特集 動き出す「ロースクール」
道 あゆみ
司会 弁護士
日本弁護士連合会 司法改革調査室
道 あゆみ 氏
浦川 道太郎
早稲田大学法学部教授
法科大学院開設準備委員会委員長
浦川 道太郎 氏
平良木 登規男
慶應義塾大学法学部教授
法科専門大学院開設準備室長
平良木 登規男 氏
大村 雅彦
中央大学法学部教授
法科大学院開設準備室副室長
大村 雅彦 氏
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
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トップランナーでありつづけるために
座・談・会
慶應義塾大学・中央大学・早稲田大学
 各大学のロースクールの構想が、いよいよ具体化してきた。司法制度改革に伴う設置という流れのなかで、定員や既修・未修枠、教育内容、社会人の受け入れ体制などどんな特色を打ち出すのだろうか。これまでの司法試験において高い実績をあげてきた私立大学のなかで、慶應義塾、中央、早稲田の各大学の法科大学院開設準備担当者に、法学部改革も含めた構想を語っていただいた。
平等に評価するため既修・未修の枠はなし―浦川
道(司会)まず、各法科大学院の定員と、入学試験の概要からお聞きします。
平良木(慶應義塾大学)当大学院では、法学の既修者を対象とした2年制コースと、未修者の3年制コースを設けます。定員はそれぞれ180人と80人で、両コースの併願は認めません。入試では、両コースともに書類審査を行います。書類は学部成績証明書、適性試験の成績、志願動機や自己評価、学業以外の活動実績などを記載した志願者報告書、第三者評価書(推薦書)、そして過去2年以内のTOEFL等の成績といった外国語能力証明書です。加えて3年制では、論理的思考力を重視する観点から長文の小論文試験を課します。
 一方、2年制では法律科目試験があり、憲法・民法・刑法についてのマークシート式、その他商法、民事訴訟法、刑事訴訟法を加えた法律6科目に関しての記述式試験を行います。志願者が多い場合は、マークシート式等で人数を絞り込んでから、少人数の際は両試験を合わせて総合的に選考します。面接については教員の数など体制が整っていないので、来年は実施しません。試験日は1月11日の予定です。
浦川(早稲田大学)当大学院では、多様な人材に広く門戸を開放するという、法曹改革の理念に沿って忠実に制度設計をしようという意図から、既修・未修者の枠は一切設けず、定員300人とします。一般的に考えても適性試験の成績も既修者のほうが高いとは限らない。枠を設けることで、かえって既修者、未修者を平等に評価できなくなる可能性があると考えたわけです。
 1次試験(書類審査)では、慶應大学と同様に、適性試験の成績、志望動機等を書いたステートメント、第三者の推薦書などを見ますが、語学能力を示すものは含めていません。ただし、渉外系の法曹を目指す人ならば語学的能力の証明書など、特にアピールしたい点があれば資料を提出してもらいたいですね。さらに、1月10〜12日の2〜3日間の一日出頭してもらい、2次試験として面接を行います。合格者決定後には、希望者に法律既修者認定試験を行い、一定の成績を修めた場合は既修者として30単位を免除する予定です。
大村(中央大学)慶應大学と同じように、当大学院も入り口を未修、既修者とで分ける方式を採用する予定です。ロースクールは、社会人を2〜3割取るよう社会的に要請されているので、それに応えるには未修者用の枠を設け、入試を実施するのが適切だと判断しました。目安では、定員300人のうち200人が既修者、100人が未修者となる予定です。
 入試については他の2大学と同じように、書類審査に加え、未修者には法律とは関係のないテーマでの小論文試験を、既修者には法律科目試験を実施します。後者では公法、民事、刑事系の3分野について、それぞれ論述問題を出題します。また、何らかの短答式試験の併用も考えています。これらの試験の実施日は、既修者は1月11日、未修者は2月8日になる予定です。
現役学生を蹴散らすような意欲的な社会人に期待―平良木
 選考ではどのような点を重視しますか。
平良木 意気込みのある社会人を採りたいので、志願者報告書に書かれた志望動機、自己評価、学業以外の活動実績といった部分に、第三者評価書を加味して精査したいですね。
大村 社会人については、キャリアを参考にしたい。当大学院では、未修・既修にかかわらず、将来のキャリアプランも志望理由書に詳細に書いてもらいます。そのプランに関連した能力を示す材料なども提出してもらえれば、ぜひ参考にしたいですね。筆記試験などの結果に対して、どの程度比重を置くかはまだ分かりませんが、選考基準にはこのような部分も残したいと考えます。
 大学入試センターと日弁連法務研究財団が実施する、全国共通の適性試験の成績を、選考でどのように活用しますか。
浦川 適性試験は、あくまでも法曹としての基礎的能力を試すものなので、必要条件ではあるが十分条件ではないという位置付けです。他の提出物と総合的に判断します。選考の基準は、突き詰めれば、その人が当大学院の卒業生として誇りを持って法曹として活躍してくれるかどうかなので、適性試験の1〜2点の差で門前払いをするといった方法は適切とは思いません。
 ただ、今年に関しては、選考する側のマンパワーが十分とはいえないため、あまりに志願者が多いと、ある点数以下の出願者については申請書類を審査できなくなるかもしれません。
大村 知識だけではなく、法曹にとって必要な論理的思考力を見る適性試験を、選考に積極的に導入するのは大賛成です。ただ、適性試験を含めて、基本的な選考材料は制度的に決められているので、そのなかで各ロースクールが選考にどう多様性を持たせるかということになるのでしょう。
