| Report-7 |
教員による企業開拓訪問と
学生の活動データベースが力を発揮 |
| 名古屋商科大学では、「就職活動の支援も教育の一部」という明確な考え方を教職員が共有し、実践している。進路支援センターと、ほとんどが実務家出身という教員組織・就職委員会を中心に、教職員が連携。就職希望者全員の活動状況を記録するデータベースは、最終的な意思決定に至るまで徹底追跡して更新され、きめ細かな個別支援を可能にしている。学生をもれなくフォローでき教員の責任も明確になるゼミ単位での支援、宿泊研修による就職準備の総仕上げなど、独自の工夫が確実な成果に結びついている。 |
| 新任や外国人の教員にも就職支援について説明 |
「本学では1953年度の開学以来一貫して、学生を社会に送り出すところまでが教育活動であり、大学は就職支援という教育責任も負うというスタンスです」。名古屋商科大学で就職委員会委員長を務める村井睦男教授は、このように説明する。
もともと同大学には「師弟同行」の教育方針が息づく。教員と学生が一体となって同じ方向に進んでいくという意味で、具体的な実践の場として、学内では「セミナー」と呼ばれるゼミを重視してきた。入学直後の「基礎セミナー」に始まり3年間継続するゼミは、全人格的な教育を行う場であると同時に、その延長線上にある就職を支援する場としても機能している。
ゼミでは学年や時期に応じた就職支援がなされるが、それには、教員の理解と協力が必要になる。そのため教員へのオリエンテーションには特に力を入れている。同大学の教員は、研究者、実務家出身者、外国人がほぼ3分の1ずつ。毎年、新任者には大学の就職支援に対する考え方を詳しく説明するほか、新しくゼミ担当となる者を対象としたオリエンテーションも別途実施。また、ほぼ2カ月に1回、すべてのゼミ担当教員が集まるセミナー会でも、就職のことを議題にする。
一方、ゼミ担当以外の教員についても、学期ごとに2度開かれる全体会義で意識の共有を図る。主に外国語学部に所属する外国人教員にも、日本の大学生の「就職活動」という概念や雇用情勢と合わせ、大学の就職支援を説明。こうした啓蒙活動が功を奏し、他大学でよく聞かれる「教員の意識改革が課題」という職員のぼやきとは無縁の環境が出来上がっている。 |
| 教員と職員がそれぞれ面談しデータベースを逐次更新 |
きめ細かな就職支援を支えるのが、他大学に先駆けてIT化に取り組んできた同大学ならではの教育環境である。全学生に無線LANカードを装備したノートパソコンを無償譲渡し、キャンパスのどこにいてもワイヤレスでインターネットに接続できる。シラバスの確認やレポート課題のチェックと提出、休講・補講情報の入手、各種申請手続きなどがすべてパソコン上で可能だ。学生専用のポータルサイト「Black Board」にアクセスすれば、自分の受講科目に合わせて必要な情報が自動的に見られるようになっている。
進路支援センターでは、このシステムを使って約1万6000社の企業情報をデータベース化し、提供している。求人情報が即座にキャッチできるほか、意中の企業に就職した卒業生や内定した先輩の就職体験記も読むことができる。
特筆すべきは、学生一人ひとりの活動情報が「進路支援カード」としてまとめられ、同様にデータベース化されている点だ。希望する業種、職種、地域などはもちろん、就職ガイダンスへの出席状況、ゼミ担当教員や同センター職員との面談内容、成績、会社訪問や受験状況、内定など、就職活動の記録が一元的に集められている。
このデータの収集は、就職支援が本格化する3年次後期のはじめに、やはりゼミ担当教員によって着手される。進路支援カードを全員に配付した上で、教員が面談。カードにコメントを記入して進路支援センターに戻す。次に、センターの職員が具体的な企業情報をもとにあらためて学生と面談し、その結果を反映させデータ入力する。ゼミに所属していないなどの理由でもれた学生についても、センターから電話でコンタクトをとって調査するなど、就職希望者全員の情報を確実に集める。
その後の就職活動の経過や結果は、窓口で職員が確認したり、学生に提出してもらったりして、逐次データを更新。内定を得た場合も、そこに就職を決めるのか、保留したまま就職活動を継続するのか、辞退して継続するのかなど、最終的な意思決定まで徹底追跡する。意思決定した学生には、後輩や活動継続中の学生のための体験記の執筆を依頼、そこでその学生のデータは完結する。
データのデジタル化によって、就職支援の現場でさまざまなメリットが生まれる。例えば、学生が進路支援センターを訪れた時に前回の担当者がいなくても、それまでの活動履歴をきちんと把握した上で対応できる。同センターの綱場忠治チームリーダーは、「就職支援では個人対応に勝るものはない」と強調する。「だからこそ、きめ細かな対応が可能になるデジタル化が必要です」。ゼミ担当教員の研究室でも、同様の就職支援ができる。紙ベースの記録では到底まねできない密度になるはずだ。
就職活動のプロセスを詳細に把握できるので、一人ひとりの希望や条件に対応した求人情報を携帯メールに直接送信することも可能になる。例えば、名古屋に本社がある企業が広島営業所で事務職を募集するという求人が来た場合、広島出身でUターン就職を希望している学生に情報提供する。「地元の企業は本学の就職支援システムについてよく知っているため、こうした地方営業所などの求人情報も送ってくれるのです」と綱場チームリーダーが話すように、地元企業との連携が、活動が難しいUターン就職の支援をも強固にしている。 |
| 毎年300社を訪れ最新情報を入手 |
企業との緊密な情報交換において重要な役割を担っているのが、12人の教員からなる就職委員会だ。出身の業界を中心に一人30社程度の担当を持ち、これに新規開拓分も含め、毎年2月に「企業開拓訪問」を実施。愛知、岐阜、三重、静岡の東海4県を中心に、東京や大阪も含め計300社くらいをまわる。その継続によって担当教員と人事担当者の間に信頼関係が築かれ、いち早く求人情報を入手したり、一般向けには公表されない詳細な内容について聞き込むことができる。
そこで得られた業界全体の情報を加味し、業務成績や過去の採用実績、求人を増やしている業界かどうかなども踏まえ、大学が優良企業と判断した場合には、なかなか内定がとれない学生に「ターゲット企業」として紹介することもあるという。 村井教授は「東海4県には堅実なメーカーが多いのですが、学生は知名度やイメージにこだわってなかなかそこに目を向けようとしません。活動に行き詰まった学生には、新しい視点を提供する意味でもターゲット企業を紹介するわけです」と説明する。
同大学では就職関連の支援プログラムにも力を入れており、その総仕上げとして毎年12月には、希望する3年生を対象に1泊2日の就職研修会を実施。就職希望者の半数にあたる約300人が参加、4グループに分けて行う。学生の希望が多い企業や採用実績の高い企業の人事担当者も泊まり込んで講演などで協力、ほかに個人面接や集団面接、集団討論などの訓練をする。
30年以上の歴史を持つこの研修会の運営は、就職が決定した4年生が担当している。「4年生は自分の経験を生かして、模擬面接などで遠慮なく鍛えてくれる。3年生はその洗礼を受けてようやく本気になります」（村井教授）。実際、研修会に参加した学生の就職率は参加しなかった学生に比べて明らかに高くなるという。
同大学の2002年度卒業生の就職率は94.2％。「本学の数字は、実際に就職した学生全員の情報を把握し、それに基づいて算出した正確なものです」と、綱場チームリーダーが胸を張った。 |
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