ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
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学生の授業評価が教員の処遇に直結

 新規参入の大学には、既存の大学にも参考になる取り組みが多い。最大の特色は、顧客である学生を第一に考え、その満足度を高める工夫が随所に見られることだ。
 例えば、仕事で忙しい社会人学生のために、昼夜開講制の導入はもちろん、授業ごとにメーリングリストを完備したり、2週間サイクルのカリキュラムを組むところもある。
 テキストや教材を毎年更新して、常に最新の情報を盛り込むなど、教育コンテンツのブラッシュアップに注意を払っているほか、出席できなかった授業を教材化して補習や復習に提供したり、時間外でも質問に応じるチューターやキャリアコンサルタントを配置するなど、学生のフォローにも力を入れている。
 ITの利用にも積極的だ。ネット上でグループ学習やディスカッションを行うことができるシステムや、ライブ授業を可能にしたシステムを独自開発するなど、双方向のコミュニケーションの向上にも配慮している。
 教員の教育力を高める仕組みにもユニークなものが多い。学生による授業評価の実施は当然だが、それを授業のたびに行ったり、教員がお互いの評価結果を閲覧できるようにする取り組みは、新規参入ならではといえそうだ。教育手法に関する最高責任者を置いたり、スタッフが教室を訪ねて授業の質をチェックするなど、教育の質の維持にも細心の注意を払っている。
 注目したいのは、これらの授業評価の結果が、教員の処遇に直接響く点だ。特に株式会社が設置する教育機関はその点を徹底しており、学生に支持されない教員は、最終的には契約を打ち切られる。学生を第一に考える姿勢がより鮮明になっているといえよう。
 学生募集でも様々な工夫がなされている。インターネットのみで広報を行ったり、学力試験ではなく適性試験と面接で選抜する方法、授業の教材を書籍やメディア教材として商品化することで認知度を高める方法、併設する諸学校のプログラムを紹介することで設置母体全体の学生募集につなげる方法など、興味深い事例が多い。
 時代に即応できる意思決定システムも特色の一つ。社会のニーズを早めにキャッチしたり、学生の要望をカリキュラムに反映させるスピードは早い。株式会社立大学では特区制度を最大限に利用して、大学院や大学を相次いで併設するなど機動力を示している。
 これらの中には、既存の大学では実施が難しいものもあるが、同じ高等教育機関として参考にできる点はかなり多い。例えば、学生の満足度を高める教育手法やITの活用ノウハウ、教員に対する教育力向上の活動などは、個々の大学の実情に合わせて十分に応用が可能だ。
 新しいタイプの高等教育機関の誕生は、既存の大学にとってライバルであることは間違いない。しかし、これまで見てきたように、その教育手法に学ぶべき点は少なくない。新規参入を自らの大学改革の追い風と捉え、さらなる教育の質の向上を図るべきだろう。それが高等教育全体の底上げにつながっていくからだ。


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