ベネッセ教育総合研究所
教育力の時代
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自分の大学の成り立ちを教え、学ぶ意欲に結びつける

 全学教育科目では、大学史を教えるユニークな試みも行われている。「大学とは何か―ともに考える―」(前期)と「九州大学の歴史」(後期)である。国立大学で大学史を授業に取り入れたのは九州大学が初めてだったこともあり、他大学の注目を集め、現在では広島大学、名古屋大学などにも広がっている。
 大学史の授業の企画・運営は大学史料室が行っている。同室は大学の歩みを記録した文書などを所蔵。これらの貴重な史料を後世に残していくだけではなく、教育にも還元しようと、史料室所属の教員が提案。97年度に「九州大学の歴史」を開講した。学生から予想以上の手ごたえがあったため、学内の教育研究事業の一環として、大学全般の存在意義や使命にまで踏み込んだ「大学とは何か」も99年度にスタートさせた。
 史料室副室長の新谷(しんや)恭明教授は、「愛校心を植え付けるのが狙いではありません。九州大学の歴史から日本、世界の大学の趨勢にまで視野を広げていく中で、大学で学ぶことの意義や大学生としての自覚を持たせたいのです」と説明する。
「大学とは何か」では、「国際的視点からみた日本の大学」「帝国大学の歴史的役割と九州帝国大学の創設」「日本における大学の自治」「学際化と大学」「情報化社会と大学」などのテーマに沿って、比較社会文化、人間環境、経済学などそれぞれ専門分野の教員に担当してもらい、オムニバス形式で講義を展開。毎回授業に対するアンケートの提出も義務付けている。
 一方、「九州大学の歴史」は、「高等教育制度史」「九州帝国大学の創設」「戦前・戦後期の学生生活」などのテーマで少人数ゼミナールとして実施される。毎回15分程度学生に感想を求めたり、キャンパスに現存する古い建物を見学するなど参加型の授業を行う。
 これまで受講した学生からは、「自分の大学に関心を持つことができた」「大学で学ぶことの意義がわかった」といった感想が寄せられている。史料室の折田悦郎助教授は、「毎年、自分のいる大学・学部について『こういう成り立ちがあったのか』と、初めて知った喜びを書く学生が必ずいます。そうした喜びが、大学で学ぶ意欲につながるのではないか」と話す。
 ただ、開講して8年目を迎え、授業で私語も目立つようになってきたという。特に、大人数で行われる「大学とは何か」でその傾向が顕著だったため、今年度は履修登録の際に「授業に期待すること」を2000字程度のレポートにまとめてもらうというハードルを課し、本当に受講意欲があるのかを確認。レポートを敬遠して他の科目に乗り換える学生も出たため、受講生数は昨年度の150人程度から90人ほどに減り、授業態度も改善したという。今後は、授業の手法についても検討する方針だ。
 「最近の学生は、一般常識といえるようなことでも『習っていないから知りません』と平気で言う。大学史の授業から、大学生あるいは九州大学の学生としての自負が芽生えれば、知らないことを恥ずかしいと思い、自ら学ぶようになるのではないかと期待しています」と、新谷教授。大学生としての自覚、自ら学ぶ姿勢の育成という狙いは、高等教育総合開発研究センターの淵田教授の言葉とも重なる。
各学部に相談員を置き、相談室と連携

 このほか、九州大学では、「入学はしたけれど、何をしたいかみつからない」「単位修得がうまく進まない」「就職活動が思うようにいかない」といった学生に対して、学生生活・修学相談室も設置している。3人の臨床心理学の専門教員が常任相談員として常時待機し、履修の相談から就職などの進路や大学生活の過ごし方まで、幅広く対応する。毎週25〜30人、昨年度は延べ1370人の学生が訪れたという。
 専門科目の履修など専攻分野とかかわりの深い相談に対応するには各学部の協力も不可欠だ。そこで、学部の教員からもそれぞれ相談員が選出され、年2回の相談室会議への参加に加え、学部の相談窓口を担当。相談内容によっては、相談室から学部の相談員に学生との面談を依頼する。
 「最近では学部の相談員が認知され、直接そちらを訪れる学生もいます。相談内容によっては、相談室と学部が連携して対応することも増え、双方向のつながりもできつつあります」と、同相談室の吉良安之教授は言う。


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