ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
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■大学文化と行政文化
矛盾乗り越え原理を認め合い、新しい原理の確立を


 公立大学の場合、大学改革を進めるにあたって留意しなくてはならないことがある。それは、「大学文化」と「行政文化」の違いである。大学にとって「自由」は不可欠の要素である。教育や研究は、各人の自発性に根ざす活動であり、本源的に他者に強制されて行うものではないし、もしそうなれば成果も期待し得ないであろう。例えば、大学生は、高校までと違って自分で科目を選択し学習計画を立て学習する。教員は、自分の専門分野について誰かに命令されてではなく自主的に研究をするのである。このように教育、研究活動を柱とする大学にとって、自由とは非常に大事な価値観となる。
 一方、行政にとってのキーワードは「管理」「公平性・平等性」「手続き重視」である。一口に行政活動といっても、そこには権力行政から市民サービスまで様々なものがある。最近では、権力行政からサービス行政へと比重が移りつつあるものの、やはり行政の本質は「管理」(統治)ということになる。この管理志向の自治体が、自由を尊ぶ大学を設置運営するのだから、そこには当初からアポリア(難問)があるといえよう。この矛盾は、ある程度は大学全般に共通のものであるが、公立大学に特に強い特徴である。例えば、学会出席など教員の出張は、研究交流のため不可欠なものと教員は考える。しかし、行政は、出張旅費や食糧費の支出には非常に厳格に対処しようとするため、教員と事務局の間でしばしば衝突が起こる。また、研究費の使途についても同様のトラブルが多い。
 このような教員と事務の間の経費支出をめぐるトラブルの根底には、自由を尊ぶ「大学文化」と画一性を志向しがちな「行政文化」の衝突があるように思える。これは、どちらかが一方的に良いとか悪いといったことではなく、お互い双方の原理を認め合ったうえで、新しい原理を樹立しなくてはならないのだと思う。しかし、この大学文化と行政文化との矛盾は、法人化すれば原理的には解決することになる。設置自治体と大学の機能が同一化するからである。
 現在わが国の大学は、明治の学制施行、戦後の教育改革に続く第3の大学改革のまっただ中にある。この改革を正しく導き、個性ある優れた公立大学を実現するために求められるのは、明快な大学ビジョンとその実現のための大学アドミニストレーションを担う新しいタイプの大学事務職員である。



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