特集 動き出す「ロースクール」
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
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法学部では多様な進路への土台となる教育を展開―浦川
 こうしたロースクールの教育と関係して、既存の法学部の位置付けをどのように考えていますか。
浦川 まず法学部の定員を現在の900人から700人に削減する予定です。同時に、再編に向けても動き出しています。従来、法学部は法曹養成の機関ではなく、学生のほとんどが企業に就職していました。ですから今後の法学部では、法的知識は教えるが、法曹や会社員だけではない、多様な進路に進む土台としての教育を展開したいと考えています。
 すでに、より広い分野に関わる法律を教えるために、経済学や政治学などともリンクさせたカリキュラム編成に変えつつあります。まず、法律プラスアルファという形で他分野の科目を自由に取れるように、選択科目の縛りを取り払いました。加えて、少人数ゼミも増やします。さらに、ロースクールでは行わない語学教育の充実も考えています。
 教員については、ロースクール設置に当たって学部とロースクールのどちらを希望するかアンケートをとったうえで配置したのですが、3年後の完成年度を迎えた段階で、教員が異動することも考えています。
大村 当大学では、法学部の定員削減についてはまだ検討中ですが、新しいカリキュラムは決定しました。少人数教育を重視して1、2年次にゼミを増やすとともに、法律学以外のリベラルアーツ(教養教育)を多く導入しました。
 また、ロースクールへと学生の興味をつなぐために、3、4年次で弁護士にゼミを受け持ってもらうことも考えています。分野の多様化と、ロースクールへの学生の興味関心を深めることが改革の方向性ですね。
平良木 当大学院では、法学部の定員については、もともと少ないので減らす予定はありません。改革の方針については、リベラルアーツを重視しながら、より狭い分野で法律の専門性も追究していく、という案が出ています。また、法律以外のもう一分野で専門知識を修得しておくことも必要です。また他学部の学生を対象にオープン講座の設置を考えています。
 教員組織については、学部とロースクールとの間で、従前のアカデミックな教員と実務家教員とのローテーションを工夫していきたい。ただ、これまでロースクール教員の任用はロースクール独自で進めてきたため、学部との調整に時間がかかります。
独自の奨学金制度を作るには寄付金集めが不可欠―平良木
 ロースクールでは社会人の受け入れを理念として掲げていますが、経済的な負担が足かせとなる可能性があります。各大学ではどのような支援体制を考えていますか。
平良木 公的なものも含め、既存の大学院の奨学金制度を適用します。また民間の銀行と提携して低利の奨学ローンも設けています。これは、授業料をほぼカバーできる金額を有利子で貸与してもらうしくみです。ロースクール独自の奨学金も考えていますが、そのためには寄付金を集めなければならないので、5年後に迎える創立150周年との兼ね合いを考慮しつつ検討しています。
浦川 早稲田大学では学内の奨学金制度のほとんどが、卒業後に返還しなくてもよい給付型になっています。これをロースクールにも適用します。ロースクール独自の奨学金制度も考えており、その財源としてこの夏から法曹OBへの寄付金活動も始める予定です。慶應大学のように奨学ローンも考えましたが、金利を学生が負うことになるうえ、卒業後すぐに返済義務が発生する可能性もあるのでやめました。
大村 公的な奨学金は当然必要ですね。さらに、給付奨学金の原資としてOBの寄付も欠かせません。今、創設125周年の寄付を募っていますが、そのなかにロースクールの枠も設けており、原資が集まりつつある状況です。貸与奨学金については、金融機関と提携して、大学側が利子補給する形で、低利の長期分割弁済ができるように検討中です。
司法試験のために教育の中身を変えざるを得ないのは最悪―大村
 これまでのお話の中で、それぞれの大学のポリシーが見えてきてとても興味深いのですが、一方で他大学との競争も意識せざるを得ないかと思います。
 そこで、第三者評価や司法試験の合格率、卒業生の進路といった様々な評価要素のなかで、何を重視しているかお聞かせください。
浦川 第三者評価については、すでに学内で自己評価なども行っているので気にしていません。ただ、各大学がポリシーを持って実施していることを、一律に並べただけで良し悪しは決め付けてほしくありませんね。
大村 同感です。基準を限定して細かく規制されるのは、ロースクール制度の発展にとってもよくない。小規模の大学院で、その規模を活かして特定の分野に重点を置くなど特徴を出すところもありますが、そうした新しい試みは積極的に評価してほしいですね。
平良木 第三者評価は設置基準を満たしているかを見るものですから、大抵のロースクールでは問題はないでしょう。
浦川 法曹のエンドユーザーの評価は重視したいですね。その大学院が「ブランド」になれるかが、そこにかかってくる。「あの院出の法曹は優秀だ」とエンドユーザーからの評価が高まり、その評価を聞きつけて優秀な学生が入ってくるという循環が理想形です。
 当大学院では、他大学とは違って既修・未修の枠がないので未修者の占める割合が多くなり、司法試験の合格率は悪くなる可能性もあります。しかし、多様な人材を生み出す法曹養成制度に変えていかないと、法曹改革に向けた今までの努力がすべて無駄になってしまう。われわれはモルモットになってもいいから、このスタイルでやってみようというのが早稲田の考えです。ですから、多様な法曹を生み出し、長期的に社会からの評価を高めていくことで勝負したいと考えています。
平良木 その通りだとは思いますが、やはり司法試験にどれだけ合格するのかというのは重要な指標です。
 当大学院は、中央大学や早稲田大学に比べ法曹分野では新興勢力なだけに、数を出すことは重要。合格者数を増やし、様々な法曹分野の先導者を輩出することはわれわれの使命なのです。
大村 法曹を養成する機関である以上、司法試験の合格実績は避けては通れない問題。それが、まず社会的な評価として取り上げられ、大学院のパワーに還元され、新しく入る学生の評価にも影響してくるわけです。メジャーなロースクールで、ある程度以上の合格率が定着すれば、どんな法曹を養成するのかという部分に社会の目が向けられるようになると思います。
 司法試験の合格率を意識しなければならないために、各大学院のポリシーが損なわれてしまう恐れもあるわけですね。今後の司法試験のあり方についての要望はありますか。
大村 司法試験というのは、ロースクールの教育の成果を確認するための試験というのが理想。試験に向けて、教育の中身を変えていかざるを得ないというのでは最悪です。そのためにも、ロースクール卒業者の合格率は高く設定しておく必要があります。しかし現実は相当厳しいようです。
平良木 新司法試験の合格率は当初7、8割といわれていましたが、あるシミュレーションでは1年目が33%、2年目からは17%、さらに14%、10%と落ちていくと予想されています。全体の合格率の低下が、ロースクールの姿をゆがめることになるかもしれないと危惧しています。
浦川 司法試験は法曹になるための関門である以上、合格しないとどうしようもない。しかし司法試験に合格することが目的になってしまうと、何のためにロースクールをつくったのか分からなくなってしまいます。しかし、全体の合格率の予想を見ると、きれいごとを言っていられない面もあり、非常にジレンマを持っています。従来の学部より厳しい教育課程をこなすのだから、未修の学生でも合格してくれるはず……と祈るような気持ちでいます。
平良木 早稲田大学としては、法学部出身の学生を入れて、2年制よりも3年制で教えたほうが、結果的に合格率が上がるという読みもあるのではないですか?
浦川 それは誤解です(苦笑)。入学させてみたら、3年制コースのなかに法学部出身の学生が大半を占めるのではないかともいわれますが、ポリシーとしてそういうことはしません。
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