深化するFD
三浦 真琴
中部大学 大学教育研究センター 副センター長(国際関係学部 助教授)
三浦 真琴
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教育でもっとも大切なのは学生との信頼関係の構築
 中部大学は名古屋市郊外にあり、約40年の伝統がある。現在、5学部17学科、そして大学院に3研究科7専攻を擁する。また、付置研究機関は、研究所やセンター、学外と連携した研究機構など20を数える。
 中部大学を訪れると、50万平方メートルの広大なキャンパスが小高い山に展開する恵まれた環境にまず目を奪われる。創立者三浦幸平をしのんで建てられたメモリアルセンターや、60万冊の蔵書数を誇る附属三浦記念図書館、最先端技術の研究開発を目的としたリサーチセンターなどが整然と立ち並び、ちょっとした小都市の景観を呈している。この恵まれたキャンパス環境と設備を生かした情報教育や実験・実習授業の充実ぶりで学生満足度の高い大学として中部圏の高校では知られている。
 その一方で、「FD活動についてはまだまだ改善の余地があります」と、大学教育研究センター副センター長の三浦真琴助教授(国際関係学部)はいう。大学教育研究センターは2000年4月に設置され、全学のFD活動を推進している。
 「教育においてもっとも大切なのは、教員と学生の信頼関係の構築です。そのためには、できるだけ多くの教員が学生による授業評価システムなどを活用し、自らの教育能力を高めることが重要です」と、三浦助教授は話す。同助教授は、大学教育研究センターが発足する前から、学生による授業評価を起爆剤にしながら中部大学の教育改革に挑み、奔走してきた。その取り組みは他大学にとってもFD活動を進めるうえで参考になると思われる。以下に順を追って紹介しよう。
教員座談会で悩みや苦労の共有化を図る
 一般的に多くの大学では、喧々諤諤の議論の末に授業評価の実施にこぎつけたとしても、4年目、5年目ともなると学期末の恒例行事のようにマンネリ化してくるのが常ではないだろうか。
 マンネリ化しかねない授業評価システムを磐石なものにするためには、その到達点の姿をしっかり見据えて、ステップを重ねる戦略を持った専門的スタッフや仕掛け人の存在が不可欠だ。
 三浦助教授は教育社会学分野の研究者として、比較教育論の立場から、現代社会において大学教育が果たす役割について研究してきた。それだけに、仕掛け人としてうってつけだったといえよう。
 中部大学における自己点検・自己評価の取り組みは93年度から始まった。95年度には、「授業評価に関するワーキンググループ」として自己点検・自己評価小委員会(以下小委員会)が発足。同年度には、小委員会が中心となって、学生による授業評価をパイロットサーヴェイとして試行。どのような問題が浮上するかを確認し、対応策を練った。教員からは、授業評価が勤務評定用の資料として扱われるのではないかとの危惧や、発展途上にある学生が授業内容を評価することの妥当性について疑問の声があがったという。
 そこで、学生による授業評価をいかなる教員評価にも援用しないことや、経営管理サイドが直接には授業に干渉しないことなどを明記した文書を配布したところ、ようやく教員の心理的抵抗はなくなった。
 そして翌96年度に第1回の授業評価を実施する。しかしながら、教員の心理的抵抗はなくなったといっても全教員が授業評価に参加したわけではなく、前期においては4.5%、後期においては2.9%の教員が拒否。このため小委員会では各教員の参加意識を高めるために、授業評価の総括とともに、教員に必要な態度・姿勢について「問われる教師のモラルとセンス」と題するコメントとして、学内誌(中部大学通信第125号)に掲載した。
 授業評価を実のあるものとするためには、授業改善という課題が教員個人の範疇に属するものではなく、大学全体で共有し取り組むべきものであるという意識を、教職員や学生に持ってもらうことが必要である。
 そこで、小委員会ではそれまで個々の教員に送付するだけだった評価結果に、教員からコメントをつけてもらった上で公開することを目指した。しかし、一足飛びには実現が困難なので、まずは委員の教員が率先垂範して、自身の評価結果を全面的に公開し、それについて話し合う座談会を企画した。
 座談会は98年3月、第2回の授業評価の結果をもとに行われ、その内容は中部大学広報誌ANTENNAの特集号「学生による授業評価について」を通して、学外にも公表された。座談会には三浦助教授のほか、工学部の教授4人、経営情報学部の教授2人、国際関係学部の助教授1人が参加した。そこでは各教員が、学生による授業評価の数値の高低にとらわれることなく、授業の反省点や問題点を赤裸々に披瀝している。
 具体的には、学力差への対応の難しさや、教員の意図が十分に学生に伝わらないもどかしさ、また大人数クラスにおける私語問題と授業運営の難しさなど、一般の教員が常に身近に感じ、腐心している課題ばかりが話し合われた。こういった課題を共有する一方で、いかにして学生を育てるかという建設的な議論に発展している。
 実は三浦助教授の企画のねらいもここにあった。評価の数値について議論することが会の目的ではなく多様な学生を前にして、どの教員も同じような悩みを抱えながら、工夫をして取り組んでいるということを、全学の教員に伝えたかったのである。
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