ベネッセ教育総合研究所
「教室の黒板」を出発点にしたeラーニング
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遠近法

「教室の黒板」を出発点にしたeラーニング
学習者のやる気がeラーニングの前提

 学習者がいつでもどこでも個別に学習できるコンピュータネットワークを利用した遠隔教育システムは、画期的な授業方式といわれ、大学や企業内のLANにつながれたパソコンにいち早く利用された。さらにWAN(ワイドエリアネットワーク=広域通信網)を使えば、従業員を1カ所に集めなくても研修などができ、授業の革命とさえいわれた。それは長い歴史を持つ「黒板を前にした対面的な教室」における一斉授業から、きめ細かく合理的な個別授業へと移行する姿が見えたからである。
 現在では、インターネット加入者を対象にした資格取得講座や語学学習などがこの遠隔教育システムによって展開されている。
 しかし、これらが比較的成功しているのは、遠隔教育システムの中でもWBT(Web Based Training)と呼ばれる方式に限られるといわれる。企業内教育や、必要性を感じた社会人が取り組む資格取得講座などの適用効果からだ。
 WBTでは、学習者は場所を選ばず自分のペースに合わせて学習を進めることができる。また、多くのシステムでは、学習の進捗状況はネットワークを通し随時データベースに登録されるので、受講者に対してきめ細かい管理・指導を行うことができる。
 しかし、これも学習者のやる気が高いことが不可欠となる。もともと興味があまりなかったり、内容に対する苦手意識がある場合には向かない。そのため、学生に強要するようなeラーニングではWBTでもうまくいかない。

「魅力あるコンテンツを豊富に」が成功のカギ

 そうはいっても、大学の授業をより効果的にしたい、あるいは補習授業として個別指導を行いたいというとき、eラーニングは魅力的だ。
 eラーニングのシステムプログラムも多く存在する。投資さえすれば、明日からでも大学のネットワークコンピュータで稼働させることは可能だ。しかし、eラーニングを導入している大学の多くが成果を上げていない。その理由は、学生への個別指導の必要性に迫られてeラーニングを安易に導入するケースが多いからだ。
 すぐに直面するのが、ネットに乗せる授業コンテンツの不足。次に直面するのが内容の魅力のなさその結果起こるのが、学生のeラーニング離れである。しかし千歳科学技術大学の場合、これらの課題をクリアした好例といえる。

TAの学習経験をアドバイスに生かす

 コンテンツ不足については、作成にあたって学外の協力者を得たことが大きい。その結果3000本を超すコンテンツが作られた。また、eラーニング研究会として中学・高校の教員が集まりやすい場をつくったことも成功要因としてあげられる。
 中身の魅力については、中学や高校の授業場面に立ち返って作られたことで、学生にとって飽きないで取り組める内容になった。雀部学長のいう「教室の黒板での授業をできるだけ忠実に再現しよう」という考え方からの出発である。最初にeラーニングシステムありき、ではなかった。
 さらにメンター(支援者)としての大学院生のティーチングアシスタント(TA)の活用も見逃せない。TAの効果は、「先輩なら聞きやすい」という学生の心理にマッチしていることだけではない。TAから見ると、「かつて自分がつまずいた個所と同じようなところで行き詰まっている学生が多い」ということが実によく見えるため、自分の学習経験をアドバイスに生かすことができる。また、コンテンツ作りには大学院生や学部生のアイデアもふんだんに盛り込まれているという。
 そして最大の成功要因は、理工系大学でコンピュータシステムの限界を知っている研究者が冷静に考え、eラーニングに過剰な期待や幻想を持たなかったことであろう。
 次年度は専門科目にもeラーニングの活用を始めるという。雀部学長は「専門科目を学ぶためにもeラーニングを活用しなければ、eラーニングそのものの魅力も半減してしまう」と言う。おそらく周到な準備段階とこれまでの経験を踏まえての構想である。その成果に注目したい。
(矢内秋生)


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