IPUコーポレーション キャリア事業部 チーフディレクター
松 高 政（まさし） |
| Betweenは（株）進研アドが発刊する情報誌です。 |
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| 就職指導＝3年次という発想は転換する時期に |
| アメリカの大学から得られるインプリケーション |
先日「大学の就職力」というテーマで、某新聞社系週刊誌の記者から取材を受けた。テーマの意図を尋ねたところ、「卒業後の進路を見据えた大学選びに役立ててほしい」ということであった。
受験生や保護者、高校教員が、大学選びの基準として就職実績や就職指導、サポート内容を重視するのは、もはや当たりまえとなっている。大学教育の役割が人材育成機能にあるとすれば、学生が卒業後にどのような職業につき、どのようなキャリアを形成するかは、大学教育の「成果」を示す重要な評価基準のひとつであろう。
そこで、すでに就職が大学教育の評価基準のひとつとなっているアメリカの大学の事例を参考に、今後の就職指導に必要な取り組みについて考えてみたい。
2002年の11月に、ロサンゼルス近郊にある四つの大学のキャリアセンターを訪ねた。コミュニティカレッジから全米トップクラスの大学まで、それぞれ異なるタイプの大学であった。訪問するまでアメリカの大学のキャリアセンターに対して抱いていたイメージは、学生の就職支援よりも、キャリア支援ばかり熱心に行っているのではないかというものであった。しかし、この四つの大学に限っては、キャリア支援よりも就職支援のほうに力を入れていた。
キャリアセンターの基本的な機能としては、キャリアカウンセリング、各種のワークショップやイベントの開催、インターンシップのコーディネート、各種情報提供、学生と企業の仲立ち等である。機能だけを見ると、日本の大学の就職部とさほど違いがない。しかし、その取り組みの中身をよく見ると実に参考になるインプリケーション（含蓄）が多い。
それは、次の3点に集約される。
（1）Students come first（学生が一番）
「キャリアセンターにおける仕事のベースとなっている考え方は、家族と同じような サービスを、学生にも卒業生にも提供したいということです」。南カリフォルニア大学の担当者の印象深い言葉だ。キャリアセンターはサービス部門である、という意識が明確である。学生は、在学中に満足のいくサービスを受けることによって、卒業後に寄付金や在学生へのサポートという形で還元する。一方、大学は卒業生に対しても、在学生と同様、さまざまなサービスを提供する。卒業してからも、キャリアセンター（大学）とのつながりは切れない。まさに、卒業しても家族のままなのである。
企業に対しても、大学はさまざまなサービスを提供している。企業と学生との出合いの場としてジョブフェア（一種の会社説明会）を開催したり、キャンパス内で企業が学生への面接その他の採用活動が常時できるよう多数の面接ルームを設けたりしている。面接が「学生や卒業生にとって貴重な機会」となるよう、積極的に学生と企業との間に入り、両者にとって最適のマッチングが実現できるよう取り組んでいる。
（2）体系立てられたプログラム
アメリカでもトップクラスの学力を持った学生が集まるUCLA（カリフォルニア大学ロサンゼルス校）でさえも、かなりきめの細かいプログラムやサービスを提供している。「学生の多くは、将来のキャリアプランを持っていません。だからこそキャリアセンターを訪れ、カウンセリングを受けたり、プログラムに参加することによって、自分の将来を考えることが必要なのです」と担当者は言う。
UCLAでは各学年で、何をしておくべきかが明確に提示されており、それに応じたプログラムやサポートが準備されている。プログラムの豊富さもさることながら、ガイドブック、Webでの情報提供も目を見張るほど内容が充実している。
また、担当者との話の中では何度も「マーケティング」という言葉が出てきた。「キャリアセンターでマーケティング？」と最初、その意味が分からなかった。話していくうちに、ようやくその意味するところが理解できた。「キャリアセンターの行っていることを、学内（学生と教職員）と学外（企業）に発信する」という意味で使っていたのだ。本来、マーケティングとは、「商品の販売やサービスなどを促進するための活動」（岩波書店『広辞苑』第四版）を指す。このことからも、キャリアセンターにとって情報発信がいかに重要かがわかる。
キャリアセンターの情報発信は、学生には積極的にキャリアセンターを活用してもらうために、教員には授業と関連づけてもらうために、そして企業には学生を採用してもらうために行っている。どんなにすばらしいプログラムを実施していても、それがキャリアセンターに来てみて初めてわかるようでは、意味がないということである。
