ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
富岡賢治
群馬県立女子大学学長
富岡賢治
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【レポート1 群馬県立女子大学】
国際化教育と地域密着型の教育を両立
 群馬県立女子大学は2005年度、国際コミュニケーション学部を新設する。実践的な語学力の修得を目指し、ほぼ全員が留学できるシステムを設ける。地域を見直す学習活動を展開するなど、公立大学としての存在意義もあらためて模索する。

県民も女子大の存続に理解

 2004年度現在、全国で公立の女子大学は5校あるが、05年度は、統合などにより3校になる。その一つが群馬県立女子大学だ。創立は1980年。県内女子の進学率の伸び悩みや、女子受験生の県外流出を防ぎたいとの県民の要望に応え、「国際化社会に対応できる広い教養と豊かな情操を備えた人材の育成」を建学の理念として設立された。文学部に国文、英文、美学美術史の3学科を設けている。
 近年は、私立女子大学の共学化が相次ぎ、公立女子大学が同じ自治体の設置する大学に統合される例もある。特に税金で運営される公立大学が、対象を女子に限定することに対しては異論も聞かれる。
 富岡賢治学長は、「女子の能力を最大限に活用する方向にある時代において、国際的視野と社会的自立をテーマにした女子教育を行う本学は最先端を走っているといえます。従って共学化は考えていません」と話す。理由として、学生間で男女の役割が固定化されがちな共学と比べ、女性のリーダーを育成しやすいこと、勉強に集中できる環境を提供できることなどを挙げる。こうした説明に対し、県議会や県民からの否定的な意見は少ないという。「大学に個性が必要とされる中、自治体が現代的な女子教育を行うというのは、極めて大きな個性の一つだと思います」。
 入学者に占める県内出身者の割合は約3割。学費が安い公立の女子大学が少ないこともあってか、北関東や東北を中心に全国から学生が集まる。一方、卒業生の約6割は就職などで県内にとどまる。「県内の産業に貢献する女性を全国から集める形となっており、こうした実績も本学の大きな存在理由となっている」と同学長。
 法人化についても検討の予定はなく、当面は現状を維持する方針だという。「法人化は経費節減の効果は高いが、本学のような人文社会科学系の大学では経費の大半が人件費で、削減は限界に来ている。また、目標を掲げて収益を上げる構造もなじまない。高等教育のレベル向上という観点から見れば、慎重にならざるを得ない」。03年度の群馬県立女子大学の経常費に占める人件費の割合は82.0%と、76公立大学の中で4番目に高くなっている。

留学費用の半額を県が負担

 国際コミュニケーション学部の設置の狙いは、「原点に立ち返り、実践的な国際教育を徹底する」ことにある。最大の特色は留学支援だ。群馬県立女子大学では03年度から、留学費用の半額(2週間以上半年未満の短期留学は20万円、長期留学は40万円が上限)を奨励金として支給する「留学支援プログラム」を導入。これにより、毎年5、6人だった留学者が一気に101人(短期91人、長期10人)に増えた。
 04年度からは「海外研修支援プログラム」と名称を変え、語学留学だけでなく海外インターンシップや国際ボランティアも支給対象としている。05年度以降は、100人強の留学費用の半額を、入学定員60人の同学部用に確保しているため、初年度は希望者のほぼ全員が留学でき、1人の学生が複数回留学することも可能になる。
 プログラムの経費は県が全額負担する。同学長は、「海外で実践的な語学を学ぶというプログラムや新学部の理念が、大学の特色や地域のニーズに合致すると判断され、支出が認められた」と説明する。
 国際コミュニケーション学部の設置によって、国際化社会で活躍できる人材の育成を強化する一方で、地域に根ざした学習の支援にも力を注ぐ。群馬に関する幅広い学問を統合した「群馬学」を提唱し、その活動拠点の役割を担っていこうというわけだ。富岡学長は、「どの自治体も、地域文化の発信やアイデンティティの確立を打ち出している。しかしその核となるのは、群馬学のような地域に根ざした学習活動であり、公立大学に最もふさわしい教育研究だ」と語る。



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