VIEW21 2003.2  国際人を育てる THINK GLOBAL

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 その価値観の違いはどこにあるのでしょうか。アジア圏の中でも日本だけが違うということでしょうか。

 国際社会と日本との関係は、左利き文化か右利き文化かで説明できます。国際社会は合理主義的・個人主義的、例えるなら左利き文化です。これに対して日本は感情的で集団主義、例えるなら右利き文化です。国際社会では、左利き文化で物事が進んでいきます。そのため、右利き文化の日本人は「国際人」になることを学ぶ必要が生じてくるのです。
 私は、来日以前には中国研究をしており、同じアジア圏ということで中国人と日本人は同じメンタリティーを持っていると思っていました。しかし、実際は中国の方が欧米の価値観に近いように感じます。

 その違いはいつ、どのようにして形成されたのでしょうか。

 日本独自とされる集団主義や感性指向は、元来すべての人間に備わっている資質です。では、なぜ外国人は感性より理性、集団より個人を優先するのか。それは、世界の民族の多くが常に他民族からの侵略という脅威にさらされてきたことと関係があります。どんな民族でも戦争の際には確固たるイデオロギーや原理・原則を持たない限り、民族をまとめていくことも、自己のアイデンティティを保つこともできません。多くの民族は、戦争の度に主張の正当性を立証するために思想を固め、国民をまとめるために法律(社会のルール)をつくり上げてきました。これが、現在の合理主義の原点です。一方、日本は二つの世界大戦まで、大規模な対外戦争を経験しなかった極めて稀な歴史を持っています。外部の影響を受けない社会では、個人は周囲の社会が定める価値に従います。経済活動も集団的であり、特別な原理・原則も要らないし、自己主張をする必要もない。そのため、日本人は人類が元来持っている集団的・感性的要素を失わずにいることができたのです。

 そのような価値観の相違は、国際社会において日本にどのようなプラス面、マイナス面をもたらしていますか。

 外国人は、個人主義的で周りの環境には鈍感です。ややもすると自己主張ばかりになってしまいます。日本人は集団主義のため、周りの環境に敏感です。説明しなくても自然と協力関係が生まれてきます。だから日本人は工場経営などに関しては優秀です。しかし一方で、周りの環境に合わせてしまうばかりに、自主性が欠如してしまうというマイナス面も持ち合わせています。日本にベンチャービジネスが育たないのは、自主性の欠如に起因するのではないでしょうか。また、「腹を割って話せば相手は理解してくれる」といったムラ社会的な考え方も国際社会では通じません。国際社会では、自分の意見を主張した上で相手の意見も聞き入れ、折り合わないところがあれば、なぜ相手の意見が受け入れられないか、両者の関係を良いものにしていくにはどうすればいいかなど、論理的に話し合いながらお互いが納得できる妥協点を見つけていきます。それが、国際社会のルールです。しかし、日本人は「心」を込めて話せば自分たちの意見が通じると考えるため、論理的な議論に発展しない。相手の主張を聞いてそれに対する意見を述べ、その上で自分たちの意見を主張しないと相手も納得しません。


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