ベネッセ教育総合研究所
キャリア教育再考
IPUコーポレーション
チーフディレクター
松高 政(まさし)
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目的の設定と評価が重要

 前述の調査では、多くのキャリア関連授業に共通する内容として「大学生活の過ごし方」「話しことばコミュニケーション力向上」「職業選択の考え方と手順」など13項目を示し、それぞれ役に立ったかどうかを聞いた。13項目のうち「役立った」に一つでも○をつけた学生と一つも○をつけなかった学生とに分けて、3年次の進路意識を見ると、○をつけた学生の方が進路意識は高かった。つまり、学生が役立ったと実感する内容を含んでいる授業であれば、進路意識を直接的に高めているのである。
 これらのデータから、キャリア関連の授業やセミナーは、そのやり方によって効果に違いが表れるということが言える。
 前述の追跡調査の続きとして、現在4年生になっている対象者のうち35人に今年7月、面接調査を行った。入学時から就職活動までの進路意識や行動について聞き取りした内容の詳細は、10月号以降で紹介し、9月に発足する日本キャリアデザイン学会の設立総会でも発表する予定だ。この時に学生から話を聞いて強く感じたのは、キャリア教育は学生の意識や関心に関係なく、大学側の論理で進められているのではないか、ということだ。
 あまりふさわしくない例えかもしれないが、学生側からしてみれば、興味のない人から一方的に愛を告白されているようなものかもしれない。告白している側からすると、これで相手も自分のことを好きになってくれただろうと勘違いしているか、なぜ自分の愛が伝わらないのかと悩んでいるのかもしれない。
 早くからキャリア教育の必要性を唱え、進路指導において長く指導的立場にある文教大学の仙崎武名誉教授に、先日、キャリア教育の評価について話を聞く機会があった。小・中・高校を対象として指摘された、評価に必要な次の四つの視点は、大学にも十分当てはまると思われる。
(1)キャリア教育の理念・目標が教育活動全体でどう位置づけられているか
(2)キャリア教育推進のために校内組織・指導体制がどのように編成され、機能しているか
(3)指導計画、指導方法が適切であるか
(4)第三者による多角的、多面的評価を行っているか。
 仙崎教授は「評価なくしてキャリア教育なし」ということを盛んに強調され、この4点が考えられていなければ、そもそも評価のしようもないと指摘した。確かに、評価ができなければやりっ放しということになってしまう。
 キャリア教育の目的が何なのか明確にした上で、それに沿ったカリキュラムの策定と効果的な実践方法を考えるというプロセスが重要だ。その結果として、学生の進路意識、態度や行動がどう変化したかを検証しなければ、キャリア教育の成否は到底わからない。



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