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第三者評価の義務づけは設置基準緩和の対応策
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――日本における大学評価の動きは海外と比べて、どのようになっていますか。
天野 大学の評価システムを作ろうというのは国際的な流れになっています。ヨーロッパではこのようなシステムはすでに導入されていますが、注意しなければならないのは、ヨーロッパの大学は実質的にすべて国立大学であるということです。日本では国立大学と私立大学が並存していますが、今回の法令ではその区別なく一律に、国が大学に評価を義務づけることになっています。
――第三者評価が義務づけられた背景についてどうお考えですか。
天野 1949年に日本で新制大学が発足した当時は、大学関係者の間では、アメリカのように大学の設置認可にあたって、国は可能な限り関与せず容易に大学を設置できるようにするべきだという意見が中心でした。自発的に大学が作った評価団体が大学を評価することで、大学の質の維持向上を図るのがよいと考えられていたからです。そこで実施機関として大学基準協会が作られました。
しかし、日本ではこの大学基準協会が十分に発展できませんでした。それはなによりも、国立大学はもちろん私立大学についても国が設置基準を定め、設置認可の権限を手放さなかったためです。その結果、大学基準協会のような任意団体に会費を払ってメンバーになり、定期的に評価を受けるという意識が根付きませんでした。アメリカも日本と同じく私立の大学と公立の大学が並存していますが、設置認可の権限は国ではなく州政府が持っています。その基準は、事実上の届け出制になっており、緩やかなものです。そのかわり、大学コミュニティは自発的に評価団体を組織し、大学の質の維持・向上を図ることに尽力してきました。それが大学評価機関として発展してきたのです。
今回の認証評価機関による評価の義務付けは、わが国の大学の教育水準を高める目的から発案されたというより、大学設置の要件を大幅に緩和したことへの対応策として国から出てきました。ですから国からのコントロールがなくなったのではなく、間接化したのであって、むしろ強化されることにもなりかねません。大学の自由な裁量が失われてしまうことのないような運用をしてほしいと思います。
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評価に関心を示してこなかった大学にも責任
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――大学側も第三者評価を受け入れざるを得ない背景があったのでしょうか。
天野 日本では歴史的に、私立大学優位のアメリカと違って国立大学のほうが優位にありました。旧帝大系の東京大学をはじめ、はじめから水準が高い国立大学は、大学評価に関心がない。評価を受ける必要性を感じてこなかったのです。
また、私立大学も、一度設置認可を受けた後はそれ以上の努力をしなくても設置が取り消されることはあり得ないため、外部からの評価を受けることに積極的ではありませんでした。
日本における大学の評価とは、偏差値に代表される入試の難易度や、就職のランキングのことを指してきました。すなわち社会は、入り口と出口のところのみでその大学を評価し、大学で何を教えるのか、教育や研究水準がどうなっているのかということについてはほとんど関心を示さなかった。これは不幸なことだったと思います。
――もともと文科省は自己点検・評価を推進してきたわけですが、それは効果を生まなかったのでしょうか。
天野 国立大学は国から一定額の予算をもらって運営されているわけで、初めから国のコントロールを受けていることもあり、自己点検・評価といっても改めて自分たちの教育研究活動を厳しくチェックする必要を感じなかったと思います。
一方、私立大学の経営状態は学生の数で決まってきますが、これまでのように右肩上がりで18歳人口が増えていた時代には、黙っていても経営を維持するだけの学生を確保できたため、教育環境のレベルを上げることに関心が薄かったのではないでしょうか。自己点検・評価は91年に大学の努力義務になり、98年に実施義務化されましたが、各大学がどこまできちんとやっていたかは疑問です。
――国立大学と私立大学が同一の条件のもとに大学評価を義務づけられたことはどのように考えますか。
天野 少なくとも文科省は「高等教育の水準維持の責任は国にある」という考え方を根本に持っています。国立大学については国民の多額の税金で運営しているわけですから、納税者に対する説明責任が大学側にあります。したがって国が国立大学のための評価機関を作って評価しようという方向にいくのは十分説得力があります。
例えばイギリスでは、大学への資金・資源配分を競争的にするために、評価機関による評価結果を利用するシステムを作り上げています。現在までに出来上がった日本の評価システムは、極めてヨーロッパ的な、すなわち「国立大学向けの評価システム」ですが、それを私立大学にまでそのまま適用することについては、いかがなものかと思っています。
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大学評価は大学人が手弁当でやるべきこと
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――国は評価機関への助成も検討しているようですが、これについてはどう思われますか。
