| 進化する国立大学 |
| report |
| 法人化や再編・統合などを控えて、国立大学の改革が進んでいる。財政的には国の予算で賄われるとはいえ、経営には民間手法が導入され、私立大学の運営方式に近づいてくるともいえる。法人化によって国立大学の何が変わり、私立大学にどんな影響があるか、先進事例などをもとに考察する。 |
| 国立大学の構造改革 |
現代社会の急激な変化に対応するためには、社会構造全体の改革が不可欠であり、大学も例外ではない。政府が謳う「人材大国・科学技術創造立国」を目指すためには、知の創造と継承を担う大学の役割は重要であり、従来の大学の構造を大胆に改革する必要に迫られている。しかしそれまで競争的な経営環境になかった国立大学は、ともすれば自己改革が滞りがちだった。
その流れを変えたのが「聖域なき構造改革」の大号令だ。大胆な行政改革を求める声は、国立大学だけが従来通りの行政組織を維持し続けることを許さなかった。
2001年６月、文部科学省は経済財政諮問会議がまとめた「今後の経済財政運営および経済社会の構造改革に関する基本方針」に合わせて、今後の国立大学の改革の方向性を「大学（国立大学）の構造改革の方針」として表明した。ここには、「大学の構造改革なくして日本の発展と再生はない」との認識のもとに、三つの基本方針が提示されている。
第一は、国立大学の再編・統合である。単科大学と総合大学の統合や、教員養成系大学同士の統合、県境を超えた大学・学部の統合など、スクラップ・アンド・ビルド方式によって、国立大学の数を大幅に削減しようというものだ。
第二は、国立大学の法人化である。国立大学に民間的発想の経営手法を導入することで、大学組織そのものの活性化を促すことを狙った。
第三は、競争原理の導入である。第三者評価などによって大学を評価し、その結果に基づいて資金を配分することで、大学間に競争的な環境をつくり出そうというものだ。
再編・統合では、現在までにすでに２組４大学が統合され、今年10月にはさらに10組20大学の統合が決定している。また、法人化については６月末現在、国会で法案を審議中であるが、来年４月から国立大学が法人化されることはほぼ間違いない。
競争原理の導入については、すでに研究面において「21世紀COEプログラム」の採択による予算の重点配分が始まっている。教育面においても、学部・学科レベルを中心とし、意欲的な取り組みを行う大学を財政的に支援する「特色ある大学教育支援プログラム」もスタートする。さらにすべての大学に第三者評価を義務づけられることが法令化するなど、国立大学だけでなく、公私立大学も含めた大競争時代に突入している。 |
| 国立大学の再編・統合 |
■総合大学と医科大学との統合
国立大学の再編・統合は、構造改革の一環として、文科省による積極的な支援や助言のもとに進められており、すでにいくつかの大学が再編・統合を決定し、現在でも多くの大学が協議のテーブルについている。
02年10月には山梨大学と山梨医科大学、筑波大学と図書館情報大学が、それぞれ山梨大学、筑波大学として統合され、今年度から学生募集が始まった。また今年10月には全国で10組20大学の統合が行われる（図表１）。この再編・統合を盛り込んだ国立学校設置法改正案はすでに可決されており、04年度から学生募集が開始される予定だ。 |
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再編・統合予定の大学を見ると、医学部を持たない総合大学と単科の医科大学の組み合わせが目につく。名目上は２大学が統合して新しい大学に再編される形になっているが、実質的には、医科大学が医学部として総合大学に組み込まれることになる。
総合大学側は、従来の学部組織を温存したまま新設学部を設置する形になるため統合を受け入れやすいし、医学部を備えることによって、地域の基幹大学としての性格をよりはっきり打ち出すことができる。医科大学側は、いわゆる「進学課程」に関わる教養教育担当の教員を総合大学側と共有できるため、人材確保の面で有利なほか事務機能の簡素化にもつながる。
地方の大学に再編・統合が多いことも特徴だ。東京、大阪、名古屋の大都市圏では、東京商船大学と東京水産大学の統合を除けば、目立って大きな動きはない。人口が集中していることから学生の確保が比較的容易であり、統合に伴う煩雑な作業を受け入れてまで統合する必要性を感じないからだろうと推測される。
■双方の特色を融合した先進的な機能を創設
再編・統合によって、国立大学の教育活動はどう変化するのか。統合の大きな目的の一つが教育研究体制の強化であることから、統合前の各大学の特色を生かして、それらの融合領域、学際領域を新しく創造するケースが多いようだ。
例えば、すでに統合を果たした山梨大学と山梨医科大学の場合は、医学部と工学部が融合した大学院組織を創設した。博士課程には、医学領域、工学領域のほかに医学・工学融合領域を設け、ヒューマンヘルスケア学専攻と人間環境医工学専攻で新しい教育研究に挑んでいる。
福井大学と福井医科大学の場合も、工学と医学の融合を前面に押し出している。統合の象徴として「先端QOL（Quality of Life）医工学専攻」の設置を目指している。同専攻は学部組織を持たない独立専攻として整備する予定だ。新たな医療機器や治療法の開発などを目指すほか、疾病や高齢化と共生しながら質の高い生活を送ることを手助けする分野の研究開発も想定しているという。
医科大学との統合ではこのほかに、「生活習慣病に関与する遺伝子の探索、クローニング」（島根大学。統合後の名称。以下同）、「自然界での希少な糖類の生産と医薬品の開発」（香川大学）、「深層水の有効活用に関する研究」（高知大学）、「福祉と医学を融合させた介護方法や車椅子、ベッド等の開発」（大分大学）など、工学、理学、農学とのコラボレーションが目立つ。
一方、九州大学と九州芸術工科大学の統合では、そのシンボルとして「感性融合創造センター」の設置を計画している。医学、工学、システム情報などの教員が協力して、学際的な研究に取り組む。
東京商船大学と東京水産大学の場合は、統合前の商船学部と水産学部を併設するのではなく、海洋科学部と海洋工学部に編成し直し、名称も東京海洋大学と一新する。海をテーマにした新しい大学として生まれ変わり、新しい学問領域を開拓していく予定だ。
■複数大学の連携による新プログラムの導入も
03年度までの再編・統合は、いずれも単科大学との２大学間の統合だった。だが、04年度以降の統合を目指して協議を続けている大学の場合は多様な形態が予想される。埼玉大学と群馬大学のように重複する学部をもつ総合大学同士や、３大学以上の統合を目指すケースもあり、その行方が注目されている。
こうしたスクラップ・アンド・ビルド方式による再編・統合のほかにも、複数の大学や学部が大学としての独立性を保ちつつ、組織的な連携を模索する動きもある。
例えば、東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学は「四大学連合」を結成し、大学間の協力による「複合領域コース」を設置するなど、新しい教育プログラムの提供を始めている。このほか、北海道、北東北、北陸、四国の各地域では、複数の国立大学が幅広い連携の在り方を目指した協議を開始している。
こうした国立大学の再編・統合は、私立大学にとって大きな脅威にもなりうる。統合では学部構成自体は変化しないことが多く、競合学部が増えるわけではない。しかし総合大学としてのスケールメリットが増加するため、受験生に対する訴求力が高まることが予想される。近隣の私立大学は、そうした状況をよく見極めることが必要になるだろう。 |