（3）コミュニケーションスキルのトレーニング
アメリカの企業が新卒採用をする場合、最も多い手段はインターンシップを通してである。この点ではインターンシップと就職活動が直接には結びつかない日本の場合とはまったく違っている。日本の場合はインターンシップが学生の青田買いにつながるのではという危惧もあるようだが、アメリカの学生にとっては、在学中にいかに就職にプラスになるようなインターンシップを経験するかが大きな意味を持つ。そこで重要になるのが、レジュメ（履歴書）だ。レジュメは、企業の採用可否の重要な判定資料とされるだけではなく、インターンシップの選考資料ともなる。そのために、キャリアセンターでは1年次から重点的にレジュメ作成の指導を行っている。レジュメが書けなければ、インターンシップもできず、結果的に就職も難しくなる。レジュメを書くというスキルは、米国の大学生には必須の能力である。
レジュメは、A4サイズ1枚が一般的である。そしてレジュメに添付するカバーレター（添え状）が1枚。この2枚にまとめ上げる。UCLAの担当者によると、このレジュメに企業の採用担当者が目を通すのは、1枚平均15秒だそうだ。見た瞬間にアピールできるレジュメを書けるかどうかがカギとなる。日本のエントリーシートと比べても、難易度ははるかに高い。
レジュメ作成と同様、面接（Interview）についても、1年次から指導している。UCLAのキャリアガイドブックを見ると、面接での応答は「60秒で勝負」することがポイントであり、そのためには、「練習をひたすら繰り返すこと」と書いてある。
レジュメと面接、つまり書く・話すというコミュニケーションスキルを1年次から徹底して指導しているのだ。 |
| 「もったいない」と感じる日本の大学生 |
次に、日本の大学における就職指導の在り方について考えてみたい。11月は、どの大学でも就職ガイダンスが盛んに行われている。この時期は、私も講師として多くの大学の就職ガイダンスに呼ばれ、学生に接する。このような経験を通して感じるのが、「もったいない」ということである。どんなに貴重な経験をし、そこからさまざまなことを学び、自分なりに考えをまとめたとしても、それを伝えるすべを持っていない学生があまりにも多いのである。書く、話すという基本的なコミュニケーション力がないのだ。就職ガイダンスが終わった後、学生たちと話していると、実にいろいろな経験を話してくれる。しかし、面接という場面になると、その経験をまったく話すことができない。彼らは伝えたつもりであろうが、聞いている方には伝わってこないのだ。
先に紹介したUCLAでは、「60秒で勝負」と指導している。NHKのアナウンサーが1分間に読む原稿は350字ほどである。エントリーシートについても、一つのテーマについては大体400字～600字程度であろう。この限られた時間と文字数で、「初対面の人に」「分かりやすく」「効果的に」自分の考えを伝えることは、1～2カ月で身につく力ではない。だからこそ、アメリカの大学のキャリアセンターでは、1年次から徹底して指導をしている。この力がなければ、就職できないのである。
日本の学生の多くは、就職活動以前に、書く、話すことについてほとんど指導されず、訓練を受けることもない。話す、書くという基本的なコミュニケーション力がない学生は、就職試験で困るだけでなく、社会に出てから事態はより深刻になるであろう。社会人として、コミュニケーション力の欠如は致命的になるからである。 |
| 学校から社会への移行を支援する就職指導へ |
大学生の就職活動は、学校から社会へのトランジッション（移行）の過程である。卒業後、どのような初職へ到達するのか、そのプロセスである。学校から社会へ、つまりライフステージのある局面から違う局面への移行なのである。
今後の就職指導を考えた場合、学校から社会への移行を支援するという意味での就職指導が求められるであろう。就職指導で行われている「自己分析」「エントリーシートの書き方」「面接対策」等の内容は、就職だけのために必要なのではない。自己分析による自己理解、エントリーシートや面接に必要な書く・話すというコミュニケーションスキル、これらは社会人にはなおさら求められている能力である。そう考えると、大学生活のある一時期（3年次）だけの指導ではなく、1年次から指導をしていくべき能力である。就職指導＝3年次という発想を転換する時期にきているように思う。 |
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