VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

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大学によって異なる教養教育

――答申では、学部段階は教養教育にシフトして、本格的な専門教育は大学院で行うべきであると提言してますね。ここで言われている教養教育の具体的な在り方については、審議会ではどのように議論されたのでしょうか。
井村 そもそも大学で教えるべき教養とは何ぞや、ということですね。この定義は難しく、大学審議会できちんと話し合えたとは言えません。外国語、特に英語力の養成は必須で、コンピュータリテラシーの育成も大切です。専門に進むための基礎教育も必要な上、人間としての豊かな教養も求められる。あれもこれもとなりがちです。
 ただし、教養の中味は大学ごとに変わっていいと思います。細かい点については、大学が独自性を発揮してよいわけです。ダブルメジャー制度(8)を採用してもよいですし、コアカリキュラムを設けることも考えられます。将来社会のリーダーとなる人材の育成を目指している大学なら、かなり広い基礎が必要となるわけで、即戦力を養成する大学とは、自ずと違ってくるはずです。

 

――学部段階では教養、専門教育は大学院段階でとなると、学部と大学院の関係も変わってきますね。
井村 今、ロースクール構想(9)(法科大学院)が話題になっています。そこに行く人たちの学部教育はどうあるべきかを考えてみると、これからの学部と大学院の関係が見えてきます。本来司法官になろうという人は、今のような法学部の狭いカリキュラムではだめで、学部ではもっと多様な勉強をしておかないといけません。司法こそ人間への理解が大切ですからね。そして、専門的なことはロースクールで学ぶ。そうすると学部は、法学部でなくて他学部でも構わない。ロースクールの成否によって、学部と大学院との関係が大きく変わる可能性があります。同様のことはメディカルスクールにも言えます。

――大学が学部段階では教養教育重視にシフトし、募集単位も大くくり化しようとしている一方で、高校では生徒の興味・関心に合わせてコースの細分化が進んでいます。高校と大学との接続の在り方としてスムーズではないように思うのですが、どうお考えですか。
井村 私は、高校までは幅広い知識を身に付けてほしいと思います。文理選択もない方がいい。例えば理科にしても、物理、化学、生物のどの科目も必要です。特に今、科学界では生物と工学の融合が進み、アメリカの工学部ではほとんどが生物を必修にしています。ところが日本の工学部の学生はほとんど生物を勉強していません。これでは学問の動きについていけなくなります。イギリスでも大学受験の科目を増やす方向での見直しの動きがあります。
 募集単位の大くくり化に関しては、私が京都大の総長をしていたとき、細分化されていた学科自体を大幅に減らしました。18歳で学科まで選択してしまうのは難しいと思います。
 昔に比べて人間の学習期間が長くなったことを考えても、そんなに早く専門分化しなくてもいいのではないでしょうか。高校で専門学科やコースが増えていることを考えると、難しい面も多いと思いますが、大学としては柔軟に対応しなくてはいけません。ただ基本的には、高校ではあまり履修する科目を絞り込まないことを望みます。

――多岐に渡る質問に答えていただき、ありがとうございました。

図4 大学の機能分化




(8)ダブルメジャー制度
複数分野の学問の専攻を義務付け、多角的に物事を考える能力を持った人材を育成することをねらいとする制度。

(9)ロースクール構想
ロースクールはアメリカの法学研究機関であり、日本の法学部に当たるが、教育機関としては大学院に相当する。国民が広くサービスを受けられるよう、法曹人口を増やそうと、日本でも法科専門大学院の創設が考えられている。多くは現存する法学部に併設される見込み。入学希望の他学部の4年生や社会人が「ロースクール入学試験」を受験することになる。

図 新制度における法曹資格取得の道のり




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