VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

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★インタビュー★
現在進行している大学改革
その目指す方向とは
〜井村裕夫大学審議会副会長に聞く


 大学審議会の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」で、大まかに素描された大学の将来像。大学審議会副会長を務める井村裕夫氏に、今回の答申のねらいや背景、大学改革の具体的なビジョンについて伺った。

国際的に通用する大学をつくるために

――まずは今進められている大学改革の背景を教えて下さい。
井村 大学改革という点で、文部省が一番最初に着手したのが'91年に行った大学設置基準の大綱化(1)です。それまで大学の設置に対しては、いろいろな制約が設けられていました。教員は何人いないといけないとか、研究室の面積はどれだけ以上でないといけないとか、講義の内容もかなり厳しく規制されていました。つまり大学を作る段階、入り口で厳しい審査があったんですね。対照的なのがアメリカで、大学の開校は割と簡単にできるんです。しかしアクレディテーション(2)という制度があって、各大学は第三者機関から常に厳格な評価を受けます。ではどちらが質の高い大学ができるかというと、アメリカ型なんですね。そこで設置基準を大幅に緩めることにしたわけです。
 ところが実際には、改革はそれほど思ったようには進みませんでした。現実に起きたのは、国立大の教養部廃止(3)です。あれで大学の教養教育が大きな危機にさらされる結果となりました。これからの時代、むしろ教養は重要になってきます。そこで改めて大学審議会で議論をして、21世紀に向けて国際的に通用する大学にするにはどうすればいいかという答申を出したわけです。

――なぜ今、「国際的に通用する大学」が強調されているのでしょうか。
井村 グローバリゼーションが進み、経済が国際化したことが大きいですね。メガ・コンペティションと呼ばれる非常に激しい国家間の競争の中で、アメリカは、情報産業やバイオテクノロジーを中心に力を伸ばしてきました。一方日本は、新しい産業についていけていないのが現状です。日本国内のリーディング産業は製造業の製鉄、機械などですが、今や成熟産業になっています。そんな中で高い経済競争力を維持するためには、何と言っても技術革新が大切です。そのためには知識・技能や人材の供給源である大学がしっかりしなくてはいけません。大学が人材育成をし、研究成果を迅速にアウトプットしていく。それができないと日本の生き残りが難しくなります。「課題探求能力の育成」を大学改革の基本理念の一つにしている理由もここにあります。
 これは急速に進歩している学問の世界でも同じです。例えばヒトゲノム解読計画は当初は'05年に終了する予定が、アメリカのベンチャー企業が参入してきて'03年に早まることになり、結局'00年にほぼ終了しました。そういう風に多くの研究が加速化しています。ヒトゲノムについてもう少し話すと、これからは遺伝子の機能や病気との関係、新しい薬の開発の研究などが重要になります。そこで必要とされる学問は、生物情報学や生命情報学といった分野ですが、日本の大学はどこもそういうことを考えていません。社会や学問の変化に対応できる機動力のある大学にすることが求められます。


(1)大学設置基準の大綱化
大学設置基準とは、日本で大学を設置するのに必要な最低の基準を定めた法令。学部・学科、講座制・学科目制、教員資格、卒業要件、施設設備などについての基準を厳密に定めている。しかし、各大学の自主的・個性的改革の試みを抑制してきたとして、'91年にこれらの基準は大幅に緩和された。

(2)アクレディテーション
教育に対する外部評価。答申の中で述べられている第三者機関による大学評価とは、多少異なる。

(3)国立大の教養部廃止
'91年の大学設置基準の大綱化によって、従来の一般教育と専門教育の区分と一般教養科目の必修枠が廃止され、各大学は独自のカリキュラム編成ができるようになった。それを受けて、多くの大学ではカリキュラム改革を進めた。国立大では教養部改革が急速に進行し、多くの大学で教養部が改廃された。


写真 井村裕夫
科学技術会議議員
井村裕夫
Imura Hiroo
'91年より京都大総長。'97年より国立大学協会会長。'99年より神戸市立中央市民病院院長を経て現職。

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