天野 大学評価・学位授与機構は、国の機関で、国のお金で運営されています。それに対し、大学基準協会はメンバーシップ制ですからどこからもサポートがありません。私立大学協会（私大協）も自分たちで賄うようですが、国の機関ほど充実したものになるかはわかりません。そこで国は、これらの機関に対して助成すると言っていますが、補助金をもらえば政府のコントロールが強くなり、ボランタリズムの精神に反するというジレンマを抱えることになってしまいます。
実際、評価にはお金がかかることも事実です。法科大学院の専門評価機関として弁護士団体が名乗りを上げているようですが、その団体の試算によると、一つの大学を評価するのに800万円の経費がかかるという新聞記事を読みました。
法科大学院の評価機関には、大学評価・学位授与機構と大学基準協会も手をあげていますが、全国にせいぜい40から50しかできないと思われる法科大学院という顧客を、三つの機関で奪い合ってどうするのか。評価機関が複数あるのは必ずしもいいことではないのです。それに、複数あっても、もしかすると一番財政基盤が強い大学評価・学位授与機構が独占してしまうかもしれない。それが進めば、日本の評価システムは結局のところ、国が運営することになってしまう危険性が強いと思います。そうならないように大学コミュニティの中で十分配慮する必要があるのではないでしょうか。
――では財政的に安定した運営をするためにはどうしたらいいのでしょうか。
天野 本来ならば評価の手数料だけでは評価機関の運営は維持できず、例えば大学基準協会のメンバーシップフィーのような、恒常的な収入や基金にあたるものが必要です。その意味では文科省が言うような評価機関への株式会社の参入はあり得ないのではないかと思います。
評価手数料だけで採算が合うように運営するには、よほど高いフィーを取るか、経費がかからないいい加減な評価をするかしかないでしょう。国が評価機関に補助金を出すのは望ましくありません。国は評価を受けることを全大学に義務付けたのですから、評価機関にではなく大学にこそ、適切な評価を受けるためのお金を助成すべきだと思います。
――評価のどういう面で最もコストがかかるのでしょうか。
天野 評価を担当する人、すなわち評価員の人件費がもっとも大きくなると思います。ボランタリーの団体だったら、この部分を最小限に抑えることができます。アメリカでは評価員は安い報酬でやっているようです。それは評価をする人たちが、自分たちの所属するアカデミック・コミュニティに対する当然の奉仕と考えているからでしょう。一度やってみればわかるのですが、大学評価には非常に手間隙がかかります。「もう二度とやりたくない」という人も少なくありませんが、金銭的な報酬の問題ではないのだということを、まず理解しなくてはならないと思います。
――まさにボランティア精神がないと評価はできないわけですね。
天野 そうです。何のために評価をするのか。大学評価は国のためではなく自分たちが担っている大学の教育研究のため、そして自分たちが所属しているアカデミック・コミュニティのためにやるという精神がなければ成り立たないシステムなのです。国は大学人以外の識者も評価員に加えるように言っていますが、本来、大学評価は大学人がアカデミック・コミュニティのために手弁当でやるべきことなのです。残念ながら、このことはほとんど議論されていません。
――大学の教員が評価を行うにあたって注意すべき点は何でしょうか。
天野 大学の教員は日常的に評価の仕事に携っています。学生の学力を試験で評価し、卒業論文や修士論文といった学位論文を評価しています。学会誌の編集委員になれば、投稿論文の評価もします。いずれも、報酬はないようなものです。
これらの評価は職業的な役割として行っているわけです。これから始まる大学の機関評価も、そういう大学教員の職業的な役割の一部と考えてやるのでなければ、コストが高くなってしまうでしょう。
もう一つ、評価を受ける側から評価する人を見るとき、次の三つの視点があります。「権威」「権力」「権限」です。例えばノーベル賞の受賞者など、学者としての「権威」を持っている人から評価されたなら、その評価を信頼する。また、評価機関が国から認められた「権限」をもって評価に当たるというなら納得もできるでしょう。ただし、「権限」を与えられるのであれば、それを行使するに十分な専門性を持っていなければなりません。評価機関や評価員がその専門性を十分に持っていないときにトラブルが生じる恐れがあるのです。
そうすると、「権威」がなく「権力」だけ持った評価機関になってしまう可能性が十分にある。評価システムがうまく機能するときに最も大切なのは信頼感と連帯感ですが、日本の場合、残念ながら現段階ではそれが希薄だと言わざるを得ません。
これは日本で、いまだにアカデミック・コミュニティが成熟していないことと関係しています。国立大学と私立大学は別のもの、東京大学や京都大学と他の国立大学は別のもの、慶應大学や早稲田大学とほかの私立大学は別のもの……といった具合に、横の連帯感がほとんどない。これは日本の大学の最大の問題だと思います。
全体の流れとしては、評価機関についても大学の設置形態に応じて国立は国立、私立は私立で分立した形にまとまりつつある。これはよくないことだと思います。社会から、このような評価機関による評価は公平性に欠けると判断されても仕方ないでしょう。
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第三者評価制度への対応は大学自身の自助努力で
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――大学は、今後の大学評価にどのように対応していけばよいのでしょうか。
天野 私立大学の場合、先に申し上げた通り、自分たちの質を高めるために自発的に自己点検するというのが一番望ましい姿です。国の規制をなるべく受けないのが本来の私立の在り方ですから。しかし、すべての大学にとって第三者評価を受けることが義務になってしまった。今までは設置認可された後は各大学の裁量に任されていたのが、これからは事後チェックが厳しくかかってくるようになったのです。対応の仕方も今までと大きく変えざるを得ないでしょう。
