ベネッセ教育総合研究所
教育力の時代
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教育力の時代―FDのその先へ―

第8回 名誉教授によるゼミや大学史など独自科目を導入した低年次教育
九州大学
 1992年の大学設置基準の改正によって国立大学では教養部の廃止が進んだ。九州大学では新たな低年次教育の柱として「全学教育科目」を導入。専門科目の担当教員を含む全学出動態勢を敷き、大学の歴史を紹介する科目で学ぶ意欲を高める、少人数ゼミで主体的な学習姿勢への転換を図るなど、九州大学の教養教育の理念を具体化するユニークな科目を設けている。
他学部の学生にも専門科目を開放

 九州大学の全学教育科目の目的は、
(1)高校で学んできたことを生かせる形で学習できるようにする
(2)社会の変化や学問の進展に対応できる感性や能力を養う
(3)学習意欲を高め、自ら学ぼうとする態度を育てる
(4)専門教育を学ぶための基礎能力を培う
(5)国際社会の一員としての自覚を醸成する
ことだ。
 これらの下で幅広い学びを提供する仕組みが教養教育科目で、その柱となるコア教養科目と、それを補強する個別教養科目で構成されている(図表)。学生は一定の枠の中から興味のある科目を選択し履修する。
図表 全学教育科目の構成

図表

 現在、低年次の全学教育は国立大学の多くに導入されている。しかし、教員にかつての教養課程と専門課程の区分意識が根強く残っている例も少なくない。九州大学では、2001年度には、大学教育研究センター(現・高等教育総合開発研究センター)が担っていた全学教育の実施責任を総長に移管し、運営組織として全学部の教授を委員とする全学教育機構を設置。一部の教授の間にあった「低年次教育は旧教養部やセンターの教員がやるもの」という意識の払拭に努めてきた。  機構の下に位置付けられ、全学教育の実務を担う高等教育総合開発研究センターの淵田吉男教授は、「全学教育はリベラルアーツ。単に幅広く学ぶということではなく、自分の専門を見つけるための教育だと考えています」と話す。九州大学では以前からくさび型カリキュラムを採用し、3、4年次でも全学教育科目が履修できる一方、1、2年次から専門科目が学べる。この仕組みを活用すべく、「総合選択履修方式」も導入した。これは一部の専門科目を他学部・学科に開放するもので、自分の専門以外の分野もある程度深く学びたいという学生の要望に応えられるという。
 個別教養科目の中には、20〜30人単位の少人数ゼミナールが設けられている。そのうち年間30講座、セメスター単位で開講されるゼミナールAでは、高校まで学んできたことを発展的に理解させながら、「話す」「書く」といった能力の向上に主眼を置く。各ゼミのテーマは、「知的財産の保護」「地球環境計画入門」「日本語をさかのぼる」など多種多様だが、すべて調査、発表、討論というプロセスを核としている。ゼミは定年退職したばかりの名誉教授が、3年任期で受け持つ。専門知識に加え、豊富な教育・人生経験に基づく視野の広さや人間性が、入学して間もない学生の学習意欲を引き出すには適しているとの考えからだ。
 「これらのゼミは、高校時代の『教えてもらう』教育から大学の『自分で学ぶ』教育に、姿勢を転換するためのもの。また、大学ではクラス単位で動くことが少ないため、対人関係がなかなかつくれない学生もいます。週1回、同じメンバーで密度の濃い関わり方をする機会をつくることによって、大学生活を軌道に乗せる支援をしたいという意図もあります」と、淵田教授は説明する。


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