特集 動き出す「ロースクール」
上智大学文学部教育学科教授
武内 清
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
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学内でのコミュニケーションが在学効果を上げる
 では、学生の意識は入学後、どう変化していくのか。希望する大学に入学したかどうかを基準に見ていく。この項を分析した「大学生文化研究会」の浜島幸司氏(上智大学大学院生)によると、入学した大学が第一志望であったかと、今の大学に入学したことに満足しているかを聞くと、半数が第一志望の大学に入学でき、入学したことに「満足」「やや満足」という学生は半数を超えた(図2)。
 これを大学別で見ると、「第一志望」の割合と「在学満足」の割合が共に高い大学と、共に低い大学があることは当然の結果ともいえる。しかし、第一志望の割合が低いが、在学満足の割合が高くなる大学が複数ある(図3)。
 これらは、入学は不本意であったが、在学するうちにその大学の良さを発見し、満足度を高めていくという『在学効果』が高い大学ということができる。それらに共通する点は以下の通りであった。
(1)学生数が全体で3千〜1万5千人と大学規模が比較的小規模
(2)学科単位の少人数授業やゼミが行われている
(3)大学までの交通の便がよい
(4)国立大学より私立大学に多い
 以前から、少人数教育による学生同士や教員との密接なコミュニケーションの教育効果の高さを指摘する声は多い。「ゼミなどで教員や学生同士が意見を述べ合うという経験をしなかった学生は、企業の集団面接で自分ばかりが長く話したり、逆に発言が少なすぎるなど、適切な行動ができないという場合もあるようです。大学はこうした、大学教育の持つ潜在的な機能を生かすことも必要なのでは」(武内教授)。
 次に、入学した大学が第一志望であるかどうかと在学による満足度から学生を類型化し、彼らの大学生活の評価を見ていく(図4)。
 学生のタイプは以下の五つ。
順調型:第一志望で入学し、学生生活への満足度が高い
肯定変化型:第一志望でないが、学生生活を通し満足度を高めている
態度保留型:第一志望であるかどうかに関わらず、大学生活について評価できずに迷っている
不満変化型:第一志望であるが、大学生活が期待外れで不満をもつ
挫折引きずり型:第一志望でなく、大学生活にも満足できないままでいる
 まず、友人関係を聞くと、友人が「今の大学の人が多い」のは「順調型」と「肯定変化型」に多く、「今の大学以外の人が多い」のは「挫折引きずり型」に多い。大学のクラブ・サークル加入率が高いのは、「順調型」と「肯定変化型」に多く、「不満変化型」には「以前参加していたが、現在は辞めている」が多い。また「挫折引きずり型」と「不満変化型」は「最初から参加していない」が多かった。
 次に、授業、施設や周囲の環境、教員との人間関係についての設問では、「順調型」と「肯定変化型」は、授業や施設・周囲の環境、教員との人間関係を高く評価している(図5)。
 次に、各タイプの学生が大学をどうとらえているかを見てみよう。
 大学を「学問の場」と考えるのは、大学満足型(「順調型」「肯定変化型」)に多く、大学不満型(「不満変化型」「挫折引きずり型」)は「学問以外の場」ととらえる傾向にある。さらに、「学生評価の方法(単位の与え方)」について聞くと、大学不満型の学生に「試験やレポートを重視」を希望するものが多く、「出席を厳しく」という意見が少なかった。大学に不満を持つ学生は、なるべく大学に関わらず授業に出席しなくても単位をとれる方策を求めるという傾向の表れともいえる。
満足度に直結する教員の熱意
 大学の授業や教員に対する意識を詳しくみていく。
 図6を見ると、大学の授業で「専門的知識が得られた」「おもしろい授業がある」「幅広い知識が得られた」という意見は多く、満足度は比較的高いことがわかる。しかし、「先生との関係に満足」の値は低い。フリーアンサーでも、教員への不満や注文は数多く、「やる気のない先生が多い」「一緒に学ぶという形式がほしい」「熱心な先生とそうでない先生の差がはげしい」などの意見があがった。
 「教員が授業に熱心」という評価には、最高の74.3%から最低の20.9%まで少なからぬ大学差があるが、総じて、4年制大学より短大のほうが「教員が授業に熱心」とする傾向にあり、社会人の多い大学、入試難易度の高い大学、小規模大学、女子大でも評価が高い。逆に、入試難易度が中位の国立大学、大規模な私立大学では、「熱心な教員は少ない」との結果になっている。
 図7のように、教員が授業に熱心であると、学生の勉強の比重、大学の授業満足度、大学全体への満足度が高くなり、逆にアルバイトの比重は低くなった。
 学生の授業評価について武内教授は「未熟な学生が円熟した教師を評価できるのかという意見もありますが、多くの学生が今の大学の授業や教員に対して何らかの不満を持っていることは確かです。教員の授業への熱意と、教育方法への工夫がさらに必要でしょう」と述べている。
部・サークル活動で知る組織と自分の役割
 では、部・サークル活動への参加率とそれが学生の生活に与える影響はどうだろうか。
 全体でみると、部・サークル活動に「加入している」が5割、「以前参加していて現在は不参加」が2割弱で、「最初から不参加」が3割である。
 部・サークルへの参加と授業出席率との関連はなく、部・サークル活動は授業への出席を妨げる要因にはなっていない(一方、アルバイトは、授業への出席率を下げる要因になっている)。
 さらに、部・サークル活動によって得られたものを尋ねると、「自分の好きなことを楽しめた」「人間関係が広がった」「上の人に対する礼儀や周囲への気配りを学んだ」「人間関係や仕事に関する責任感について学んだ」「自分をしっかりもてるようになった」など、活動によって価値観が変わったという学生の声も多い。活動内容や組織内での役割を通じ、学生は自己を見つめ直したり、社会生活を考える機会を得ているといえる。近年、部・サークル活動に参加する学生は減少傾向にあるが、こうした活動の支援も大学が考慮すべき点はあるといえよう。
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