| 事務職員の力量を発揮できる組織を整える |
―実際に運営の現場を担うのは事務職員です。基本的には現状のメンバーで、法人化後の急激な変化に対応していかなくてはなりません。
杉野 今回の法案をまとめるもとになった、調査検討会議の最終報告が昨年３月に出ていますが、その報告書の中にも、「単に役員組織を整えるだけではなく、これからは大学の中における事務職員の力量が発揮されなければならない」という指摘があります。
現行の制度では、国立大学の職員は国家公務員ゆえに、教員と事務職員という厳然たる垣根が存在します。それがかえって、フレキシブルな役割分担の障害となっている面もあるのは事実です。しかし、法人化されると、各大学は自分たちの独自のアイデアで、いろいろなポストを置くことができるようになります。教員も職員も公務員という枠組みが外れるので、これまでの役職や職域に縛られることなく、力を発揮できるシーンが出てくると思います。メンバーは同じでも、組織を柔軟に改革すれば、新しい制度に対応できるのではないでしょうか。 |
| 組織の活性化について三つのポイントから判断 |
―法人化した国立大学が組織として活性化しているかどうかを判断するポイントはなんでしょうか。
杉野 一つめは、大学自身が学内の資源配分を戦略的に見直し、大胆に機動的に決定しているかどうかという点です。資源配分はこれまで国が管理していましたが、法人化後は大学自身が決定することになり、その責任が問われます。思い切った改革には準備と決断力が必要になります。ですから、それができる大学は評価に値します。
二つめは、学内資源配分をダイナミックに行うための前提条件として、学内の各組織およびスタッフに対しての学内での評価システムが整っているかどうかという点です。どうしてそのような資源配分が必要なのか、どうしてその研究に力を入れるのかなど、学内のメンバーを納得させられるようなシステムが構築されているかどうかが重要です。
三つめとして、それらの評価の問題を含め学内の運営の実態についてきちんと情報公開、情報発信ができているかという点です。学内で議論があっても情報を公開し、世論の支持を得ることで、問題の解決の糸口が見つかることもあります。これまでの象牙の塔のイメージを払拭し、開かれた大学にしなければなりませんし、そのような大学こそ評価されるべきなのです。また、これは税金で運営されている国立大学が国民に果たすべき説明責任の一環でもあります。
―国立大学には法人評価も新たに義務付けられますが、この意図はなんでしょうか。
杉野 それぞれの大学に、どういう大学にしたいのか、どういう社会貢献をしていくのかなど、目標を定めてもらい、それが達成できたかどうか、6年ごとに国による業績評価が法人評価として義務付けられます。そして、その評価をもとに次の6年間の目標と計画を策定します。このような仕組みを定めたのは、一言でいえば改革のサイクルを確立したいという意図からです。改革のサイクルが定まり、機能するようになれば、国立大学の特色・個性ある発展も促進されるでしょう。 |
| 国立大学法人化が私立大学に与える影響 |
―今回の国立大学の法人化によって、私立大学にはどのような影響が出ると考えられますか。
杉野 法人化は、国立大学のみを対象とした改革なので、私立大学への直接の影響はありません。
ただし、国立大学がマネジメント改革を行う中で、国立大学が抱える問題は、実は私立大学にも共通するところが多いのではないでしょうか。例えば学内のボトムアップからくる意見とトップダウンでくる意向の調整は私立大学においても難しい問題だと思います。
また、私立大学といえども、社会から見れば、公的な機関としての役割も果たしています。私立大学にも補助金という形で国民の税金が投入されているのもそのためです。そういう意味で、国民に対する説明責任は私立大学も負うべきものと考えています。
―国立大学の改革の影響は、間接的には私立大学も受けるということでしょうか。
杉野 そうです。国立大学はマネジメントシステムの面で大変革を遂げます。学長選考のシステムも変わります。こういった改革は私立大学にも様々な形で影響が及び、おのずと私立大学におけるマネジメントシステムの点検や改革に向かって動き出す大きな契機になるでしょうし、ぜひそうなってほしいです。
法人化の目的の一つである大学の個性の確立という点では私立大学のほうが国立大学をリードしていると思いますが、互いに刺激し合い、わが国の大学のより良い発展につながればと考えています。 |
| 募集定員や授業料には一定の制限が課されることに |
―「国立大学を法人化すると、私立大学と受験生の奪い合いになるのでは」という懸念の声を私立大学関係者から聞きます。国立大学と私立大学の学生獲得競争は、これまで以上に激化するのでしょうか。
杉野 国立大学もより学生の視点に立った教育の充実に取り組むことが必要となりますし、また募集戦略や広報戦略に熱心に取り組むことも大事ですから、その意味で国立と私立で競い合ってほしいものです。
例えば募集定員については各大学が勝手に決めるのではなく、国が認可するという仕組みを残しています。したがって法人化後に、国立大学が独自の判断で学生を大量に受け入れることで学生獲得競争が激化するという心配はありません。
また、授業料については、法人化後は各大学に設定を任せる予定ですが、国が、ある程度の幅とそのベースとなる授業料の標準額を提示します。特に標準授業料額については「経済的な理由で進学できない学生がいないように」、という国立大学の役割を踏まえた現在の設定を踏襲する形となる予定です。その意味では、国立大学・私立大学の競争という面と、役割分担という面のバランスが意識されています。
―財政支援などの面で、国立大学と同じ条件にすべきという意見も私立大学関係者の間ではあるようです。
杉野 国立大学は私立大学がカバーできない分野を補完する役割を担っています。例えば、私立大学が十分カバーできないような地方での教育機会の提供、設備に莫大な金がかかる理工系の分野の教育研究、大学院レベルの教育研究などは国立大学の役割と考えています。ですから、国立大学と私立大学は基本的にはまったく同じ競争条件でというのは難しいでしょう。
ただし、私立大学の公的な側面を見れば、一定の国の支援は必要ですし、とりわけ私立大学の中にはすでに国立大学に遜色ない高い教育・研究水準を保持し、社会のために大きく貢献している大学もあります。そういう私立大学には国立大学と同じ条件で財政的な支援をますます充実させていくことも必要だと考えています。
すべての私立大学に均等に資源配分するのではなく、教育・研究面で特に優れた業績をあげている私立大学に対して、場合によっては国立大学並みに国からより手厚い支援を行うという方向性になるのではないでしょうか。 |
| 法人化と第三者評価は改革の拠り所に |
―法人化後に期待する日本の大学像とは何でしょうか。
杉野 国立大学の改革がドラスティックに進み、国際的な評価があがることを期待したいものです。もともと国立大学は国の保証という強みがあります。そこに明確な基準による評価が加われば、信用度もおのずとアップします。
また、私立大学の場合はこれまで国が大学の設置認可をする仕組みを作ってきたので、それによって大学として、ある程度の品質保証ができていました。それが今回の規制緩和でゆるやかになりますが、それに代わる品質保証のシステムが、国の認証機関による第三者評価です。
法人化と第三者評価は日本の大学が国際競争の中に立たされたとき、国立大学、私立大学それぞれの改革の拠り所となるシステムになると考えています。
現在、国内ばかりでなく、海外からも日本の大学に対する注目度が高まりつつあります。法人化と第三者評価という改革を契機として、国立大学、私立大学双方が刺激し合って活性化することを期待しています。 |