まず私立大学は、大学が一つの組織体・経営体として動いていく上で、本来ならば当然やっているべき情報のデータベース化などの基礎的な作業をやる必要があります。何年かに一度、外部から評価機関のチェックが入ったときに困るのは、日頃そういうことを怠っているからです。企業では仕事をするために、Plan（計画）・Do（実行）・See（考察）を当たり前に実行していますが、大学の場合、やっているところとやっていないところの差が極端です。日頃からPDSを実践し、情報の蓄積がある大学であれば、いざ第三者評価が始まってもなんら困ることはないでしょう。
――大学が自己点検の際に注意すべき点はどこでしょうか。
天野 大学は自己点検として「人」「物」「金」「時間」の四つを押さえていく必要があると思います。この中で最も把握しにくいのは「時間」です。例えば年度始めに登録した学生が何人いて、その後、何人が試験を受けて、最終的に何人がどういう成績をとったかという時間軸に沿ってデータを集約することが重要です。そういうデータを集めることが教育の根幹に関わることであるにもかかわらず、ほとんどの大学ではできていません。ある授業で年度始めに100人いた学生が最後は50人になっていたら、そんな授業はおかしいと大学内部で判断しないといけないわけです。
そういう自己点検すべき項目を日頃からきちんとデータベース化していくのはさほど困難なことではないはずです。それまでやってこなかったことを一度にやろうとするから大変な労力とコストがかかる。しかし、そういった自己点検・評価から始めなければ、第三者評価のシステムはうまく機能しません。
――低い評価であった大学について、国が何らかの処分を行うことはないと言っていますが、この点はいかがですか。
天野 国は、低い評価であっても、それを理由として設置の取り消しや改善勧告を直接行うことはないと言っています。しかし、ある大学が設置基準に違反していることがわかった場合、それをどうするのか。あるいは、評価をパスした大学でトラブルが発生したらどうなるのか。いずれにせよ、設置基準に違反していたり、トラブルのあった大学に対しては学校教育法の改正などにより、改善勧告や助言、さらには閉校命令も出せるようになりました。規制緩和といいながら、実は権限が強化されたという側面はここにも表れています。
――例えば大学の財務内容まで公表された場合、評価結果があまりよくない大学では、ますます学生を集めにくくなる、という可能性もあります。
天野 大学というのは公共的なサービスを提供している機関だから、一定の水準を保っている必要がある。そのために財務内容も公表するということです。これは消費者保護の観点からいけば、当たり前のことではないでしょうか。ある日突然学校が倒産して一番困るのは学生ですから、それが必然という考え方もあるはずです。
ただし私はこの点からも、第三者評価を義務付けるべきではなかったと思っています。例えば、財務状況が厳しい大学が、それを公表したくないために評価を受けないということがあった場合、そのこと自体を社会に判断してもらうほうがベターだと思います。
例えば、アメリカでは3500から4000ほどの大学がある中で、2700程度しか評価を受けていないとされています。評価を受けていない大学の中には教育機関としての機能を持たず、学位を売ることを商売にしている大学も存在します。しかし、社会がそれらの大学の良し悪しについてしっかり見極める目を持っています。
これまで日本の大学は、国公立大学も私立大学も、自覚的であるにせよないにせよ、国に庇護されてきました。それが、情報公開して市場に判断を仰ぐことで否応なしに競争社会にさらされることになります。しかし、自由を保障し、その中で社会の評価を受けることが大学本来の在り方である以上、それは当然のことといえるでしょう。
――まさに競争的環境の中で、大学は個性を発揮しないと生き残れない時代に入ったわけですね。
天野 だからこそ、何のために外部評価を受けるのかということを、もう一度各大学に考えていただきたいのです。
評価には教育評価と研究評価がありますが、日本ではこの両者が混同されています。教育評価は学生のためのもので、研究評価は企業や政府、大学を移りたい研究者にとって意味があるものです。一般に大学が主体的に評価を受けるべきものは教育評価です。機関評価もその中心は教育にあるといってよいでしょう。そのことについて大学の中でコンセンサスを持ってほしいと思います。また社会の側も、例えば「21世紀COE」の狙いは研究機能の評価や向上にあるのであって、その大学の教育の質や水準とは直接関わりがないことを認識する必要があります。
第三者評価は、国が義務付けているからやむを得ず実施し、ごまかしながら基準をなんとかクリアするということではなく、大学が自分たちの意思で、自分たちの大学の質を高めるために主体的にやるべき性質のものです。しかし残念ながら、今の時点ですでに多くの大学が、評価されることに対して受け身になっています。
――第三者評価の義務化に対して前向きに対処していくことが重要ですね。
天野 そうです。第三者評価制度を単なる国の統制制度にしないために、大学側が評価システムを使いこなすことが大事です。そして、そうすることでより自分たちが使いやすく役に立つシステムに変えていけばいい。そのために、点検システムを日常の大学運営に組み入れていくべきだと思います。大学にも、大学の先生方にも、評価を受ける側の権利を行使する気構えで取り組んでほしいですね。
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国立学校財務センター 研究部 部長