ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
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理事長兼学長の指揮で、迅速な意思決定を可能に

 公立大学法人という新しい運営組織の最大のポイントは、意思決定ラインが一本化されたことだ(図表)。
図表 大学組織図

図表

 法人の設置者は秋田県だが、県の関与は交付金の原案を作り県議会が議決することくらいで、大学の運営は大学経営会議(理事会)に一任されている。従来の評議会に当たる組織はなく、中嶋学長が理事長も兼ねることで迅速な意思決定と強力なトップダウン型指揮系統を可能にした。
 特筆すべきは、全教職員に任期制と年俸制を採用したことだ。教職員とも任期は3年間で、1年ごとに評価を行い、それによって次年度の年俸が決まる。
 教員の場合、増減はプラスマイナス20%以内と規定されている。前年度と比べ最大40%の幅でアップダウンすることから、透明性を確保するため詳細な評価マニュアルを整備した。査定には学生による授業評価を反映するほか、教員同士が学生と同様のシートで評価し合う制度も取り入れた。職員については、業務内容に応じたマニュアルに則って評価が行われている。教職員はこれらの条件を提示した上で公募した。
 教員はインターネットなどを通じて世界中から公募したところ、15人の募集枠に571人が殺到した。模擬授業や面接による審査を経て、最終的には予定を上回る人数を採用。推薦枠を含む41人のうち、外国籍の教員が6割強を占めている。
 職員は現在9人いる県職員以外は全国から公募した。授業がすべて英語で行われることから、職員も英検準1級以上を採用条件としたが、職種によっては最高で95倍の競争率に。職員の多くは大学運営の経験はないが、海外の大学のMBAを持つなど経営を専門に学んだ人材も多い。「大学全体が新しいことにチャレンジする意欲に燃えています。今後は本格的なアドミニストレーターの育成に力を入れていきたい」(中嶋学長)と考えている。
本格的なAOを組織し、独自の入試日程を採用

 入試制度でも、革新的な試みをいくつか実施している。学生を選ぶ専門家集団としてアドミッションオフィス(AO)を組織し、一般入試も含めて入試日程の設定から面接、合否判定に至る入試全般において責任と権限を持たせている。メンバーは学長以下の教職員と学外の入試の専門家からなり、入試について教授会は一切関与しない。
 暫定入学制度も導入。これは、合格者に準ずる学力がありながら合格に至らなかった者を暫定的に入学させる制度で、多摩大学学長時代に発案して実現できなかったグレゴリー・クラーク副学長の提案で決まった。04年度は、英語の成績が合格者よりも優れていた14人を特別科目等履修生として入学させた。学籍以外は正規生とまったく同じ条件で学び、成績に応じて2年次から正式に編入できる。中嶋学長は「特別科目等履修生であることを自ら公言して頑張っている学生もいて、周りが彼らを支える雰囲気ができています。成績も総じて良好」と評価している。
 さらに、国公立大学横並びの入試から脱却すべく、05年度には独自の日程で入試を行う。中嶋学長は「いい受験生を集めるため、できるだけの努力をしたい。法的にはまったく問題ない」と話す。前期A日程(3教科型)、前期B日程(5教科型)、後期日程の3回の一般入試に加え、推薦入学・AO入試・高校留学生選抜など特別入試も導入し、最大4回の受験チャンスを設ける。地方試験も札幌、仙台、東京、大阪、福岡で実施する予定だ。
 初年度は全国から志願者が集まり、実質競争率は35倍に達した。県内枠も設定されたが、県外者が圧倒的多数となった。
 県民の税金が投入される公立大学で県外の学生を教育することについて、中嶋学長は「世界や日本の知が結集した大学が地域に存在することは、長い目で見れば様々な貢献が可能になるはず」と語る。その一つとなるのが、開学3年目を目標に計画している国際コミュニケーションの専門職大学院の設置だ。高校教員の再教育、同時通訳者育成の場として、地域に貢献することを目指している。
 「本学の運営交付金は年間約10億円と、県立大学として見れば決して多くはない。それでも知恵を絞ればインパクトのある改革ができる。小回りのきく公立大学では、地域や現状に応じた工夫が必ずできると思います」。公立大学の可能性について、中嶋学長は力強く言葉を結んだ。


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