VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

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★座談会★
入試改革に高校現場はどう対応できるか


 大学審議会で議論されている「大学入試の改善(中間まとめ)」には、かなり大胆な大学入試改革が持ち込まれている。そこで、答申の主な内容とそれらが高校現場にもたらす問題点、及び課題に関して、大学審議会の大学入試に関する専門委員会で委員を務める鳴島甫筑波大教授と、高校現場の先生方3名を招いて座談会を開いた。
 鳴島教授には入試改革の背景と方向性を説明いただき、高校の先生方には率直な疑問と意見をぶつけていただいた。なお、鳴島教授へのインタビュアー及び全体のコメンテーターとして高田正規(ベネッセ文教総研所長)が参加し、司会は原茂(同統括責任者)が務めた。

1 国立大学協会試案
5教科7科目案の行方

学力低下の歯止めとして提案された5教科7科目案

 今回は、大学審議会の「大学入試の改善について」の報告(中間まとめ)を中心に議論を行う予定です。
 しかし、その前にまず国立大学協会第二常置委員会の5教科7科目試案から取り上げたいと思います。その骨子は大きく四つあると考えられます。(1)国立大受験者については原則として、センター試験で5教科7科目を義務付ける。(2)現行では2日間で行われているセンター試験を3日間に延長する。(3)センター試験で基礎的な力を見た上で、各大学が個別試験で多様な選抜をするように促す。(4)推薦入試、AO入試などでも、基礎的な学力を重視し、必要に応じてセンター試験受験を課すことも考える。試案は総会に諮って最終決定するということなので、現段階では本当にこの案が実施されるのかは分かりません。報道されたのも突然でしたから、高校の現場では驚いている先生が多いのではないでしょうか。
藤井 そうですね。確かに驚きました。最近、生徒の学力低下や進路意識の低下が進んでいると感じます。これは本校だけではなく、全国的な傾向のようです。そういう生徒の現状と、国立大が取り組もうとしている入試は、逆行しているように感じます。今の生徒にはちょっと酷すぎると思うのですが。
村山 週5日制や選択科目が大幅に導入される一方で、大学の方は科目数を増やす。これでは高校にとっては泣きっ面にハチの状態です。
 さっそく本校では、5教科7科目に対応する時間割編成が可能かシミュレーションをして、何とかできるという見通しがつきました。本校は私立の6年制なので、土曜日は従来通り授業を行う一方試験休みなどを作り、年間通して週5日制と同じ休日数を確保する変形週5日制を考えています。これは授業で最大限の効果を上げ、課外活動の衰退につながる7時間目授業を避けるためです。しかし、私立の自由度を活かすからできることで、文字通りの週5日制では難しいかも知れません。
石浜 センター試験を3日間で実施することも盛り込まれていますよね。一方でセンター試験の年度内2回実施案も出ています。3日間を2回もやられたら大変です。
 2回実施というのは、大学審議会の入試改革案ですよね。鳴島先生、国大協第二常置委員会の発表と、大学審議会の入試改革の動きとの関係はどうなっているのでしょうか。現場では混乱して理解されているようなのですが。
鳴島 両者は、動きとしては逆の方向にあると考えられます。大学審の方は、多様化、規制緩和、各大学における自由化を打ち出しています。それに対して国大協の方向は5教科7科目を国立大全部に課すということだから、大学審議会とは別の動きとして考えてよいと思います。
 国大協の試案は、学生の学力不足に対して国立大が持っている危機意識の表れと言えますね。国立大が学力低下の歯止めになるぞということでしょう。ただ、一方では、国立大は独立行政法人化によって、より一層私立大と競争して学生を集めなくてはなりません。そのことを考えても、入試科目の増加は難しいという大学もあります。
高田 私立大とだけでなく、公立大との関係も同様ですね。今回の発表は公立大は除かれています。地方国立大の中には公立大とレベルが拮抗している大学が少なくありませんから、受験生が科目数の少ない公立大に流れてしまう可能性があります。そういう危機感を持っている地方の国立大の学長は多いでしょう。ですから、確かに難しい面があるかも知れませんね。
 しかし、基礎・基本を重視したい、学力の不足を何とかしたいという国大協の意図も理解できます。イギリスも現在、これまで行われていた「A−レベルテスト」の3教科受験の反省期に入るなど、諸外国も受験科目を増やす方向にあるようです。日本でどんな動きが出てきても不思議はありません。

図5 国大協の合意事項概略(11月15日)
  1. 国立大学受験者については、原則としてセンター試験で「5教科7科目」受験を課す
    ・5教科7科目の内訳は各大学の判断に委ねる。
     原則は国語、数学、外国語の3教科+理科、社会から2科目ずつ選択
    ・医学部などの場合、理科を3科目として計8科目課す場合も考えられる
  2. 2日間で行われているセンター試験を3日間に延長要請
    ・受験生が多くの科目を受験できるようにし、物理や生物などの試験時間が重ならないようにする
  3. センター試験で基礎的な力を見た上で、各大学が個別試験でリスニングテストや教科横断型総合問題など多様な方法での選抜を行う
  4. 推薦入試、AO入試などでも基礎的な学力を重視し、必要に応じてセンター試験を課す

写真 座談会




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