ベネッセ教育総合研究所
特集 自学自習力の育成
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取り組み目標を生徒に明示する各種のシラバス
 1年次からこまめな指導を行う一方で、単なるお仕着せの指導が生徒に響かないことも同校の教師たちは認識している。そこで同校では、個々の取り組みの意図を、逐一生徒にきちんと理解させることを、様々な指導シーンで試みている。
 「なぜ今この課題が必要なのか、これをやることでどういう効果の発揮を狙っているのかをしっかり示さないことには、生徒は納得して学校の指導を受け入れることができません。学年集会やホームルームでの講話にも、生徒の『なぜ』に答えられる内容を盛り込むよう留意しています」(森本先生)
 講話の内容だけにとどまらず、同校ではシラバスを通じたアカウンタビリティの確保にも力を入れている。特に注目されるのは、同校が「教科シラバス」に加え、「総合学習」や進路指導についてもシラバスを作成している点だ。図1に、同校の「進路学習シラバス」を示したが、「何をするのか」だけでなく「なぜその取り組みが必要なのか」が具体的に示されていることが見て取れる。このような目標・意義の明示が、教師の指導を素直に受け入れる素地をつくり、高校生としての学びの習慣付けにつながっていくのである。

図1
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川越高校では教科シラバスにとどまらず、「総合学習」や「進路学習」についてもシラバスを作成している。教育活動の目的をあらかじめ生徒に伝えておくことで、単なるお仕着せの指導に陥らないためだ。「生活と学習の目標」欄には具体的な行動目標が示されている。
 また、短期サイクルで学習目標を意識させるために、同校が生徒との個別面談を体系的に実施していることも、注目される取り組みの一つだ。
 「本校では1年次のうちから年6回の個別面談を行っています。短期スパンで生徒に学習・生活面での目標を示し、次の面談ではその目標が達成できたかどうかを一緒に確認し、意識改革を図るのが目的です。各時期の面談でどのような内容を扱うのかは、『進路指導ストーリー』(図2)に明文化し、教師間で指導のぶれが生じないようにしています」(四倉先生)
図2
「進路指導ストーリー」資料のダウンロード(PDFファイル)
計画的に生徒の学習モチベーションを開発していくためには、学年団が目線合わせをした上で取り組みを行うことが必要不可欠。「進路指導ストーリー」には各時期の教育目標はもちろん、面談の目的や方法まで細かく記載されている。
 このような文書の作成においては、その内容が各学年の実態に即していることが不可欠となる。そこで同校では、各学年の進路係に大きな裁量権を与え、プランの調整を柔軟に行える体制としているのだという。進路指導主任の大杉昇先生はその意義を高く評価する教師の一人である。
 「本校の指導体制の特徴は、学年の権限が大きいことにあります。進路指導においても、大枠は進路指導部が担当するものの、実施段階でのアレンジや計画の修正は各学年内に設けた『進路係』が中心となって行います。生徒の姿がよく見える学年の裁量権が確保されていたからこそ、学年行事や生徒の状況に応じたプランが立てられたのだと思います」
 もっとも、体系的な面談システムが確立するまでにはかなりの期間を要したのも事実だ。総合学習委員長の近藤健先生は、その過程を次のように回想する。
 「面談を軸に生徒をしっかりと見ていく体制が整う前は、『話をしたければいつでも職員室に来なさい』というスタンスで、それこそ四六時中面談をしていました。しかし、特定の教師に生徒が殺到して、十分な指導を行えないようなことがあったのも事実です。指導の目線合わせ、体系化を進めた背景にあったのはやはりその点でしょうね。最近は計画的に担任が学習相談や進路相談に応じられる体制が整ってきたので、以前のように、いつまでも職員室がごった返しているようなことは随分減ったと思います」


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