ベネッセ教育総合研究所
特集 高校の変化を見据えた大学広報とは
後藤 彰寛
桜美林大学
アドミッションセンター課長
後藤 彰寛
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【アメリカ大学事例】
生徒の興味の度合いにあわせて大学情報を段階的に提供
 2001年8月末から翌年4月末にアメリカのオバリン大学アドミッションオフィスに派遣され、様々な実務を体験した後藤彰寛氏に、アメリカの大学の募集広報について執筆してもらった。

ボーダーラインの生徒の情報をカレッジカウンセラーに確認

 1833年に創立されたオバリン(Oberlin)大学はオハイオ州にある学生数約2800人のリベラルアーツカレッジで、College of Arts & Science(約2300人)とConservatory of Music=音楽学校(約500人)から成る。アメリカで初めて女性に学士の学位を授与し、他大学に先駆けて黒人と白人の共学を実現するなど、革新的な大学として知られる。
 オバリン大学では、Dean of Admissions and Financial Aid(アドミッションおよび奨学金担当部長)がアドミッションオフィスを統括しており、Director, Associate Director, Senior Assistant Director, Assistant Director(それぞれ日本の大学の課長、係長、主任、一般職員にあたる)などがアドミッションカウンセラーとして、学生募集と入学者選抜の役割を担っている。ちなみにアメリカの大学では、どこでもオバリン大学と似たような組織編成となっている。
 一方、高校には必ず、カレッジカウンセラーと呼ばれる、教員とは異なる進路指導を専門的に行う担当者がいる。生徒の希望や適性に合った大学を紹介するだけでなく、出願書類(成績に関する報告や推薦書など)の作成も行う。高校に所属せずに、独立して進路指導を生業とするカウンセラーもいるが、その場合、契約内容(時間や金額)で指導の内容が異なり、電話や個別面談による指導だけでなく、保護者に代わって一緒に大学フェアのブースを回って歩く場合もある。カレッジカウンセラーに特別な資格は不要だが、その業務経験の履歴は重要な「売り」となる。
 アドミッションカウンセラーは、カレッジカウンセラーとの信頼関係を構築し、大学の情報を提供するとともに、受験してくれそうな生徒の情報を得ることが重要な仕事の一つとなる。5月から10月頃にかけて担当地域の高校を訪問し、カレッジカウンセラーとミーティングを行い情報交換をする。その際、生徒からの個別相談も積極的に受け付け、大学をアピールすることも怠らない。大学フェアに参加するときも、その地域で個別相談を希望する生徒がいる場合には、宿泊先のホテルのロビーで面談をする。  「コミッティ」(※1)と呼ばれる合否の最終判定会議でボーダーラインにいる生徒の合否を判定するため、アドミッションカウンセラーがカレッジカウンセラーに追加情報を問い合わせることもある。

※1 コミッティ:メンバーはアドミッションカウンセラーが中心。日本の大学では教員が合否判定をするが、アメリカでは原則的に教員は加わらない。

 その際、「第一志望かどうか」「学業成績が落ち込んだ理由」などの質問から、時には「心の病から立ち直っているか」「麻薬常習から本当に更生しているか」といったことまで聞く。一方、カレッジカウンセラーからは「合格できる見込み」「第一志望であれば合格するのか」「合格させるために必要な追加資料は何か」などの問い合わせが来る。
 こうしたやりとりを頻繁にカレッジカウンセラーとできるようになるためには、個人的な信頼関係が必要で、誰とでもできるわけではなく、少しずつ積み上げていくものでもあるようだ。
 アメリカでの受験大学探しでは、College Board, The Princeton Review, Fiske, Peterson'sなど大学の基本情報を掲載した本や、Cool CollegesやThe Insider's Guide to the Collegesなどのように学生や外部の視点から大学を紹介した本が使われている。このほか各大学や教育関連企業のホームページ、様々なランキングを載せている America's Best Colleges(U.S. News & World Report)やHow to Get Into College(KAPLAN Newsweek)などの雑誌も重要な情報源となっている。特にAmerica's Best Collegesのランキングは卒業生も注目しており、寄付金額にも影響するといわれる。NACAC(※2)のメーリングリストもカレッジカウンセラーによく利用される。

※2 NACAC (National Association for College Admission Counseling):カレッジカウンセラーとアドミッションカウンセラーの団体

 例えば「動物学および海洋生物学に興味のある高校2年生で4年制大学希望。GPAは3.3。西海岸の大学で、入学できそうな大学の情報があれば教えてほしい」など、毎日のように情報交換のメールが飛び交っている。
 高校生対象の大学フェアには、NACACによる全米のNational College Fair、州ごとに行うCollege Fair、いくつかの高校が共同で行うCollege NightやEvening Fair、いくつかの大学が地方で共同開催するフェア(Group Travel)などがある。中には、あえて多数の大学が集まるフェアを利用せず、自学に興味のある生徒だけを集めて単独で実施したり、保護者対象のフェアを行う大学もある。



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