは、12月12日に受付を開始。予定期間の1か月を待たずに目標金額の35万円を達成し、最終的には85人から44万1,500円の資金を得た(写真2)。

写真2 クラウドファンディングのページ。返礼品は、支援金額に応じて、「感謝のメール」「活動報告書の配布」「現地の様子をライブ配信」「ゼミ生と個別Zoom報告」などを用意した。

 応援のダイレクトメッセージが来たり、他学部のゼミからの取材があったりと、手応えがあった一方で、ゼミメンバーはチームで活動を進める難しさを味わった。活動の流れや成果物のイメージを共有した上で役割を分担したが、期日よりも作業が遅れたり、イメージとは異なるものができたりする想定外の事態がたくさん発生した。その経験から意思決定の難しさ、仕事の割り振り方、積極的にコミュニケーションを取る重要性を痛感したと、丸山智則さんは語る。
 「ゼミ内で意識を共有していましたが、想定通りには進みませんでした。それぞれの受け止め方が微妙に異なっていたからであり、それを防ぐためには、作業の構造化が必要なのだと実感しました。そして、例えば、最初は一緒に進めて、イメージを共有してから任せるとするなど、進め方を工夫しようと思いました」

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[1stプロジェクト 屋台販売]
市場調査や試食会を行い、販売する商品をゼロから企画

 カンボジアに渡航後、プノンペン市内の2か所での飲食販売を行う1stプロジェクトに取り組んだ。
 まず行ったのは市場調査だ。3チームに分かれて、市内のショッピングモールやマーケット、スーパーを訪れ、レストラン・屋台で販売されているメニューや価格、食材の種類・価格などを調べた。販売場所は、1か所はイオンモール・センソックシティ内のプールサイドと決めていたが、もう1か所、3チームが情報を持ち寄り、観光名所でもあり、夕刻に市民や観光客が多く集まる王宮前広場に決めた。
 翌日には、王立プノンペン大学を訪れ、日本語学科の学生にカンボジアの食文化や好みなどについてヒアリングをし、調理器具は宿泊施設にあるものという条件も踏まえて、販売する商品と価格を検討した。プールサイドは入場料が7ドルであり、平均月収が300〜500ドルの市民にとっては高級な施設となる。入場者は高所得者層のファミリーが中心となるため、それを踏まえて、たこ焼きを5ドル、綿あめ4ドル、かき氷4ドルで販売することにした。一方、王宮前広場は、一般市民がターゲットとなる。商品はたこ焼きとクレープとし、価格は1〜1.5ドルに設定した。
 7日目には、クレープとたこ焼きを試作し、再び王立プノンペン大学を訪れ、日本語学科の学生に試食をしてもらった(写真3)。

写真3 王立プノンペン大学で試食会を実施。学生の率直な意見を踏まえて商品を改良した。

 クレープは、バナナクレープとイチゴクレープの2種類を用意。屋台でよく販売されているスイーツの「ロティ」に似せて、四角形に包む形にした。人気があったのは、バナナクレープだった。生地を食紅でピンク色にしたイチゴクレープは、「これは食べ物?」といぶかしげな顔で質問された。
 「カンボジア人は食に対して保守的なこと、イチゴは、日本人にとって『甘い』果物でも、カンボジア人には『酸っぱい』イメージがあることなど、実際に話を聞かないと分からなかったことばかりでした。ニーズを的確に汲み取るには、直接話を聞くべきだと学びました」(山口奈々さん)
 カンボジア人に親しみやすいようにロティと同じ形にしたが、「中身が見えずに不安」という意見があったことから、日本のクレープのように、中身が見えるように紙で包むことにした。
 たこ焼きは、お好み焼きソース、チリソース、チョコソース、チーズソースと4種類を用意。最も好評だったお好み焼きソースで販売することにした。
 また、試食に協力してくれた日本語学科の学生に、販売アシスタントのアルバイトを依頼。プノンペン市民には、クメール語で説明した方が販売につながると考えたからだ。

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[1stプロジェクト 屋台販売]
疲労が蓄積→プレ販売中止→「商売をなめるな!」で覚醒

