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新しい時代のwell-being 各界で活躍する20代・30代に聞く

 様々な場所で色とりどりに活躍している20代、30代。彼らのインタビューを通して、これからの社会で活躍し、「Well-being」に生きるためのヒントを探っていきます。
 今回は、機械系エンジニアとして数々の国際プラント建設プロジェクトを経験後、事業投資部門に異動し、現在は脱炭素・資源循環分野における新規事業に従事しながら、社内外をつなげるアプローチで価値創造を進める、日揮ホールディングス株式会社の田中悠太さんにお話をうかがいました。

エンジニアから新規事業開発へ
社内外との共創プロジェクトで価値を生み出す

田中 悠太
  • 田中 悠太

    日揮ホールディングス株式会社
    1983年生まれ。神奈川県出身。横浜国立大学大学院修士課程修了後、日揮(現日揮ホールディングス)株式会社に入社。水処理設備等の設計を担当し複数の海外プロジェクトに従事。2017年に事業投資部門に異動、中東の発電事業の運営管理や、国内太陽光発電事業のM&Aを経験。現在、サステナビリティ協創部にて廃プラスチック問題解決に向けた事業開発に奔走中。個人としては、中小企業診断士としての執筆や地域支援、社内有志団体「JGC3.0」の代表、任意団体「横濱OneMM」、ESG・SDGs実践コミュニティ「BRIDGEs by ONE JAPAN」、経済産業省・JETRO「始動Next Innovator2019」プログラムシリコンバレー選抜メンバーなどでも活動。

廃プラ問題の事業開発をしながら、ベンチャー連携を推進

 私は、日揮ホールディングス株式会社サステナビリティ協創部に所属し、資源循環分野における新規事業開発を担当しています。
 日揮グループは、EPC(Engineering,Procurement,Construction; 設計・調達・建設)プロジェクトの遂行を通じ、顧客のニーズに応えるプラントを提供する企業です。主に石油やガスなどの大型プラントのEPCを得意としていますが、世界的に脱炭素・低炭素の流れが押し寄せ、クリーンエネルギーへの転換期を迎えるなか、当社でも地球の持続性に資する新たなビジネスの柱をつくるため、サステナビリティ協創部は創設されました。 
 私がメインで取り組んでいるのは、廃プラスチックのリサイクルを推進する事業の開発です。
 加えて、私は社内に新しいアプローチを取り入れるため、次の2つの活動も行っています。1つは、ベンチャー企業との協業促進です。当社には、長年世界各国でプラントの建設を手掛けてきた技術力や経験がありますが、今後、ビジネスモデルの多様化などを実現していくために、社内に閉じた議論や過去の成功体験の延長線からは生まれない革新的なアイデアやアプローチが必要になると考えました。そこで、これまで当社にとっては縁遠かったベンチャー企業と協業を模索する機会を増やそうと動いています。2021年は、神奈川県主催の企業とベンチャー企業とのマッチングを目的としたアクセラレータープログラムの「BAK NEW NORMAL PROJECT 2021」にホスト企業として参加。当社の建設現場の課題解決するアイデアを募集したところ、様々なベンチャー企業から解決策を提案していただきました。実働部隊は社内の若手が担当しつつ、先端技術を追いかけている別部門や、役員クラスも巻き込み、意義や効果を発信しながら取り組みました。今後もベンチャー企業と協業する機会を増やすことで、社内外の知の新しい組み合わせの可能性を高めていく予定です。
 もう1つは、新規事業提案制度の立ち上げと運営です。当社には以前から、部門ごとに個人が新技術の調査や開発などを提案できる制度がありましたが、所属部署の専門性と関連のない事業の提案は採用されにくい状況でした。例えば、機器類を扱う部門の若手が、ブロックチェーンに関するビジネス案を所属部門に提案したとしても、その善し悪しの評価は難しいでしょう。そこで、所属部門に関係なく個人や有志のグループで新規事業企画を提案できる「IDEA Port(アイデアポート)」という制度を作りました。社員が自由に新規事業のアイデアを気軽に持ち込み、話せる「ランチタイムサロン」を設け、私が相談役も務めています。

