適性試験
～法律知識を問わないテストで
リーガルトレーニングの適性を測る |
| 法科大学院の入学希望者は、適性試験の受験を義務付けられる。初年度は２団体が適性試験を実施。日弁連法務研究財団の試験は８月３日に約２万人が、大学入試センターの試験は８月31日に約３万人が受験した。 |
| 問題に難易度の格差をつけ複合的な力を測るセンターの試験 |
適性試験は全国統一という位置付けではあるが、初年度は大学入試センターと日弁連法務研究財団の２団体によって実施された。法科大学院協会設立準備会は大学入試センターの適性試験を推薦しているが、どちらを採用するか、または併用するか等は各大学院の裁量による。03年７月末現在で、大学入試センターの適性試験はすべての大学院で採用。30校は両方採用するとしている。それでは、共通点と相違点は何か。
共通点は、実務法曹養成に特化した法科大学院の授業に対応できるだけの判断力、思考力、分析力、表現力などを備えているかを見極める問題であることだ。法学既修者以外の受験生に不利にならないよう、法律知識や理解がなくても解ける内容となる。これは01年６月に提出された司法制度改革審議会意見書で指摘された適性検査の内容に沿った形にもなっている。また、両団体ともアメリカのロースクールの適性試験にあたるLSAT（Law
School Admission Test）を研究。その結果を基に、難易度の差をつけて問題を作成し、選抜試験に対応するようにしている。試験は、いずれも２～３時間をほぼ休憩なしで行う。現行の司法試験での短答試験が3時間半に及び、忍耐力が試されていることを考慮したためだ。
相違点は出題形式にある。
大学入試センターの適性試験は、
（1）推論力と分析力
（2）読解力と表現力
と二つのパートに分かれ、すべてマークシート式だ。しかも、１問にかかる時間が10秒から10分までと、難易度の差を大きくつけた。この理由を、大学入試センター適性試験企画調査官の櫻井捷海（かつみ）教授は「法曹活動のような常に厳しい状況下では、総合的な力が求められます。判断力だけ、分析力だけと別々ではなく、複合的な力を測ることで適性がわかると考えました」と説明する。
また、記述式が適当と思われる表現力の問題も、受験者数の規模を考慮し、マークシート式とした。センター試験で培ったノウハウを活用すれば、記述式でなくても表現力を測ることは可能と判断したためだ。さらに、02年12月の試行テストで希望者を対象に論述試験を行い、マークシート式の得点との相関を分析。読解力との相関関係があったことも、マークシート式採用を後押しした。 |
| 法曹に必要な表現力を論述で問う財団の試験 |
一方、日弁連法務研究財団の適性試験は、
（1）論理的判断力
（2）分析的判断力
（3）長文読解力
（4）表現力
と、四つのパートに分かれ、（1）～（3）はマークシート式、（4）は論述形式となっている。日弁連法務研究財団・法科大学院入学者選抜適性試験事業部部長で弁護士の山本昌平氏は、「法曹家にどの力が最も必要とされているかを明確にするため、能力を個別に測ることが重要」と語る。個別に得点を出せば、各大学院が合格基準として能力別に判断することも可能だ。ただ、初年度は論述試験は採点しない。受験生は任意または大学院側の指示で論述試験の解答用紙を提出し、財団が採点基準を大学院側に伝える形となる。
「裁判などでは限られた証拠を基に相手を説得できる弁論や書類が求められます。そのために必要な表現力を測るには、一定の条件を付した上で表現する試験が必要と考えました。また、マークシート方式では必要な表現力を的確に問うことに限界があります」（山本氏）
このように、試験に対する考え方の違いが、出題構成に表れた形となった。日弁連法務研究財団では、同財団の試験の得点が大学入試センターの試験の何点にあたるのか、両方とも受験した者に協力を得て、統計処理。一覧表を作成、「対応付け」として公表する。
今後の課題は、受験者の追跡調査が重要という点で両団体とも一致する。大学院や受験者と協力し、大学院の個別試験の合否、入学後の成績、新司法試験の合否などとの相関を分析。法曹の適性は何かを追究し、試験の精度を高めていきたいとしている。 |
