ベネッセ教育総合研究所
特集 小・中の壁を超える中1・1学期の指導 とは?
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「学年だより」で教師の思いを生徒に伝える
 数年前まで府中第三中学校の課題であった“学校の荒れ”は、こうした初期指導の徹底によって、いまではすっかり影をひそめた。だが一方で、生徒に対する厳しい指導を、「管理教育だ」と批判する見方もあるという。実は渋谷校長自身、03年府中第三中学校に赴任した当時は、「なぜ生徒は反発しないのだろう」と不思議に思ったそうだ。
「でもある時点から、これは大丈夫だと確信しました。浮かない表情をした生徒がいたとしたら、すぐに先生方で対応策を話し合う。不登校の生徒についても、教員全体で情報や方針を共有しています。つまり教員が生徒一人ひとりをきちんと見ていこう、大切にしようという意識ができあがっているんです。これがなくて厳しいだけだったら、管理教育になってしまいます。
 生徒もそれがわかっているから、厳しい指導にもついてくる。昨年の運動会では、いちばん後ろを走っている生徒を、ほかのチームの生徒も一緒になって応援する姿が見られました。こうした光景は、がちがちに管理された学校ではあり得ないことです」
 教員側の思いを生徒に伝えるための重要なツールになっているのが「学年だより」(図3)だ。
図表
▲図3「学年だより」。
家庭だけでなく他学年を担当している先生にも配布しており、
教師間の問題意識の共有化を図る面でも効果を発揮している。
ほぼ毎日、年間200号以上を発信している
 高橋先生は毎年、自分が担当する学年の「学年だより」を年間200号以上出しているという。内容は学校行事や学習、進路、生徒の問題行動のことなどさまざまだ。
「まだ学校が荒れていたころに、生徒に要求したいこと、保護者に伝えたいことを包み隠さず発信しようと思って始めたのです。いま学校で何が起きているのか、学校をどうしたいのかを正直に書くわけですから、最初は勇気がいりました。でも、文章は下手でもいいから、書き続けることが大切だと思います。『学年だより』を発行し始めて半年がたったとき、本当に不思議なぐらいに問題行動がなくなったのです。授業は落ち着き、廊下からは菓子袋やチューインガムが消えた。私たちのメッセージが生徒や保護者に伝わったのだと思います」(高橋先生)
 いまではどの学年も「学年だより」を精力的に発行しており、教員と生徒、さらには学校と保護者を結ぶコミュニケーションツールの役割を果たしている。
 中1の1学期という忙しい時期に、生徒に対して細かい指導をしていくのは、教員にとって大きな負担になるのは事実だ。しかしこの時期にどれだけ生徒の指導に力を注げるかが、中学生未満の生徒を中学生へとスムーズに移行させるカギを握っていることを、府中第三中学校の実践が証明している。


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