VIEW21 2000.12  新課程への助走
 新教科「情報」の現状と課題を考える

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「情報」はスタートまでに準備が整う?

 新学習指導要領に定められている目標から考えると(下記1)、新教科「情報」はIT先進国への脱皮を標榜している日本において、今後まさに必要不可欠な教育内容と言える。しかし、現段階での高校現場において、「情報」導入に向けた進捗状況を調査すると、多くの高校で具体的な内容検討は進んでおらず、後手に回っている印象は否めない。
 その原因の一つに、高校で'03年度から始まる「総合的な学習の時間」の存在もあるようだ。「総合的な学習の時間」は教科書もなく、具体的な指導内容も各校の創意工夫に任せられている。それと比較して、「情報」は、今年度から各都道府県で始まった講習会で'03年度までに全国で9000名程度の現職教員が資格を取得する予定となっている。そのため、当初懸念されていた、「校内に免許取得者がいないため、授業ができない」という状況にはならない。これらの事情から、「情報」は'03年度までにはなんとか準備が間に合うのではないか、それよりも「総合的な学習の時間」が優先検討課題といった雰囲気が校内に生まれているようだ。
 さらに、「情報」は'03年度から新設される教科のため、当然ながら現時点で担当教師が校内に存在しない。そのため、教科としての目標や各科目の指導内容に関しても、校内で認識が共有化されているとは言い難く、「情報」を「家庭科」に近いイメージで理解している教師すらいる状況である。
 残念ながら、一部の高校を除くと、「情報」の効果的な活用への取り組みといったことに関する校内での活発な議論はほとんど行われていない。また、取り組みが進んでいる高校でも、推進役となっているのはごく一部の積極的な教師のみというのが実状である。
 現状の進捗状況で、本当に「情報」の授業は'03年の初年度から円滑に立ち上がっていくのだろうか。

進捗の停滞は教科目標の認識のズレが一因

 新教科「情報」に詳しい教師が問題点として繰り返し指摘しているのは、「教科目標に関する教師間の認識のズレ」である。
 高校現場では「『情報』の目的はパソコン等の基本的操作・知識の習得であり、従来の教科学習とほとんど連動していない。まして、大学入試には直接関係しない。言わば別枠の技術指導である」との誤解が決して少なくはない。
 しかし、「情報」新設の目的は、「情報社会の一員として必要な能力と態度を身に付けさせ、情報の科学的な理解と情報社会に参画する態度を育成する」ことにある。その手段として情報活用の実践力を深化・定着させようとしているのだ。パソコンを操作してインターネットや電子メールを自在に活用できることは初期の1ステップであり、決して教科としての最終目標ではない。事実、新学習指導要領の中では、積極的に実習を行うこと(「情報A」では総授業時数の2分の1以上、「情報B」「情報C」では3分の1以上)を原則としながらも、反面、技術的な内容に深入りしないように、としている。
 新課程の目指す「自ら考え、自ら調べ、自ら学ぶ」教育の土壌を高校現場に生み出すには、「総合的な学習の時間」同様、「情報」をどう取り扱い、活用するのかも重要なテーマとなる。自校の状況に沿って、何単位で、どの科目を、どの時期に、どのような内容で指導するのかを熟考しなければならない。そのためにも、教科の目的を明確にし、校内での共有化を徹底しない限り「情報」の建設的な検討には入れないのである。

多くの懸念を解決するために現場の知恵を結集

 「情報」への理解が高校現場で不十分であるとの指摘に対して、原因は「情報」の内容が不明瞭で分かり辛い点にあるとの声も多い。
 「情報」は必修であり、それぞれ標準単位数が2単位の「情報A」「情報B」「情報C」の3科目から1科目を選択履修するという点は明快だが、3科目の違いはいまひとつはっきりとしない。重点の置き方は異なるものの、「情報A」「情報B」「情報C」はすべて4つの単元で構成され、その狙いは重複している(右記2)。また、必ずしも文系理系の区分と一致していない。そのため、科目選択をどのような基準で行えばよいのかが分かり辛いのだ。
 現在の各校の検討状況から推察すると、恐らく実施初年度は第1学年で「情報A」を選択する学校が多いと思われる。だが、その場合も「情報B」「情報C」はどうするのか、「情報A」を第1学年ではなく第2学年以降で選択してもよいのか、などの疑問点が残る。
 このほかにも高校現場からはいくつもの疑問点が指摘されている。

  • 他教科と比較できないほどスタート段階から生徒各人の力量に差が大きいことが予想される。この点も含め、「情報」の教師が1名の場合、適切な個別指導が可能なのか。
  • 「情報」は高校でのみ新設されるが、情報活用の実践力は小・中学校の段階でも「総合的な学習の時間」や各教科を通して継続的に育成されている。また、情報の科学的な理解と情報社会に参画する態度の2点は、中学校での技術・家庭科「情報とコンピュータ」での指導と連動している。入学以前のこれらの状況を高校はどのように把握し、重複のない授業を積み上げていくのか。
  • 「総合的な学習の時間」と違い、教科である以上評価が必要であるが、どのように評価を行うのか。テストを行うとすればどのように行うのか。

 これらの課題を解決していくためには、教師間で互いの知恵や工夫、試行錯誤の結果を集約していくことが必要だ。また特定のキーパーソンに業務が集中することがないように、高校として意識的にサポート役の教師を育成し、様々な課題解決に組織で取り組む体制を構築することも重要である。


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