| 大学生の意識と大学満足度 |
| 目的意識や自発的に行動する力を持たない学生が増えているという。受験を終え、新しい世界に飛び込んだ学生たちが大学生活に適応し、大学で学ぶ意味を見出すために、大学はどんなサポートができるのか。学生の満足度を考えた支援をレポートする。 |
学力低下や無気力化・モラトリアム化など、大学生が否定的なイメージでとらえられるようになって久しい。上智大学文学部教育学科の武内清教授は編書『キャンパスライフの今』（玉川大学出版部、2003年10月）の中で、こうした大学生のイメージは、社会や教員の偏見にもとづく一方的な意見である場合が多いと指摘する。学生は、入学した大学の環境や文化に影響を受けながらも、独自の学生文化を形づくっていることに着目し、大学は「あるべき大学」「あるべき学生生活」といった規範的な大学論、学生論ではなく、実際のキャンパスライフ、学生文化に関するデータのなかから、大学教育、学生支援の方策を考えるべき、と説く。
同書は、武内教授が研究代表を務める「大学生文化研究会」が実施した「19大学調査」（注1）および「7大学卒業生調査」（注2）のデータから、学生たちが大学生活をどのように送り、大学をどうみているかを、大学の授業、部・サークル活動、男女交際、アルバイトなどについて考察したものである。これらの分析をもとに、大学教育と学生の意識や大学満足度の関連性について武内教授に話を聞いた。
注1「19大学調査」
調査対象：19校（2130人）
4年制大学15校（1704人）短大4校（426人）
設置別：国公立6校（606人）、私立13校（1524人）
性別：男子619人、女子1511人
学年：1年生602人、2年生848人、3年生508人、4年生145人、その他・無回答27人
調査方法：教室での集団自記（一部持ち帰り）
調査時期：1997年10月～12月
注2「7大学卒業生調査」
7校（454人）
国立4年制大学1校（52人）、私立4年制大学4校（296人）、私立短大2校（106人）
性別：男子133人、女子321人
卒業年度：1979～80年度 220人、1989～90年度 234人
調査方法：郵送（回収率25.9％）
調査時期：1998年11月～12月 |
| 学生は大学を「多様な体験の場」とし、友人関係を重視 |
| まず、学生は大学をどうとらえているのだろうか、 |
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図1を見ると、「大学は学問の場であり、学生は授業や勉強を中心とした生活を送るべき」とした学生は全体の約4割、「大学は学問よりサークル、アルバイト、交友、旅行などさまざまな体験をする場である」と考える学生が約6割を占めた。
卒業生の回答を見ると、やはり「学問の場」としたのは全体で約4割に留まっている。さらに、「卒業後に役立っているもの」を聞くと、交友関係が約6割と圧倒的に多く、勉強、部・サークル活動、アルバイトと続く。また、「大学での価値観の変化のきっかけ」では、第一に大学の友人が挙げられ、続いて大学生活全般、大学の授業や先生となった。全体として大学は学問より交友関係を広げ、様々な経験をする場所としてみている学生や卒業生が多いということがいえる。
その友人関係は街やアルバイト先ではなく、大学という場で形成され、クラス、ゼミ、部・サークル活動といった大学での活動を通じて維持されている点が、注目される。学問（知）を媒介とした友人関係から、価値観の形成がなされていると分析できる。 |
| 新入生の自分の「居場所」が大学生活を左右する |
では、学生は、大学に入学して大学生活の中心となる友人関係をどのように築いているのであろうか。
新入生は高校という慣れ親しんだ世界から新しい生活に入った不安から、まず自分の「居場所」を探し始める。高校時代はクラスが自分の「居場所」であったが、大学ではそのような場はない。授業は一人で出るにしても、昼食を一人で食べるのは耐えられない。そのために、サークルに入る学生もいる。サークルに入れば、知り合いができ、部室や学生食堂の決まった場所でランチが食べられる。女子学生にとって、お昼を誰と食べるかは極めて重要だ。
入学直後に大学が企画する「オリエンテーションキャンプ」は、友達づくり、居場所づくりの絶好の機会となる。キャンプ（宿泊先）では、見知らぬ者同士が自己紹介やゲーム、共同作業（グループ単位での寸劇など）を通じて、親密度を急速に高める。「行きは静かだったバスの中も、帰りはまったく違う雰囲気になる。キャンプは、友達が未確定の時期、つまり入学直後にやるのがコツ」と武内教授は言う。
大学施設・設備のアメニティ（快適環境）に対する配慮を行い、勉学空間だけでなく、学生が居心地よく過ごせる「場所」づくりも必要だ。学生会館、部室、食堂・喫茶室、広場、ベンチ、学生街などさまざまな人と出会い憩う場所の確保も、学生が大学への愛着を高める要素となる。 |