 土日の本番を控えて、前日の金曜日には宿泊先近くのマーケットでプレ販売を行った。ここで、プロジェクトのターニングポイントとなる出来事が起こった。
 カンボジアに来てから1週間が過ぎ、慣れない海外生活に、連日約30℃を超える暑さも相まって、ゼミメンバーには精神的にも体力的にも疲労が蓄積し、プレ販売の商品を時間通りに用意できなかった。そこで、全員で話し合い、プレ販売の中止を決めた。プロジェクト・コーディネーターの森山さんに中止を報告すると、「商売をなめるな! 甘えるな! とにかく動け!」と一喝されたのだ。
 森山さんは、ゼミメンバーにこう伝えた。「戦略的に販売を中止にするならば、それでもいいですが、疲れているから、気分が乗らないからという理由で販売しないのは、通常の商売ではあり得ないですよね」
 その言葉に、ゼミメンバーの目の色が変わったと、野村さんは振り返る。
 「『体力がある人で売りに行こう!』となり、私も含めて4人でマーケットに出かけました。現地の人に話しかけて、商品を説明して、売り込むと、次々に売れて、なんと完売。リピートしてくれた人もいました。商品を気に入ってくれた。自分たちのやっていることは間違いない、大丈夫、明日も行ける! あんなに悩んでいたのが嘘のように吹っ切れました」

 そうして、10〜11日目の2日間、イオンモールのプールサイドと、王宮前広場の2チームに分かれて、店を構えた。
 プールサイドでは、かき氷の売れ行きが好調だった。最初は、注文がなくても、かき氷を作り、通る人たちに氷を削る音でアピール。数種類のシロップを用意し、見た目でも興味を引くようにした(写真4)。

写真4 かき氷製造機に興味津々の子どもたちが集まってきた。

 王宮前広場では、「JAPAN」の看板を引っさげて販売に奔走。日本人女子とカンボジア人男子、日本人男子とカンボジア人女子のペアになり、日本人が話しかけて、カンボジア人に説明してもらうという作戦で、現地の人や観光客に売り込んだ(写真5)。
 「現地の人たちは、日本人が日本の食べ物を売っていることで興味を持ってくれました。そこに、同じカンボジア人が売っていることで、商品への信頼感が高まり、それが売上につながりました。観光客には、話しかけて記念撮影のお手伝いをし、その後に商品の宣伝をしました」(薛子慧さん)

写真5 王宮前広場にはキッチンカーが入れなかったため、商品を持って売り込みに回った。「JAPAN」の看板は目を引き、話しかけるきっかけとなった。

 1日目は、夕食後の時間帯だったため、売れ残りが出た。そこで、2日目は、夕食前の時間帯から販売。また、調理に技術や手間のかかるクレープをやめて、売れ行き好調のたこ焼きに絞ったところ、完売した(写真6)。
 2日間の売上は、目標の150ドルを大きく上回り、プールサイドが226.25ドル、王宮前広場が156.75ドル、合計383ドルに上った。それは、カンボジアでの一般的な市民の1か月あたりの月収に相当する金額だ。
 「自分の役割を踏まえてどう動くべきかを、チーム全員が考えられていて、それが完売につながったと思います」(畑野瑞季さん)

写真6 たこ焼きやクレープを作ったキッチンカー。終了後、PPCILに寄贈した。
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[2ndプロジェクト キズナ・フェスティバル出店]
チームで協力しつつも、発案者が責任を持って活動を改善

 19〜25日目の2ndプロジェクトは、キズナ・フェスティバルへの出店だ。3日間で来場者が2万人を超えるビッグイベントで販売する商品を決める前に、まず、メンバー全員で話し合い、目標を「笑顔」とした(写真7)。
 「キズナ・フェスティバルは、日本とカンボジアの交流がテーマです。お客様に楽しんでほしい。そのためには、自分たちが楽しんでこそ、相手にそれが伝わるという話になり、お客様も自分たちも『笑顔』をつくることを目標に掲げました」(丸山さん)

写真7 「笑顔」をチームの目標とし、そこからブレイクダウンをして、「お金の数より、幸せになった数」「ありたいことをやって、周りをHAPPYにする」「国際交流から生まれる楽しさを!」「笑顔コレクションをつくる」など、個人の目標を立てた。

 商品は、一人ひとりがやりたいことを出し合った。その結果、
・ゲームブース(輪投げ、くじ引きの体験。当たったらおもちゃなどの景品と引き換え)
・書道アートブース(名前を日本語にして書いた色紙の販売)
・販売ブース(PPCILが製造するドライフルーツ、クッキーの販売)
の3つのブースを設けることにし、それぞれ発案者が担当した。
 「1stプロジェクトでは、メンバーがそれぞれ判断できず、リーダー1人に責任が集中していました。その点を改善しようと、役割分担を明確にし、小さい修正はその都度、その場にいるメンバーと相談して、担当者が判断しようと確認しました」(前川大空さん)
 1日が終わると全員が集まり、その日の成果と課題を出し合い、次の日の活動を修正した。例えば、輪投げは、1日目の売上が伸びなかった。リソースを有効活用しようと、2日目は取り止め、手軽に作ることができるフライドポテトの販売に切り替えた。すると、作戦が当たり、フライドポテトは飛ぶように売れ、売上に大きく貢献した。

