BERD 2007 No.9
【特集】
インタビュー
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藤崎和彦
岐阜大学医学部医学教育開発研究センター教授
ふじさき かずひこ

岐阜大学医学部医学教育開発研究センター教授。
北海道大学医学部卒業、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。
奈良県立医科大学助手、岐阜大学助教授を経て現職。
専攻は医学教育、行動科学。共編著に『医学・医療と社会〜コア・カリキュラム対応〜』(金芳堂)、『模擬診察シナリオ集〜病気になって初めて知ったこと&スケルトン病院〜』(三恵社)などがある。
Refarences
●『医学教育ABC〜学び方、教え方〜』ピーター・カンティロン、リンダ・ハッチンソン、ダイアナ・ウッド著/吉田一郎監訳/篠原出版新社/2004年
●『実践PBLテュートリアルガイド』吉田一郎、大西弘高編/南山堂/2004年
●『スケルトン病院〜患者と医師との出会いから学ぶ〜模擬患者参加型医療面接実習の実際』加藤智美、藤崎和彦、高橋優三、鈴木康之編著/三恵社/2005年
BERD
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医学部で進む実践的教育への改革
──問題解決型学習と模擬患者実習の導入──
藤崎和彦[岐阜大学医学部医学教育開発研究センター教授]

藤崎和彦
   大学における医学教育は、高齢化の進展や、医療をめぐる人権意識の高まりといった社会的な要請を受け、現在、変革の途上にある。
 2005年には卒業前の臨床能力試験が導入され、卒業後の臨床研修も必修化された。その改革の在り方には、高等教育一般へのヒントになることも多い。
 医学教育のFD施設として01年に設立された岐阜大学医学部の医学教育開発研究センターを訪ね、模擬患者による医療面接実習を指導している藤崎和彦先生に医学教育改革の動向や、先進的な実践教育の取り組みについて話をうかがった。
Q
なぜ医学教育の改革が必要になってきたのでしょうか。
まず歴史的な背景を教えてください。
 日本で近代的な医学教育が始まってから今年でちょうど150年になります。長崎のオランダ商館の軍医ポンペが幕府に依頼されて医学校を開設し、ヨーロッパ式の医学教育を始めたのが1857年。当時の就学期間は5年でした。今の医学教育は6年制ですから、まだ汽車もない時代からロケットが飛ぶ時代に移っても1年間しか増えていないわけです。その内実はといえば、一般教養→基礎医学→臨床医学→臨床実習という講義中心のスタイルが19世紀以来続いていました。
 しかし、20世紀後半になって医学医療の知見が膨大に増え、新しい検査法や治療法も次々に誕生して知のライフサイクルが短くなると、今までのように教員が講義し、学生が受け身で覚える詰め込み型教育では時代の変化に対応できません。そこで医学教育改革の機運が1970年前後から欧米で高まります。例えばアメリカでは医学教育についての市民委員会が組織され、細分化された専門医療とは別に総合診療、家庭医療に特化した「プライマリ・ケア」の教育や、患者とのコミュニケーションのトレーニングを重視するなど、社会のニーズに適合する医学教育の必要性が提言されました。
 同じころ日本では、インターン制度廃止を求めた学生ストライキの処分問題をきっかけに東京大学の安田講堂占拠事件が起きます。インターン制度は、戦後にGHQの指導の下にアメリカの制度を真似て導入されたもので、国家試験を受ける前に1年間病院で臨床研修をする制度でしたが、インターンは身分、教育、経済すべての面で保障されておらず、内実が伴っていませんでした。学生でもなければ医者でもない不安定な身分で、病院はインターンを安上がりな臨時労働力として十分な教育もしないまま働かせていました。インターンへの報酬は病院任せで、学生闘争で問題になってからやっと国の財政措置が付きましたが、時すでに遅く、68年にインターン制度は廃止されました。
 こうして医学教育の在り方が国民を巻き込んだ議論になったにもかかわらず、その後の改革は進まず、インターン制度に代わる卒後の臨床研修も「した方が望ましい」という努力義務のまま最近まで放置されていました。医学教育学会は発足したのですが、改革までの大きな流れは生まれなかった。
 しかし高齢化に伴う医療費の高騰が先進国共通の課題となり、インフォームドコンセント(説明と同意)や医療事故の問題など、医療をめぐる人権意識の高まりもあって、90年代から社会の医療ニーズの変化に合わせた教育システムの変革が本格的に求められるようになってきたのです。
 特に日本の場合、急速な高齢化の進展で、1人の患者が多くの疾病を抱えるようになると、専門医をハシゴすることでは限界があります。すると余計に、総合診療のできるプライマリ・ケアの専門医が必要です。ところが、大半の医学生は卒後すぐ大学の専門医局に入って専門医のトレーニングを始めてしまうので、プライマリ・ケアどころか、それ以前の基礎的臨床能力、すなわち専門分野を問わない通常の疾病の診察や救急救命といった、医者なら誰でもできて当然の医療行為さえおぼつかないケースが出てきました。
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