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| 国立大学の法人化 |
■行政改革を起爆剤に本格的な教育改革へ
国立大学の設置形態に関しては、かなり早い時期から改革を促す提言がなされてきた。71年の中央教育審議会の答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」の中で、国公立大学は「公的な性格をもつ新しい形態の法人とする」ことが望ましいとされている。また、OECD教育調査団もほぼ同時期に「自立性をもった法人組織に改め、現在の私立大学と同格に近いものにする」との報告を出している。国立大学は国の行政機関とは別の運営組織である方が望ましいとする意見は、30年以上も前から出されていたわけだ。
その後も87年の臨時教育審議会の第３次答申で「設置形態そのものについても抜本的な検討を加え、あるべき大学のあり方、それに関わる国の関与の仕組みを創造することが望ましい」とされるなど、主に教育改革の視点から、法人化問題への言及がなされてきた。
国立大学の設置形態として「独法化」がクローズアップされるのは、97年の行政改革会議最終答申からだ。
行政組織の簡素化・効率化の手段の一つとして独立行政法人制度の創設が提唱され、国立大学についても「独立行政法人化は、大学改革方策の一つの選択肢となり得る可能性を有している」との提言が出されたからだ。99年４月には「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ大学改革の一環として検討し、03年までに結論を得る」との閣議決定がなされている。
行政改革論議の中から独法化の現実味が高まったことに対して、文部省は同年９月に「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を公表し、通常の独立行政法人制度はそのままでは国立大学になじまないとして、特例措置を講ずる方向で検討すべきであるとの考えを示した。ここから独法化論議が一気に加速する。00年５月、自民党政務調査会が「独立行政法人通則法をそのまま適用することは、大学の特性に照らし、不適切」と提言すると、６月には国立大学協会もその方向性を支持。これらの動きを受けて文部省は７月、「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」を発足させ、国立大学にふさわしい法人化の道を探り始めた。これが前述の「構造改革の方針」へとつながっていく。
調査検討会議が02年３月に公表した最終答申「新しい『国立大学法人』について」では、国立大学の法人化は「大学改革を推進するための一環として検討されるべきものである」と最初に記されている。その前提のもとに、具体的な内容について基本的な方向性が提言され、「国立大学法人法案」として結実していった。
■ 独立行政法人とは一線を画した法人へ
国立大学法人法案は、独立行政法人制度をベースにしながらも、教育機関としての特性を踏まえた制度設計がなされている。主な内容をまとめてみよう。
・組織及び業務
法人格は各大学ごとに与えられる。大学の自主性・自立性を高め、自己責任を強める上では自然な形といえる。名称は「国立大学法人」とし、学校教育法上は国が設置者となる。この法人格は独立行政法人通則法（以下「通則法」）で規定される独立行政法人とは区別される。
役員は学長、理事、監事からなり、監事は２人、理事は法人ごとに人数が決められている。役員会は学長と理事で構成する。なお、監事と理事には必ず学外者を含むことが義務づけられている。
このほかの運営機関として、主に法人の経営に関する事項を審議する経営協議会と、主に大学の教学面に関する事項を審議する教育研究評議会が設置される。経営協議会の委員の過半数は学外者でなければならない。
学長は、理事の任命権を有するほか、経営協議会、教育研究評議会の議長としてこれを主宰し、法人のあらゆる活動についての最終的な意思決定権を持つことになる（図表２）。 |
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・中期目標等
通則法では、３年以上５年以下の期間で主務大臣が中期目標を定めることになっているが、国立大学法人においても、文部科学大臣が６年間を期限とした中期目標を定めることになっている。ただし教育機関の特性を踏まえて、各国立大学法人の意見に配慮する必要があることが規定されている。中期目標を達成するための中期計画は、国立大学法人が作成し、文部科学大臣の認可を受ける形になる。
中期目標の期間が終了するごとに、各国立大学法人は文科省内に置かれる「国立大学法人評価委員会」（以下「評価委員会」）の評価を受けなければならない。その際には大学評価・学位授与機構が行う教育研究評価の結果が尊重されることになっており、通則法の評価にはない、独自の評価システムが盛り込まれている。この法人評価の結果は運営費交付金の算定に確実に反映される。
・財務及び会計
中期計画終了時の積立金は、文部科学大臣の承認を受けて、次期に繰り越せることになる。また長期借入や、国立大学法人の名称での債券発行も可能になる。
■私立大学とも経営的な競合関係へ
このような国立大学法人の出現は、私立大学にどんな影響を与えるのか。
まず注意しておきたいのは、国立大学の意思決定機関がドラスティックに変化することだ。従来の意思決定は、全学的な審議機関である評議会に委ねられていたが、実質的には教授会の権限が強かった。全学的な運営方針を決定するためには、全学委員会などで議論した後、各教授会に諮り、その結果をさらに評議会にあげて決定するという仕組みになっていた。
国立大学法人では学長に権限が集中する。教学上の重要決定事項も、教育研究評議会での審議を経て学長が決定できるようになる。そうなるとこれまでにない個性的な教育を打ち出す国立大学法人が出てくるはずだ。事業の内容は中期目標・計画に示した上で実行しなければならないが、それらは文部科学大臣の承認を得られれば変更できる。しかもトップダウンによる迅速な事業展開が可能になるので、社会情勢に素早く対応できることは、もはや私立大学だけの特権ではなくなる。
また、強化したい分野などに対し、比較的自由に資源を配分できるようになるため、特定の学問領域に関する教育施設・設備を拡充し、高額な報酬で有能な研究者や教育者を集めることも可能になる。
さらに、国立大学法人の職員が非公務員化されることにより、民間企業などから入試や広報の専門家を引き抜くことも可能になる。私立大学は職員確保の面でも完全に国立大学法人と競合する状況になるだろう。
このように国立大学法人と私立大学は、これまでにない厳しい競争関係にさらされることになる。まずは概算要求を出してから……と悠長だった国立大学が、私立大学と同じような改革スピードを備えるようになれば、総私立大学化ともいえる状況になる。国立大学の法人化は、私立大学にとって対岸の火事ではない。 |
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