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社内と社外をつなげ、自分と会社を成長させたい

 会社に新しい風を吹き込むのが、自分の使命だと思っています。社外と社内を結びつけ、新しい価値を生み出すことにやりがいを感じているからです。
 入社後8年間は、機械系エンジニアとしてプラントの設備設計を担当し、2〜3年ごとに新たなプロジェクトに携わりました。技術を極めたいエンジニアには良い環境であり、私も担当するプロジェクトごとに達成感を得ていましたが、次第にエンジニアとは全く異なる仕事にチャレンジしたいと考えるようになりました。ちょうどその頃、尊敬するエンジニアの先輩が事業投資部門に異動したと聞きました。より幅広く社外の人と関わりながら事業を進める仕事に対する興味が強まり、自分も希望して同部門に異動したのです。
 この「社内転職」とも言える異動と同時期に、3つの転機がありました。まず、中小企業診断士の資格取得です。私には経営や事業に関する知識や経験がなかったため、当時の部長から「経営について学ぶには、この資格を取得するといいよ」とアドバイスを受け、勉強を始めました。資格取得を通じて、社内の組織、人事、財務など経営に関する理解が深まったと同時に、異なる職種や業界の人と対話するための新たな言語を得たように感じました。
 次に、日揮協議会の代表を務めたことです。当社では労働組合の代わりに同様の役割を持つ社内組織「協議会」があります。社員の考えを広く聞く機会を得るとともに、診断士の知識も生かしながら部門などと直接協議をするなかで、会社側が何を考え、何を目指しているのかを深く知る機会になりました。
 そして最後は、若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う「ONE JAPAN」など社外コミュニティ活動への参加です。さらに、ONE JAPANで知り合ったメンバーに勧められて、グローバル起業家等育成プログラム「始動 Next Innovator 2019」(経済産業省・JETRO主催)に参加。シリコンバレー派遣メンバーにも選抜され、世界のイノベーションの発信地と呼ばれる現場を目のあたりにしました。その体験を通して、当社でも顧客の課題を起点とした事業の開発や全社的なオープンイノベーションに取り組むべきだと考えたことが、今の仕事につながっています。
 また、当社がある横浜みなとみらい地区にオフィスを構える企業が増えていたため、この地域の若手・中堅社員で何かできないかと考え、企業・セクター横断コミュニティ「横濱OneMM(通称、おねむ)」を立ち上げました。これは、横浜という地域を共通タグとして、地域に根差した越境学習やオープンイノベーションを推進するプラットフォームです。これらは有志活動ではありますが、社内の人が社外と接点を持ったり、自分たちが社外で得たノウハウを社内に広めたりすることが、当社の人材のポテンシャルをさらに引き出すのに役立つと感じています。
 このように、同時期に複数のチャレンジが重なりましたが、「自分にできるかな?」と迷ったときこそチャンスを生かす、背伸びをするようにしています。大変なことも多いですが、自分の成長や会社の変革への貢献を感じながら取り組んでいます。

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共創プロジェクトの楽しさを教えてくれた吹奏楽

 振り返れば、私が「多様な人を巻き込みながらプロジェクトを進める楽しさ」を最初に感じたのは、高校時代の吹奏楽部での活動でした。高校では友人に誘われて興味本位で吹奏楽部に入部。そこで楽器演奏の楽しさを覚えると同時に、定期演奏会のステージ企画にのめり込んでいきました。企画チームのメンバーで知恵を出し合い、異なるパートの人の協力を得ながら手作りの進行表が擦り切れるほど検討を重ね、演奏会本番にダイナミックに進行するステージを裏方で取り仕切ることに、大きなやりがいを得ました。そして、自分は多くの人を巻き込み価値をつくり出していくことが好きなのだと気づきました。
 この高校時代の体験が、思いがけず後の就職先の選択につながります。小さい頃から図画工作やミニ四駆、エンジンカーのラジコンなどものづくりが大好きで、大学は機械系の学部を選びましたが、自分がどんな仕事に就きたいかまでは考えていませんでした。
 そんな折、大学院の研究室の友人が当社のインターンシップに参加しており、日揮の凄さを力説してくれたのです。そのとき初めて「エンジニアリング」という業界を知った私は、同業企業の1DAYインターンシップに参加。多様な専門家が力を合わせて巨大プロジェクトを動かしていく仕事内容の説明を受けたとき、想起したのは吹奏楽部での経験でした。「大学で学んだ技術分野に軸足を置きながら、多くの人とプロジェクトを動かしていく仕事がこの世に存在するのだ」と気づき興奮しました。また、学生時代に海外を旅するなかで異国・異文化に触れる面白さを感じており、グローバルに活躍できる仕事にも憧れがありました。「自分のやりたい仕事はこれだ!」と運命的なものを感じ、インターンシップからの帰り道、うれしさのあまりスキップしたのを今でも覚えています。