 社会人ではキャリアも参考にするということですが、どのような人材を望みますか。
大村 社会人枠は特に設けませんが、公認会計士や弁理士など、ほかの分野の専門資格を持っている人には注目したい。多様な専門分野をバックグラウンドにしている人の受け入れは、司法制度改革審議会の理念にもかなっていますから。ただ、キャリアを資格として具現化できる分野ばかりではないので、どういった仕事をしてきたかを重視します。例をあげれば、企業の法務部で業務をしていた人や、本格的なボランティア活動家などには注目したいですね。
平良木 当大学院では、希望する社会人のバックグラウンドは特にありませんし、分野によって区別もしません。どんな分野であれ、キャリア的に目立つ人はいるはずですから。もともと慶應義塾の司法試験合格者には会社を退職してきた人が多く、そういった人が法曹の中枢になった例も少なくありません。学生と社会人の枠は設けませんが、逆にいえば3年制では全員が社会人になることもありうるし、2年制にも相当数社会人が入ってくる可能性もあるわけです。社会人には現役の学生を蹴散らしてでも入ってきてほしいですね。
浦川 社会人にはぜひ来てほしいですね。だからこそ、既修・未修の枠は設けませんでした。当大学院の場合、学生は原則未修者として扱い既修者は例外、というスタンスです。ディベートなどの双方向性授業を通して、法曹としてのふるまいや考え方など基本的部分を身に付けさせるのは、3年制でないと十分にできないからです。入学者のうち既修者は2、3割と予想していますし、クラス数もその程度しか用意していない。未修・既修の割合は、慶應大学、中央大学とは逆になっているわけです。
問題意識の形成が実務基礎教育の役割―大村
 既修・未修者枠は、ロースクールの教育方針に関係してきますね。
平良木 枠の問題は、法学部をどう位置付けるかによって違ってくるでしょうね。法学部の存在を考えないのであれば、3年制が原則であってもいい。しかし、現に法学部がある以上、学部で4年学んだ後さらにロースクールで3年、では長すぎます。そこで2年制コースの学生に対しては、学部で学んだことをブラッシュアップしていきます。
大村 われわれは、卒業する段階では2年制も3年制も同じと考えているので、両コースの教育方針には変わりはありません。ただ、法曹になろうと思って法学部に入学した学生の存在を無視して、3年制単独にするわけにはいきません。既修・未修枠の問題は、結局、3年制の1年次の教育をどう考えるのかということに帰結します。法曹としての基礎知識と、法律の体系を理解させるのが1年次の主眼。法律科目試験をクリアできた既修者ならば、それらは十分に会得できているのでパスさせてもいいだろうというのが当大学院の判断です。ロースクールのスタート段階では、法学部出身の学生が多くいる以上、2年制の枠が大きくなってもやむをえないでしょう。
ロースクールでは、これまでのような暗記型中心の授業ではなく、事例を中心とした思考過程の養成が求められているのは間違いないと思います。そうしたなかで3年制コースの場合、各学年次の教育構想はどう描いていますか。
浦川 おっしゃる通り、ロースクールに求められているのは、学部のような知識教育ではなく、現実の社会の中で法律の知識を使ってどのように課題解決していくかという実務教育です。当大学院では、原則無償で法律相談を受ける公益法律事務所であるリーガルクリニックをつくり、2年次の後半から3年次にかけて、学生に弁護士業務を実地で学んでもらおうと考えています。それに対して、1年次には法律基本科目を中心に教えますが、学部段階で学ぶ内容を1年で教えることになるため、授業の密度が非常に濃くなります。そこで、学生に予習をしてきてもらうことを前提に、教室では対話型授業で知識を確認していく仕組みにします。
平良木 当大学院でも同様に、3年制の1年目は講義形式の授業が多くなるでしょう。ただ1年間では知識面だけでも積み残しがかなり出てくるので、2〜3年次の間に補っていきます。
 一方、実務を教えるということについてはそれほど意識していません。リーガルクリニックはもとより、エクスターンシップについても特に予定はしていません。学部では司法研究室が実施しているので導入は可能ですが、現段階では依頼者とのやり取りで問題が発生したときに、それをカバーする体制が整っていないし、新司法制度には、実務を学ぶ司法修習も残されています。だからこそ、そうしたリスクを冒してまでロースクールでエクスターンシップをする意義があるのか、という見方もできるわけです。
 そのため、当大学院の2〜3年次の教育で重視するのは、司法修習に行って戸惑わない知識を身に付けること。一つの訴訟が一つの法律だけで解決することはまずないので、法律ごとの枠を設けず、その分野の法律を総合的に理解させるカリキュラムを組む予定です。
 例えば、刑法と刑事訴訟法を融合させた刑事法総合の授業を設け、知識の発展過程を考えていく。場合によっては、一つの事例を民事法と刑事法の両方から学ぶこともあるかもしれません。
大村 実務基礎教育の位置付けについては、当大学院は早稲田大学と慶應大学の中間的な立場かもしれません。3年制の場合は、2年次から実務基礎教育が始まります。つまり既修者ならば、ただちに実務基礎や法曹倫理などの科目が取れるわけです。ただ、学部とロースクール、1年次と2年次の教育は質的にかなり違います。ロースクールの2年次以降の実務基礎科目は、その後に司法修習があることを前提に考えています。
 実務基礎教育の役割は、生きた法の姿を見せることによって教室での学習に問題意識を持たせるためのもの、という位置付けです。そういった意味で、リーガルクリニックやエクスターンシップを実施しますが、実務訓練そのものに照準は合わせていません。
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