 大人気だったのは、書道アートだ。行列を抑えるため、2日目には価格を1枚3ドルから5ドルに値上げした。それでも人気は衰えず、市内の文房具店で買い占めた色紙は在庫切れとなり、ポストカードを色紙代わりにして販売を続けた。日本の伝統文化の書道をカンボジアに広めたいという想いから書道アートを発案した山口さん、佐々木華彩さんは、これまで培ってきた書道の技をいかんなく発揮した。
 「自分たちだから作ることができるプロダクトをお客様が笑顔で持ち帰る姿に、心が躍りました(写真8)。小学1年生から書道を習ってきた経験を生かして、自分がやりたかったコンテンツを自分でイチからプロデュースし、それがお客様を笑顔にして、売上にもつながっていることに大きな喜びを感じ、自信にもなりました」(山口さん)
 将来は書家として独り立ちする夢を持つ佐々木さんも、楽しかったと話す。
 「名前を聞いて、漢字の当て字か、ひらがなを色紙に筆で書いた『世界で1つだけの作品』です。カンボジアの人たちが漢字に興味を持ってくれてうれしかったですし、色紙をとても喜んでくれて、やりがいを感じました」(佐々木さん)

写真8 自分の名前が漢字で書かれた色紙を、お客様は笑顔で持って帰っていった。

 ドライフルーツの販売では、チラシを制作して配り歩くとともに、店頭で試食を行った。温暖なカンボジアでは新鮮なフルーツが常に安価で流通しているため、ドライフルーツの需要が少ない。そこで、ドライフルーツのおいしさを伝えようと、試食販売をしたところ、予想以上に購入につながった。
 また、1stプロジェクトでの売り込みの経験を生かして、複数の看板を用意。人目を引くカチューシャを着けて、販売アシスタントのカンボジアの学生とのペアで売り込みに回った(写真9)。
 何が売れるのか、どうすれば楽しんでもらえるのか、メンバー全員が工夫して取り組んだ結果、3日間とも大盛況で、売上は1,000ドルにも達した。

写真9 キズナ・フェスティバルでも、王立プノンペン大学の学生が販売アシスタントとして参加。
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海外でゼロからイチを作り、それが通用したという経験が大きな自信に

 2つのプロジェクトの売上とキッチンカーは、PPCILに寄付した(写真10)。そして、ドライフルーツとクッキーの売上に貢献した実績から、PPCILのECサイトの立ち上げと、日本国内でドライフルーツとクッキーの販売活動に取り組むこととなった。

写真10 津吹ゼミでは、PPCILの支援活動を今後も続けていく。

 2つのプロジェクトと、1か月間のカンボジア滞在を通じて、ゼミメンバーは何を感じ、学んだのか。

 「チームでの活動は、切磋琢磨しながらモノを生み出すことが楽しかった半面、メンバーの気持ちを一つにする大変さもありました。自分がよいと思っても、そう思わない人もいる。その中で納得解を見つけていった経験は、今後に生かしたいと思っています」(白石さん)

 「カンボジアは生活水準が低いと思っていましたが、実際には想像以上に発展した街で、ビジネスも速いスピードで動いていました。実際に見て、行動しないと何事も分からず、聞いた情報に踊らされてビジネスをすることがいかに危険かを実感しました」(前川さん)

 「最大限集めた情報を基に仮説を立て、小さくてもいいから現場に出て試し、そこで見つかった課題を改善して、次の仮説を立てて、また試す。情報が集まるまで待っていては、その時間が無駄であり、手持ちの中で最善策を考えて、試すというサイクルを回すことが、目標に近づくためには大事なのだと学びました」(丸山さん)

 「初めて滞在したカンボジアで、何もないところから調査をし、人脈を築き、商品を考えて作り、接客して売るという一連の流れを、自分たちですべてやり、それが通用したことは、大きな自信になっています」(平松さん)

 津吹教授は、1か月で2つのプロジェクトに取り組んだことで大きな成果があったと語る。
 「1つめのプロジェクトで出てきた課題をすぐに修正して実行できる機会があったことは、より深く、より多くの学びがあり、それは1か月間としたからこそできたことでした。2つめのプロジェクトでは、ゼミメンバーも観光気分が抜けて、現地の生活になじみ、それぞれが自分なりにカンボジアを理解して活動に取り組めていました。そして、互いをよく見て、自分の得意を生かし、相手の苦手をどうフォローするのか、チームとしての活動ができた手応えがあります。3年生の最初のゼミでは、この経験を踏まえて、メンバー全員が将来像をしっかり考えていることが伝わってきました。それをどう具現化していくか、次の挑戦が始まっています」

取材日:2022年10月26日、2023年2月20日、4月19日

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