 入社後は、機械系エンジニアとして複数の海外プロジェクトに従事、インドネシアのプロジェクトでは離島の遠隔地にあるLNG(液化天然ガス)プラントの建設現場に1年間駐在し、現地の施工会社とともに水処理などの設備の据付工事から試運転までを担当しました。現地の労働者には英語を話せない人も多く、インドネシア語でコミュニケーションを取る必要がありました。現場でのやりとりで聞き取れなかった単語、伝えられなかったフレーズをその場でメモし、宿舎に帰ったら調べることを繰り返すことで、徐々にコミュニケーションができるようになり、業務をスムーズに進められるようになりました。駐在終了後は、英語力を伸ばそうと考え、英語学校に通う一方、会社では、日本にいながら6か国の仲間と働く多国籍チームでプロジェクトを担当し、仕事から日常会話まで多様な英語を使う機会が増えたことで、さらに英語をスキルアップさせることができました。
 文化も風土も違う人たちと多様なコミュニケーションを取る経験を積めたことは、今の仕事にも役立っています。例えば、2021年11月に英国で行われた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に、日本のパビリオン展示の1つとして当社が参加した際、説明担当として現地入りし、私たちが取り組む廃プラスチックのリサイクル事業について、各国の方々と英語で議論を交わしました。また、環境団体に所属する日本の高校生や大学生とも交流し、帰国後も定期的に意見交換する関係を構築することができました。

英国・グラスゴーで行われたCOP26に参加した田中さん(写真左)

 自分がやりたかった仕事が徐々に実現していますが、進むうちに次の壁にぶつかり、落ち込むこともよくあります。私自身、様々なことに広く目を向け物事を俯瞰して見るのは得意ですが、専門性を極めている人に出会うと、自分の力不足を痛感します。現在扱う廃プラスチックのケミカルリサイクルは化学工学分野となり、自分の専攻分野と異なるため、改めて学んでいるところです。自分の働きかけで、様々な人の協力を得ながら、それをさらに大きな力に変えていくことができる組織にいるからこそ、自分が何に貢献できるのか、自分にしかできない価値は何かを常に模索しています。

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限界を決めずに視野を広げて

 今後は、廃プラスチックリサイクルの事業化を実現させ、事業会社を立ち上げ、自ら経営に参画することが、1つの大きな目標です。そして、事業開発で成果を出すことで「IDEA Port」を発展させた新規事業創出の仕組みづくりや、ベンチャー企業とのオープンイノベーションなどをさらに推進していきたいと考えています。社外と社内をつなぎ、新たな価値を生み出し、会社の変革を加速させたいと思います。

 就職活動中の学生や若手社員に伝えたいのは、『自分で自分の限界を決めないでほしい』ということです。自分の見えている範囲は、自分が思うよりも狭く、人生の選択肢はたくさんあります。例えば、担当している仕事が合わずに転職しようかと迷うならば、まずは、今の仕事に軸足を残したまま、社外に触れる機会を意識的につくってみてはどうでしょうか。私は、社外の人たちとのつながりや実践によって、自身の視野や価値観が広がりました。一旦外に出てみることで、自分や自社を客観視することができ、見過ごしていた良さや可能性も認識することができました。
 思っているよりも、自分の人生は自分で柔軟に変えていけるものです。興味のある活動に一歩踏み出すことで、自分の可能性は広がっていくと思います。

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編集後記

 エンジニアとして活躍後、別の世界にも踏み出したいとチャレンジし、廃プラスチック問題の解決に向けた事業開発に取り組む田中さん。「最近は、社内と社外の活動の境界線が無くなってきた」と話し、大企業で働きながらも、自らが先陣を切って社外とのつながりを重視しながら脱炭素分野の新規事業開発や有志活動として取り組むベンチャー企業との協働事業などに挑戦している姿はとても充実感にあふれていました。「自分は1つの仕事を突き詰めるのは向いていない」と謙遜されていましたが、自分や企業の成長に必要なものを社外から越境して吸収し、事業開発を進めていくことは、「自ら仕事を作っていく」働き方を目指したい若手社員の憧れとなるのではないかなと思いました。

2022年2月25日取材

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