VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

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――一方で大学は、18歳人口の減少という問題も抱えていますが。
井村 そうですね。大学全入時代が来て、定員割れを起こす大学が200校になるという推定もあります。国立大の独立行政法人化(4)もほぼ間違いありませんし、大学は激しい競争をしなくてはいけなくなりますね。大学生の学力も変わってくるでしょう。あまり勉強をしないで大学に入ってくる学生が増えるはずです。大学は教育方法の在り方を再検討しなくてはいけません。

教養教育と専門教育をどう両立させるかが課題

――今進められている大学改革の中で、最も重要なことは何でしょうか。
井村 私は、一番大事なのは教育の復活だと思っています。企業は学生を採用する際に、大学でどんな勉強をしてきたかほとんど評価せずに、大学のブランドで採用してきました。これは非常に大きな問題です。大学が有能な人材を一人でも多く育てられるようにならないと、日本の未来はありません。
 このことは、各大学の学長は十分認識しているでしょうが、現場の教員にまで行き届いているかは疑問です。教員は依然として研究志向です。しかし21世紀には、教育を疎かにした大学は世の中から信頼されなくなるでしょう。各大学が、入ってくる学生の状況に対応しながら、きちんとした教育理念・目標を持って臨むことが求められます。その過程で、大学はそれぞれ機能分化せざるを得ないでしょうね。

――私どもが行った大学の機能分化(5)についての意識調査からも、大学・学部学科ごとに「研究者の養成」「高度専門職業人の養成」「即戦力になる人材の養成」「幅広い教養を身に付ける」の四領域への志向性の違いが読み取れます。
井村 大づかみにはそうでしょうね。ただ難しいのは、高度専門職業人養成といっても教養教育も大切ですから、そのバランスをどのようにとるかということです。日本は戦後新制大学を作るとき、一般教養を中心とした教育を2年次まで行い、残り2年で専門科目を勉強することにしました。しかしかつての旧制大学では3年かけて専門教育をしていた。本来2年間では足りないのです。しかも学問はどんどん高度化していきます。そのために設置基準の大綱化以降、教養科目が専門に食われる現象が起きました。一方で今の時代、教養を習得することも、また重要になりつつあります。例えばグローバリゼーションが進んでくると、外国語が話せるだけでなく、外国の歴史や文化も知っている必要がある。ヨーロッパでは、高校までにかなり一般教育を行っていて、フランスの高校の卒業資格試験(バカロレア)では哲学のかなり難しい問題が出されています。大学では専門教育しかしていません。日本ともアメリカとも違います。日本の高校は大学進学に焦点を当てた授業をしているため、生徒たちに教養を身に付けさせる教育が十分ではありません。教養と専門の両立は、一つの難問です。

図2 育成したい学生像<偏差値帯/学部系統別>




(4)国立大の独立行政法人化
'00年、行政改革会議は、必要ではあるが国が主体となる必要のない業務を独立法人化することを決定。国立大に関しては、'03年まで結論が先送りされたが、文部省から国立大学長への説明の会議も開かれ、独立行政法人化される方向で進められている。これが実現すると、国立大も経営面で私立大に近づくことになる。

(5)大学の機能分化
「21世紀の大学像」の答申の中で、社会の多様な要請に適切に応えていくため、個々の大学がそれぞれの理念・目標に基づき、様々な方向に展開し、さらにその中での多様化・個性化を進めていく必要性が述べられている。その中で「総合的な教養教育の提供を重視する大学」「専門的な職業能力の育成に力点を置く大学」「地域社会への生涯学習機会の提供に力を注ぐ大学」「最先端の研究を志向する大学」「学部中心の大学から大学院中心の大学」などの方向性が、具体的に提案されている。


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