| Betweenは（株）進研アドが発刊する情報誌です。 |
|
 |
| 3／3 |
 |
|
| 学風を残しながら大学改革を行う難しさ |
| 半分は成功し、半分は外れた公開実験授業の成果 |
センター教授としての田中教授のFDの方略は、半分は実現し、半分は外れたように思われる。実現した半分は公開実験授業から芽生えた他大学への影響と発展的FDの流れであり、外れた半分は公開実験授業を通じて芽生えた学内のFDに対する認識がなかなか広がらないことではないだろうか。
前者に関しては例えば、和歌山大学で、99年度から03年度までに延べ37回、担当者31人におよぶ公開授業が行われている。しかも近年は、FDに対する意識の高い教員グループが中心となって、継続的なFD活動として実施されている。山形大学でも公開授業をきっかけに「学生と教官による授業アンケート」「高大連携の研究」など、FDのさまざまな局面が開かれつつある。ほかにも島根大学、鳴門教育大学、岡山大学などが公開授業を通じたFDの試みを行いつつある。
これらの波及効果は国立大学ばかりでなく、私立大学にも草の根的なFDの一手法として一つの潮流になっていくのかもしれない。後発の利から創意工夫をこらして有効な活動をする。あるいは規模が小さかったり、抱える危機感が切実な故に、進歩的なFDを生み出す大学が現れるのは当然といえる。
しかし一方で、同センターの全学的なFDが顕在化しないのは、京都大学という伝統、文化、風土といったものを有効に生かすFD戦略が見当たらないからであろう。総長がいかにリーダーシップを取っても、各学部のなかで、それぞれの教員が意識して取り組まなければFDは成功しない。言い換えれば、各学部で特徴あるFDを行うことこそ、京都大学の学風を残しながら独自の大学改革を実現させるカギとなる。この点では、田中教授は工学部や農学部、医学部などで始まった学部特性に応じたFDの動きに注目している。じっくり熟成の時間を待とうという戦略のようだ。京都大学の教員には潜在的な教育力があるとみているからだ。 |
| より個性的な京大生を育てるために |
学生にとっては4年間という在学期間はあまりにも短い。一方で大学を取り巻く環境変化はあまりにも速い。FDの完成までに時間がかかっている間に、「京大生」は次々と「京都の大学にいる比較的優秀なノーブランドの大学生」になっていく。
この危機感から、同センターはFDと導入教育との融合に取り組み始めた。新たに始めた公開実験授業はこれまでの学校教育や生活スタイルをどこまで容認し、大学文化と折り合いをつけるかを課題にした科目といえる。さらに学生の学力・能力レベルと大学教育とをどこですり合わせるかも問題になる。この問題はどの大学でも入学当初の大きな課題になっている。多くの大学教員は無気力に見える受け身の学生に戸惑いながら、それでも学生を直視してカリキュラムの内容を変更しつつ腐心する。
おそらく同センターの導入教育で学生たちは自発的に質の高い論理的・批判的意見や発言をするであろう。しかし、そうであっても教員側は現状に安住するわけにはいかない。つねに学生の学力水準やニーズに合わせる形で、より適切な授業内容にしなければならない。また、現在の若者は「自主自律」「自学自習」を促すだけでは“大学生”に育たない。この傾向は京大生の学力がいかに高くても同じであろう。
さらに付け加えると、京大生の場合には、学びの動機づけがなされるだけでは不十分なのではないだろうか。それは、「たまたま成績が良くて入学した大学が京都大学だった」という学生にとっては、「京都大学だから学べること」を自ら探していく努力をしなければ、受け身のまま、漫然と4年間を過ごしてしまいかねないからだ。
FDの目的は大学が個性あふれる大学として世の中に存在感を示すことである。京都大学のように世間から特別の伝統と文化、風土を持っているといわれつづける大学であるならなおのこと、「より個性的な京大生らしい学生を育てようとする」教員団の結束が求められるのではないだろうか。
関係者であるなしを問わず、京都大学だけはノーブランドの大学生を産出するようなあまたの大学のような教育機関になってほしくないと思う人は、多いのではないだろうか。
「京大の猛者たち」という言葉を学生にも教員にももう一度思い起こしてもらいたいものだ。 |
| （矢内秋生） |
|
